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新海誠、細田守、2人の天才をプロデュースする男

私はアニメ、ドラマ、映画等を見る際、その作家の作家性というものを常に意識している。
ただ、このての映像作品は、原作ファンからバッシングされることが多い。
原作というのは、漫画や小説といったところだね。
私が思うに、そりゃ漫画や小説の方がモロ作家性を出しやすい媒体じゃないかな、と。
だって、作者と作品を繋ぐものはペン一本であり、その作者の創造力を純度100%のままで紙に表現できるんだから。
ひとりで考え、ひとりで描き、ひとりで完成させる。
これに勝る純度はないさ。
いや、実際の商業ベースになると編集さんなどが絡んできて、だいぶ純度は落ちてしまうんだろうけどね・・。
まぁでも、映像作品になるともっとたくさんの人々の手が加わってくることになるわけで、それは作品最後のスタッフロールを見てるとホント痛感するよ。
5分経ってもスタッフロール終わらないほどなんだから・・。
ただ、例外的に「ほぼ全部ひとりでやりました」というアニメも稀にあり、それの最も有名な例がこれである↓↓

「ほしのこえ」(2002年)新海誠監督

これは監督、脚本、制作を全部新海さんひとりでやったわけで、オリジナル版は声優まで兼任。
さすがに音楽だけは誰かに任せたらしいけど、新海さんの作家性が限りなく純度100%で表現された作品だと思う。
パソコンソフトの進歩は遂にここまできちゃったか、と当時はみんな驚いたもんですよ。
で、この作品は多くの人が見てると思うけど、ぶっちゃけ暗い・・(笑)。
まぁ、これが新海さんの作家性の「核」なんだろう。
ところが2016年、ずっと内省的な作品ばかり作り続けてた新海さんが、急に「君の名は。」でPOPな作風へと脱皮するのよ。
急にどしたの?と、みんな思ったことだろう。
結果、興行収入は国内250億、世界では410億を超える特大メガヒットを記録した。
あの宮崎駿と肩を並べたといっていい。
この急激な変化は一体何?
思うに、この作品から新海さんに絡むことになった川村元気プロデューサーの存在がデカかったんじゃないか、と。
川村さんといえば、業界で有名なヒット請負人である。
「電車男」「デトロイトメタルシティ」「告白」「悪人」「モテキ」など、彼が手掛けた映画は軒並みヒットしてきたわけで。

川村元気プロデューサー

なんか、いかにも「業界人」ってビジュアルがイラっとしますね(笑)。
いかにもRADWIMPSをブッキングしそうなタイプである。
正直いって、私は
「プロデューサーなんてカネの工面さえ頑張ってくれればいい」
「制作にクチを出すような、監督の邪魔だけは絶対しないでほしい」
という考え方なんだが、どうやら川村さんはクチを出すタイプっぽい。
とはいえ、この人は実をいうと自身がクリエイターである。
小説家であり、脚本家であり、映画監督もやっている。
私は見たことないけど、「百花」という映画でどこかの国際映画祭の最優秀監督賞を獲ったらしいじゃないか。
そういや、「世界から猫が消えたなら」は見たことあるけど、あれ川村さんの小説が原作らしいじゃん。
めっちゃ内省的で、明らかに新海さん寄りの作風だったんだが・・。

アニメプロデューサーとしての川村さんは

・「君の名は。」2016年(新海誠監督)
・「天気の子」2019年(新海誠監督)
・「すずめの戸締まり」2022年(新海誠監督)
・「おおかみこどもの雨と雪」2012年(細田守監督)
・「バケモノの子」2015年(細田守監督)
・「未来のミライ」2018年(細田守監督)
・「竜とそばかすの姫」2021年(細田守監督)

など、とにかくヒット作を大量に輩出し続けている。
新海誠&細田守というふたりの天才を抱えており、宮崎駿を擁する鈴木敏夫プロデューサーに対抗できるのはおそらく彼だけだろう。

映画「ドラえもん のび太の宝島」

その一方、脚本家の彼が

・「ドラえもん のび太の宝島」2018年(今井一暁監督)
・「ドラえもん のび太の新恐竜」2020年(今井一暁監督)

