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「冴えない彼女の育てかた」なぜ加藤恵に破壊力があるのか?

世の中には、「アニメが苦手」という人が一定数いるものである。
私の知り合いの中にもそういう人がいるんだが、よくよく話を聞いてみるとどうやらアニメならではキャラクター属性に嫌悪感があるっぽい。
それって一体何なのかというと、最も分かりやすいところでいえばツンデレだったりするわけよ。
アニメファンの私からすれば「そんな基礎的な部分でつまずかれても・・」と思うところなんだが、知人いわく「現実には、あんな人間おらんやろ?」ということらしい。
なるほど。
ちなみにだけど、「ツンデレ」というのは06年の流行語大賞にノミネートされた言葉であり、同年発売の「現代用語の基礎知識」にも掲載されている。
アニメ界にて「ツンデレの女王」の異名をもつ釘宮理恵は、ちょうどその頃からヒロインとして活躍し始めている。
05年「灼眼のシャナ」、06年「ゼロの使い魔」、このふたつの作品が「ツンデレ」の雛型になってるのかもしれん。

「灼眼のシャナ」ヒロインのシャナ
「ゼロの使い魔」ヒロインのルイズ

シャナみたいな子は普通にいると思う。
メロンパンが好きで、ちょっと愛想の悪い子なんて世の中にたくさんいるだろ。
それより問題は、ルイズの方だ。
手に鞭を持って「バカ犬!」と罵倒し、おまけに髪の色がピンクの女子などこの世に存在するわけがない。
しかしアニメに毒されてしまってる私のような人種は、こういうのを普通に受け入れてしまってるわけさ。
「だってアニメだし」というエクスキューズで。
ところが、そういうエクスキューズのない人たちにとってみれば、ルイズは頭のおかしい子に他ならない。
言われてみれば、確かにそうである。
もし「ゼロの使い魔」を実写化するとして、ルイズを演じる女優がピンク髪で「バカ犬!」と叫びながら鞭を振ってる姿を想像すると、そこには違和感しか感じないだろう。
こういうのこそ、アニメならではのキャラクター属性というんだ。
基本、私は釘宮理恵が分水嶺だと思う。
釘宮理恵を受け入れられる人なら普通にアニメファンになれる人だし、逆にアレルギー反応を示す人なら多分アニメは根本的に無理である。

個人的に、釘宮さんの最高傑作は「とらドラ!」

しかし、何もツンデレは釘宮理恵が発案したものではない。
じゃ、95年「エヴァ」のアスカ・ラングレー?
いや、多分ツンデレの歴史はもっと古いし、そのルーツを辿れば80年代の美少女ゲームにまで行き着くと思う。
ただし、その頃の属性などはゲーム愛好家の中だけのマイナーなものだっただろうし、そこに市民権を与えたのはやはりアニメ、特に00年代以降には美少女ゲームをアニメ化する機会が増えたことが大きいよね。
やがてツンデレのみならず、語尾に「ですわ」をつけるような令嬢キャラ、一人称が「ボク」のボクっ娘キャラ、「お兄ちゃん・・」と媚びた声を出すロリキャラ、「エヴァ」の綾波レイを雛型にしたっぽい青髪無口キャラなどにも人気が出てきた。

さて、今回取り上げたいのは「冴えない彼女の育てかた」(2015年)である。
ハーレム系ラブコメの名作だよね。
当然、作中には様々な属性の女性キャラが出てくる。
ただ、この作品の最も重要なポイントは、これがフジテレビ「ノイタミナ」枠で放送されたという事実である。
皆さんご存じの通り、「ノイタミナ」はターゲットをコアなアニメファンとせず、むしろ「月9を見るような人たち」、主に女性層、それもピンク髪で鞭を振って「バカ犬!」と罵倒するようなキャラにアレルギー反応を示す層こそが真のターゲットなんですよ。
そういう枠にハーレム系ラブコメなんて、かなり難易度の高い試みである。
しかし結果として、意外にもこの作品は大成功。
私もこれ見てて、「ああ、ノイタミナうまいなぁ」と率直に感心したわ。

