「ひぐらしのなく頃に」ここから鬱がエンタメになった
今回は、アニメ「ひぐらしのなく頃に」について書いてみたい。
2020年には「業」、2021年には「卒」という新編が制作されたが、私の中で「ひぐらし」といえば2006年、2007年の原典である。
これを初めて見た時の衝撃は凄かったな~。
えっ、こんなの地上波で放送していいの?と思ったもん。
実際、このアニメの影響だったかはともかく、これの内容と酷似した殺人がどこかで本当に起きたらしく、一部の放送局が「ひぐらし」放送を自粛したらしいね。
怖い怖い・・。
思えば、これが放送された2006年というのはアニメ界にとって大きな転換期だったんだよ。
というのも、この年はかなりエポックメイキングな作品が多かったわけで、
・涼宮ハルヒの憂鬱
・コードギアス反逆のルルーシュ
・Fate/staynight
・うたわれるもの
・ゼロの使い魔
などがあり、こうした豪華ラインナップの中でも「ひぐらし」は全くヒケをとらない存在感を放っていた。
この物語の舞台は雛見沢という山村で、それこそ「のんのんびより」みたく学校は中学生と小学生がひとつの教室を共有するほどの過疎である。
のどかな村に見えるものの、でも実をいうとこの村には深い闇があった、という不穏な展開に・・。
いうなれば、90年代に一世を風靡した「ツインピークス」に近い。
もともと、田舎とミステリー/ホラーは相性がいいものである。
横溝正史の「金田一耕助」シリーズなんてそうだろ?
探偵・金田一が赴くのは大体が田舎で、連続殺人事件の裏には必ず村の闇が絡んでたもんさ。
田舎というのは、都会より古い因習に縛られてたりするもんである。
思えばGHQの農地改革が敢行されるまで、そこには地主⇔小作農の関係がずっと長いことあったんだからね。
その名残りか、「〇〇家の影響力は絶大」という村は今でもあったりする。
雛見沢にも、御三家というのがあるわけで。
そういや、京アニ「氷菓」でもヒロインの「私、気になります!」は豪農の跡取り娘で、村では姫君扱いされてたっけ。
法治国家の日本では都会も田舎も差はないというのが表向きだが、でも実際は法より〇〇家の方が強い、という村があってもおかしくない気がするわ。
田舎は人の入れ替わりがない分、どうしても空気は保守的になるし。
「のんのんびより」も子供目線で描いてるからほのぼのしたものになってるけど、れんげたちの目の届かないところではドロドロした村の闇が必ずあるはず。
【田舎=毒されていない善人ばかりのコミュニティ】って、そんなのは都会人が抱く幻想にすぎない。
「ひぐらし」では、園崎家というのが暴力を背景にして村の治安を守ってるという構図らしいぞ。
物語は、途中から風土病「雛見沢症候群」の裏に国家機関が絡んでることが発覚し、展開はだんだん荒唐無稽なものになっていく。
私としては、もっと本筋を「村の闇」に絞り込んでほしかったけどな~。
「ひぐらし」の後、2008年に「H2O」というこれまたゲーム原作のアニメが作られたんだが、こっちはホラー要素抜きで、ただひたすら「村の闇」を描いた内容だった。
これも「ひぐらし」に劣らず、なかなかの衝撃作だったわ~。
作画やプロットに色々ツッコミどころはあるものの、田舎をキモく描いた点ではこれを超えるアニメはないんじゃないだろうか?
ぜひ、「のんのんびより」とセットでご覧いただきたい。
なんせ、この作品のメインヒロインの境遇がなかなかエグいから。
間違っても、「にゃんぱす~」と挨拶できるような境遇ではない。
メインヒロイン、男たちからグーで殴られてます・・。
これは村の村長公認の虐待であるがゆえ、学校の先生も黙認してるし、生徒たちは罪悪感なくイジメてるし、生徒たちの親は彼女の家に放火したみたいだし、閉鎖的なムラゆえに虐待に参加しなければ逆にマズい、みたいな空気である。
虐待の理由は明確、かつて村民から搾取してた極悪地主の家系の子だからであり、いわば禍根、復讐。
村民は、親の仇を子供にぶつけてるわけだ。
なぜか、警察が介入する気配もない。
怖いよね、ムラって。
今は「村八分」という言葉は放送禁止用語になってるらしいが、これは江戸時代にあった制度で、秩序を乱す者を村民が一致団結して制裁するシステムが実際あったわけよ。
おそらくそこには法など全く関与なく、ただ村の空気みたいなもので制裁を決められるんだろうから、村民としては常に悪目立ちせず、日々おとなしく生きていくしかない。
江戸時代の農民の人口比率は日本全体の85%だったというし、つまり大多数の日本国民がそうだったということね。
日本人の「おとなしさ」「謙虚さ」って、案外こういうところからきてると思うんだけど・・。
でさ、村民たちは村八分になるまいと日々仮面をつけて生活してるわけで、そうするとどんどん外面と内面がズレていき、ある日何かがプツンと切れた瞬間、まさに上の画像みたいなことになっちゃうわけよ。
いえいえ、こういうのは全て雛見沢症候群という病気のせいですから、悪いのは病気であって本人は何も悪くありませんから、というエクスキューズが一応はあるんだけど、本当に全て病気のせいだろうか・・?
そういう単純なものではない気がするのは、私だけ?
とりあえず、この「ひぐらし」は、
・ループ系アニメの元祖
・田舎アニメの元祖
・鬱アニメの元祖(ヤンデレの元祖)
といえる作品だろう。
後々のアニメに与えた影響は、極めて大きい。
たとえば次のような作品群は、「ひぐらし」の延長線上にあると考えていいと思う。
「STEINS;GATE」、これは「ひぐらし」のバッドエンド連鎖を継承した作品である。
「Reゼロから始める異世界生活」、これは「ひぐらし」の死に戻りという
コンセプトを継承した作品である。
「Another」、これは「ひぐらし」の田舎の惨劇を継承した作品である。
「未来日記」、これは「ひぐらし」のヤンデレ系を継承した作品である。
「おおかみかくし」、これもまた「ひぐらし」と同系統といえる作品だっただろう。
「ひぐらし」が放送された2006年時点では、まだ深夜アニメが黎明期ゆえ、色々と「子供向けじゃないアニメの形」を模索中だったと思うんだわ。
そういう時に、この作品が出てきて
「あ、ここまで表現してもいいんだ?」
と、いうなればコロンブスの卵になったわけよ。
まあ、途中で放送を中断したところもあるらしいけど、一方で最後まで放送した局も数多くあったわけで。
この作品が、ひとつの「基準」になったというのはあるだろうね。
間違いなく、これは日本アニメ史におけるエポックメイキング的作品。
そういう意味合いも含めて、皆さんにはぜひ「ひぐらし」は旧作の方を見てもらいたい。
そりゃ2020~2021年の新作より作画は劣るものの、逆にその作画の拙さがキャラクターのキモさをむしろ強調していて、これはこれで、逆にありなんですよ。
特に竜宮レナの作画崩壊は、ホントにキモチ悪い・・。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?