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樋口真嗣+岡田磨里の化学反応「ひそねとまそたん」という傑作

今回は、「ひそねとまそたん」について書きたい。
これは文化庁メディア芸術祭で優秀賞をとったほどの作品なんだが、その割にいまいち知名度が低い隠れ名作である。
一般的には、「あの樋口真嗣が手掛けた初めての完全オリジナルアニメ」という触れ込み。
出たよ、樋口真嗣!
元ガイナックスでいつも庵野秀明の周りをウロチョロしてる樋口さんだが、私のイメージの中では、実写版「進撃の巨人」という恐るべき迷作を撮った監督、とインプットされている。
あれは、酷かったね~。
これ見て諌山先生、怒らなかったんだろうか?

実写版「進撃の巨人」に出てきた巨人

アニメ版の点数が仮に10だとしたら、実写版の点数なんて1未満だよ。
そのぐらい見るに耐えないものだったのに、なぜか樋口さん、これを撮った翌年に日本アカデミー賞で最優秀監督賞を獲ったんだよね。
そう、「シンゴジラ」さ。
ただしこれは庵野秀明との共同監督であり、撮影現場で実権を握ってたのはほとんど庵野さんだったという。
とはいえ、庵野さんのあまりの強権な監督っぷりに現場のスタッフさんたちが皆キレてボイコットが起きかけたらしく、険悪な両者の間を往復して場をおさめてくれたのが樋口さんだったらしい。
彼がいなければ「シンゴジラ」は制作中止になってただろう、ともいわれていて、つまり彼って監督としてはあれだけど、その人格は十分に称賛できるもののようだ。
逆にいえば、彼だからこそ庵野さんみたいなややこしい人とも長年付き合うことができてるのかも?
そう、樋口さんは「いい人」なんだよ。
「いい人」だから色んな人の意見を聞きすぎた結果、「進撃の巨人」は迷走したともいわれている。
つまり、彼自身にはさほど作家性はないのかもしれない。
だから「シンゴジラ」がいい例だが、むしろ彼は強烈な作家性を持つ相棒と組んだ方が、結果的に良い作品ができるってことじゃないか?
ということを前提にして、話を「ひそねとまそたん」に戻そう。
じゃ、この作品では誰が樋口さんの相棒になったかというと、実は岡田磨里なんですよ。
この作品は、原作が樋口+岡田の共同執筆となってるんだ。

しかし、異色の組み合わせだよね。
青春ドラマのスペシャリスト+怪獣特撮のスペシャリスト。
で、この作品はそのまんまのストーリーなんだから笑ってしまう。
上の画の女子たちは自衛隊員で、Ⅾパイ=ドラゴンパイロットである。
そう、なぜか自衛隊が秘密裏にドラゴンを飼ってるという設定なのよ。
普段、ドラゴンが飛ぶときは金属の外郭で体を覆ってて、一般人には航空機にしか見えないんだけどね。
またⅮパイのドラゴンの乗り方がユニークで、ドラゴンがパクっとⅮパイを口から飲み込むのよ。
Ⅾパイはドラゴンの胃の中で操縦する感じで、よくもまぁこんなヘンテコな設定を考えたもんだな。

ドラゴンに乗る時
ドラゴンが飛んでる時
ドラゴンの体内
降りる時は嘔吐という形ww

自衛隊機=実はドラゴン、というのは樋口さんのアイデアらしい。
でもって樋口さんの岡田さんへのリクエストは、「花咲くいろは」自衛隊版だったそうだ。
ムチャブリやなぁ・・。
だが岡田さんはうまいことコメディタッチで話をまとめていて、そのへんはさすが職人。
ちゃんと青春ドラマになっている。
Ⅾパイメンバー全員が非リア充、というのも岡田さんならでは。

エンディングは5人が曲に合わせてダンス

これ、エンディングが可愛いんですよ。
久野美咲、黒沢ともよ、河瀬茉希、名塚佳織、新井里美の5人のキャストが唄ってるんだが、なぜか歌詞が全部フランス語(笑)。
特に一番笑ったのは第7話のエンディングで、なぜかその7話だけ新井里美のソロ(笑)。
新井さん独特のあの声でヘタクソに唱ってて、思わず爆笑してしまった。

ヒロイン・ひそねは天然すぎて頭おかしいレベル

基本、これはコメディなんだよね。
ただし、そうはいっても岡田磨里作品、終盤に向けてだんだんとシリアスモードに入ってくる。
そもそも、何で日本の自衛隊は戦争するわけでもないのにドラゴンを秘密裏に飼っているのか?
その謎が明かされると同時に、「マツリゴト」という日本が古来から行ってきた秘密の儀式の存在が明らかになる。
しかもその謎の儀式、国を守る為に人柱となる生贄が必要とやら?

「君の名は」っぽい女子も出てくる

最終回でヒロイン・ひそねは予想外の行動をとるんだが、なんつーか、この子の破天荒は最初から最後まで一貫してるんだよね。
ある意味全然成長してないというか、でも最初から最後までブレないその頭のおかしさが、最後の悲壮感ある場面では逆に頼もしく思えた。
おそらく日本で最も命令系統が厳しい組織であろう自衛隊においても、頭のおかしいひそねにはそういうのが通用しないんですよ。

なぜか終盤はセカイ系になってしまった「ひそねとまそたん」

画のタッチがシリアスならあれだが、見ての通り、ユルいタッチの画だからね。
でも、逆にそこがよかった。
死んだと思った奴が実は生きてたというノーテンキなオチでも、このユルい画だと妙に許せるのよ。
やっぱこの画のタッチは、ノーテンキなオチがよく似合うわ。

ただ、樋口真嗣はこの「ひそねとまそたん」以降、また特撮の世界に戻ってアニメとはやや距離をとってるようにも見える。
そういや、前回の日本アカデミー賞でまた優秀監督賞にノミネートされてたっけ。
またしても庵野秀明と組んだ、「シンウルトラマン」だね。
庵野さんも「シンウルトラマン」の後は「シン仮面ライダー」というのまでやってて、いまや完全に実写映画の人だ。
このへんの世代の人って、特に円谷プロの実相寺昭雄に憧れが強いと聞く。
幼い頃にアニメ見て育ったというよりは、特撮モノを見て育った世代だろうからね。
「エヴァンゲリオン」見てると、そのへんは何となく感じるよ。

「エヴァ」でよく出てきた、電車内での対話シーン(精神世界)
多分、その元ネタは実相寺昭雄が撮った「ウルトラマンセブン」の有名なこのシーンでしょ?

上の画像はメトロン星人というやつで、特撮マニアの間では特に愛されてるキャラらしい。

メトロン星人が出た伝説の神回「狙われた街」
こういう映像美は、いかにも「エヴァ」っぽいね

そう、庵野さんや樋口さんがやりたいのって、実相寺昭雄なのよ。
よって彼らの本命は、やっぱ実写なのかもしれないね。
ちなみに、岡田磨里は子供の頃にどういうものを見て育ったのかというと、以前にインタビューで「ミンキーモモ」や「クリィミーマミ」など魔法少女アニメを挙げていた。

ミンキーモモ(右)とクリィミーマミ(左)

明らかに、ベクトルが実相寺昭雄の真逆だよな・・(笑)。
いや、それでいいのよ。
明らかにベクトルが違う樋口さんと岡田さんが組んだからこそ「ひそまそ」は面白い作品になったんだと思うし。
また近いうち、このふたりが組むことを心密かに期待してます。


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