「冴えない彼女の育てかた」キャスト一覧

「冴えカノ」は上の画の安芸倫也(cv松岡禎丞)が主人公で、彼は高校生ながらも美少女ゲームのクリエイター(コミケに出品する類いのやつね)。
よって、自分の身の周りにいる女性たちを全てキャラの「属性」で解釈してしまう変なクセがついている。
たとえば、詩葉先輩は「お姉さん」「黒髪ロング」「ドS」。
英梨々は「幼馴染み」「金髪ツインテール」「ツンデレ」。
美智留は「バンド女子」「ショートヘア」「ボーイッシュ」。
出海は「後輩」「お団子ヘア」「」。
みんなゲーム・アニメに出てきそうなテンプレの属性なんだが、唯一の例外が加藤恵で、彼女だけは属性の輪郭がぼやけている。
美人だけど特徴はないし、分かりやすくツンデレのようなキャラ立ちはしてないし、しいていうなら「普通」。
つまり、このアニメのタイトル「冴えない彼女」とはこの恵のことなんだが、倫也は敢えてこの恵を新作ゲームのヒロインモデルに設定して、彼女と一緒にシナリオを作っていく、というのがこの作品の大まかなプロットである。

加藤恵

このヒロイン・恵は非オタクであり、ゲームにもアニメにも精通してない、いわば「ノイタミナ」視聴者層そのまんまの設定なのね。
つまり、これを見てる女性視聴者たちにとっては【恵=自分】。
このアニメは、まさに自分を恵に置き換えてプレイするRPGなんだよ。
何もオタク知識のない自分に、倫也が懇切丁寧に知識をレクチャーしてくれるという、いわばオタク入門ゲーム。
・・あ、言っとくけど我々男性陣はそんな見方してないからね?
私は詩葉先輩がタイプだったから、先輩いいな~と思いながら見てたわ。
だけど「冴えカノ」のいいところは、詩葉先輩をはじめとする属性キャラもアスカ&綾波的な過剰なものではなく、釘宮理恵的なものでもなく、そこがちょうどいいサジ加減なのよ。
その証拠に、キャラは誰ひとりとしてピンク髪や青髪がいないでしょ?
恵梨々は金髪だが、彼女はハーフだからしようがない。
こういう絶妙のサジ加減がいかにもフジテレビであり、きっと実写化も視野に入れてたんだと思うなぁ・・。

で、興味深いところは、オタク系男性陣に「冴えカノ」キャラの人気投票を実施したところ、実は加藤恵がブッチギリで人気1位だったこと。
へえ、意外だな、と思った。
これほど属性がはっきりしない地味キャラなのに・・。
でも1期はともかく、確かに2期からジワジワと恵の良さが理解できるようになってくるのは事実。
というか、恵のキャラに既視感を覚えるようになってくるんだ。
その既視感とはアニメやゲーム由来のものではなくて、リアルの学生時代のものである。
ああ、こういう子、確かにクラスにいたよなぁ、と。
恵の他のキャラと決定的に異なる特異性は、「何を考えてるのかよく分からない」というものである。
だけど、逆にそれがリアル。
だってさ、リアルの生活って「相手が何考えてるのかよく分からない」こそが基本じゃないか?
自分の学生時代に好きだった人のことを思い浮かべてみてくれ。
それこそ何を考えてるかなんて、全く分からなかったと思わない?
ある意味で、加藤恵である。
おそらく「冴えカノ」における加藤恵人気は、美少女ゲーム由来ではなく、アニメ由来でもなく、明らかにリアルの思い出からきてるものなんだよ。
「冴えカノ」は、そこが凄い。

対して釘宮さんのアニメは、キャラが感情豊かでとても分かりやすい・・

それにしても、ラブコメ作品でこれほど「ハーレム」が取り沙汰されるのは日本ぐらいなものである。
私はハリウッド映画、韓流ドラマでもラブコメを割と見る方なんだが、基本あっち系はコジれても三角関係が関の山である。
間違っても、数名が同時に主人公に想いを寄せるなんて有り得ない。
我々は、これが「日本独自のカルチャー」だということをきちんと認識するべきだ。
思えば、我が国は最古の文学が「源氏物語」という平安ギャルゲーともいうべきハーレム小説だったからね・・。
そういうクリエイターのDNAが脈々と受け継がれて、現代のサブカルを形成してるんだろう。
実は、紫式部も「属性」でキャラを作るクリエイターだったらしく、
藤壺⇒お姉さん系、ツンデレ(cv林原めぐみ)
紫の上⇒ロリ、清純
(cv早見沙織)
六条御息所⇒ヤンデレ
(cv花澤香菜)
葵の上⇒正妻、塩
(cv坂本真綾)
明石⇒田舎女子
(cv悠木碧)
などなど、それこそ安芸倫也ばりのギャルゲー資質があった様子。
歴史オタの間では【式部=百合】説は鉄板であり、彼女は乙女ゲームでなくやはりギャルゲーの人なんですよ。
だから皆さん、ここはひとつ文学を嗜む気持ちで美少女ハーレム系アニメを見ましょう。
入門編は、やはり抵抗の少ない「冴えカノ」がベストです。


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