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小説とか詩歌とか

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幻視者になりたい。
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#現代短歌

【短歌】夢をみていていいですか

【短歌】夢をみていていいですか

春までは夢をみていていいですかピントをちょっとぼやかしたくて

手記としてアコーディオンがひらかれるモラトリアムにながれた曲を

紙で切る傷あとみたいな雨がふる金魚のいない鉢にめがけて

潔癖な経験しかないひとびとの夢が集まる標本室に

たんぽぽの血が白かったと知るときの昔の自分に会えるとしたら

【短歌】私はここです

【短歌】私はここです

雨粒にうたれて跳ねるあれはそうハープになれず揺れている糸

ベッドから起きあがるとき柩から起きあがるのをちょっと感じる

病室で誰かが死んだ音がするとても静かにナースが吐く息

凍るって苦しいだろう胸もとにドライアイスを置かれる罰は

広大なネモフィラ畑のような火に身体はそっと燃えてってほしい

世界中こうもり傘の夜のなかおやすみだれか私はここです

【短歌】鎧

【短歌】鎧

切り抜きで推しの勇姿をくりかえしみる休日のしんどい朝に

咀嚼音だけがほんものヴァーチャルの世界に秋の匂いがしている

推したちが今日もてぇてぇドット絵の花火があがるのきれいと思う

虚構の姿だから喋られることたくさんあって息継ぎをする

人類総二次元時代 声帯のぬくもりだけで射精するひと

いつもどおりのつまらない自分だし 仮想でまとう鎧は重い

脱ぎ捨てた鎧をただしく弔ったひとにだけ吹く追い風

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【短歌】光にはじまり光におわる

【短歌】光にはじまり光におわる

まぶたから仄かに透けるひとみにも光は当たり初夏がくる

男でも女でもいたくない、なら海がいい。白い梢に成り果てるまで。

水泡はふいに破れる新しい皮膚のつめたく覗いていること

美しく死ぬことはない美しく見せかけられるひとがいるのみ

Scalpel それはあなたに開かれるためだけにある光なのです

【短歌】みずいろの沓 他

【短歌】みずいろの沓 他

みずいろの沓

これからもきつと弾くことはないだらうピアノのペダルをぐつと踏みこむ
くるぶしはじつは貝殻、ひそやかにみんなむかしは人魚であった
おそろいの靴下こっそり入れ替えるわたしはあなたになりたくている
みずいろの沓を捨てつつ白鳥は僕の指など忘れて飛べよ
木漏れ日が足跡(そくせき)めいて揺れている妖精たちの生まれる午後だ

(天鵞絨企画「足元からこもれび」参加作品)

血脈を違えつづける少年の

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【短歌】無垢それだけに

【短歌】無垢それだけに

蜂蜜の切れ目がくるのを待っているひとつながりの静かな朝に
(『まな板杯』参加作品)

ガス灯と今でも呼ばれこれからも呼ばれてゆくと信じるひかり

ねこぢるを祈りのようにめくる夜の無垢それだけに壊されたくて

みずからの手でみずからを奪うときだれの胸にもロミオは眠る

ひとの手で割れてしまった蝶にしか行かれぬ国があるのだろうか

開かれた肌のやわさにさよならを重ねつづける夕暮れどきに

水仙は首(こ

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【短歌】天使が言った 他

【短歌】天使が言った 他

マジカル☆ロリィタ
満月がいちごの色に染まるとき覚醒したるマジカル☆ロリィタ
ミルフィーユみたいにパニエを重ねては午前零時に飛びたつわたし
メイドって呼ぶなお前のためじゃないシャドウもリップも愛想笑いも
大人ってただの仕掛けよ綿あめでお腹をみたしたい日もあるの
お茶会はあなたをずっと待つために開かれてるのはやく見つけて
封蝋がわたしの熱で溶かされてどこにも行かぬ手紙を閉じる
細やかなフリルの海にた

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【短歌】青い点滅 他

【短歌】青い点滅 他

ていねいな暮らし

ていねいな暮らしをしたくて花がらの空になったやかんを置いてる
洋服をたたんで捨てる少しでも前のわたしを肯定したくて
行数を埋めては消してく指さきにアンテナみたいなささくれが立つ
鍋のなか絡まるパスタまぜながら茹でる時間を気にするしあわせ
深海にルンバが泳ぐまぼろしをまぶたの裏にうつして眠る

野良傘

雨水がいつかの誰かのなぐさめのなみだとなって光となって
ぼくよりも世界をみて

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