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【短歌】みずいろの沓 他

連作

みずいろの沓

これからもきつと弾くことはないだらうピアノのペダルをぐつと踏みこむ
くるぶしはじつは貝殻、ひそやかにみんなむかしは人魚であった
おそろいの靴下こっそり入れ替えるわたしはあなたになりたくている
みずいろの沓を捨てつつ白鳥は僕の指など忘れて飛べよ
木漏れ日が足跡(そくせき)めいて揺れている妖精たちの生まれる午後だ

(天鵞絨企画「足元からこもれび」参加作品)


連作じゃないやつ

血脈を違えつづける少年の熱と呼ぶには甘い平熱

人体の標本展でむきだしの肌をたぐって兄を見つける

狼の腹には実は水晶のたぐいも入れていましためでたし

ジュネの詩に生まれなおした囚人の頬の暗さを思ってねむる

喧騒のはずれにいつも立っていて私をさらいたそうに見ている

灯火をともしてまわる魂は蜻蛉のかたちをしているらしい

ぼくの手の感情線をなぞりゆく君の指から見える景色は

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