という2本のアニメ脚本を手掛けていることをご存じだろうか?
ちなみにだが、「のび太の宝島」は劇場版「ドラえもん」シリーズ興行収入最高記録を更新している。
「のび太の新恐竜」は運悪く、コロナ渦の影響で客足が伸びなかったようだけど、これも作品としての評判は上々である。
川村さんの脚本の特徴は、この2本を見ればご理解いただけると思う。
結構ベタで、たとえ設定が破綻してようと勢いで強引に畳んでしまう感じ?
あと、やたら音楽でエモさを強調してくる。
「宝島」では星野源、「新恐竜」ではミスチル
新海誠の時は、RADWIMPS
あと、TVアニメでは唯一「血界戦線」シリーズのプロデュースをしてるんだが、ここではBUMP OF CHICKENが強く印象に残っている。
おそらく川村式ヒット法則の中に、音楽の要素はかなりのウェイトを占めているんだろう。

「バブル」(2022年)

さて、ここで川村元気プロデュース作品の中でも、数少ない失敗例をひとつご紹介しよう。
映画「バブル」(2022年)だ。
これ、なかなか凄いんだよね~。

企画・プロデュース⇒川村元気
監督⇒荒木哲郎
/「進撃の巨人」「甲鉄城のカバネリ」「DEATH NOTE」
脚本⇒虚淵玄/「魔法少女まどか☆マギカ」「Fate/Zero」「PSYCHO-PASS」
キャラデザイン⇒小畑健/「DEATH NOTE」「ヒカルの碁」「バクマン」
音楽⇒澤野弘之/「進撃の巨人」「甲鉄城のカバネリ」「ギルティクラウン」
制作⇒WIT STUDIO/「進撃の巨人」「甲鉄城のカバネリ」「SPY×FAMILY」

もうね、めちゃくちゃ濃いメンツが揃ってるんですよ。
普通、このメンツなら絶対売れると思うじゃない?
いや、全然ダメだったんだ。
興行収入は1億6000万ほど。
大赤字だろう。
じゃ、なぜこの作品はコケたのか?
早い話、才能ある人たちがあまりにも多すぎて、表現が渋滞したんだよ
まず、本来ここで軸になるべきは実績のある荒木哲郎⇔WIT STUDIO、この「進撃の巨人」軸をメインに据えるべきだろう。
この軸はアクションの表現が日本で最も上手いところなんだし、それこそ「進撃」の立体機動っぽい疾走感あるやつを思う存分やらせればいい。

「バブル」

なるほど、それでモチーフにしたのが競技としての「パルクール」ね。
まぁ、そこまではいいとしよう。
ただね、どうも「ボーイミーツガール」や「泡(バブル)が浮かんでる気候現象」というところに、新海誠っぽさというか、「天気の子」っぽさを感じてしまう。

東京全体に泡が浮き、重力異常が起きているという設定

・・これ、どう考えても川村さんの色でしょ?
まぁでも、そこまではギリギリいいとしよう。
問題は、そこから発生する妙に小難しいSF要素だよ。
たとえば、こういう会話が作中に出てくるんだ。

「世界は、崩壊と再生を繰り返してるよね。
集まって、爆発して、散らばって、また集まる。
私たちの銀河も、確か45億年後に、アンドロメダ銀河とひとつになるんだって。
そしたらまた爆発して、また・・」
「散り散りになるってこと?」
「そう、そして私たちの体を作る元素はいずれまた集まって、別の星の材料になるの。
渦は、銀河にも台風にも、生体分子の構造にも現れる、生命の決まったフォーム」

こういう会話、めっちゃ虚淵玄っぽい(笑)。
「渦」というのは「泡」と並び、この作品の重要なモチーフになってるんだが、「渦」という表現自体が「Fate」っぽいし、そのメカニズムの「円環」は「まどマギ」っぽいし。
こういうのって、「ボーイミーツガール」のファンタジー的世界観には正直合ってないと思うんだわ。
う~ん、なんていうかな、荒木さんも川村さんも虚さんも頑張って各々に色を出してるにせよ、それがうまいこと噛み合ってないというか、いいところをむしろ消し合ってるというか・・。
で、結局のところ冒頭の話の戻るんだが、新海さんが当初ひとりでアニメを作ってたのって、つまりそういうことでしょ?
自分の核になる色だけは、やっぱ消されたくないんだよね。

まぁ、そうはいうものの、「バブル」、まだ見てない人は一回ご覧になってみてください。
腐っても荒木哲郎+WIT STUDIO、腐っても虚淵玄、澤野弘之、小畑健。
やっぱ、それなりに見どころ多いのよ。
映像は、めっちゃ綺麗だし。
私としては、今後も川村元気の絡むアニメはチェックし続けていこうと思ってます。


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