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樹を見る ”一緒にしないでよ”

遠目から見れば一面緑の樹海でも、目を凝らせば一本一本の樹の集まりです。

これは「検事の本懐」柚月 裕子さんの小説、第一話「樹を見る」に出てくるセリフです。

18件の連続放火事件。警察は一人の男を容疑者として逮捕するが、主人公の佐方検事は、一件だけは他の17件とは「異質」だと真犯人を挙げるシーンです。

この視点ーーーー。

何も検事や警察官だけに必要なものではなくて、私達も常に自分にこう云い聞かせて、一つの物事を見ると、そこには違った見え方があるのではないか、と思います。

そう昨日の香港移民ブームの記事で伝えたかった事の結論:

遠目から見れば一面緑の樹海でも、目を凝らせば一本一本の樹の集まりです。

 香港は、これまで植民地にされたイギリスと、祖国中国との狭間で色々な体制の変化を強いられてきました。

しかし、香港はイギリスなのか中国なのか

この問題に答えるのに困る外国人はいるでしょうか。

今、香港に居る大半の人達だって本をただせば内陸出身者です。

でも「I am a Hongkonger、not a Chinese」と言う人達が、私の周りにもいます。

50~60年代、中國は第二次世界大戦後で疲弊し、国共内戦や文化大革命で荒れに荒れており、中国内陸から多くの難民が香港に押し寄せました。

すると、そうやって出てきた香港はイギリス統治下にありました。

祖国中国の長期に渡る内戦や、過酷な知識階層への弾圧。そんな祖国に耐え切れず、泣く泣く逃げてきた香港は、イギリス統治下で、中國とは政治も教育も全く違った状況にありました。

中國から逃げて来ても、そこには母国語教育を受けられずに生まれた悲劇や、経済的困窮など、様々な問題がありました。

それでも、命の危険にさらされるよりはと、来てしまった人達はそこで頑張るしかありません。

しかし、香港は元々が中国ですから、1997年には中国に返還されることが既に決まっています。

祖国中国で人間扱いされず、逃げてきた香港では、これまで全く面識のなかったイギリス体制下。それは並大抵の苦労ではなかったと思います。

香港の人には「祖国」という概念がない、と言うのも、上述の背景を考えたら気持ち的にはわからなくない、と思います。

それでも歯を食いしばって、チンプンカンプンの体制の中、生活基盤を築き上げてきた結果「はい、ここは中国に戻りました。」と言われた人たち。

自分達も自分達が立っている大地も何も変わらないのに、ココは今日から中国。

やっと「祖国に戻った」その地を、「祖国から追われて」「祖国を棄てて」出てきた人たちはどう思ったのでしょう。

一服
ま、お茶でも一杯。

 しかしその一方で、自分達のルーツを誇りに思い、祖国中国を愛し、赦し、中国の変化を心待ちにして来た人たちもいます。

だって、間違いなく自分達は中国から来た中国人なのだから、というルーツをキープし続けてきた人たち。

これは、どちらが正しい、どちらが間違っている、と簡単に白黒ハッキリつけられる問題ではないし、そもそもつけようがない問題だと思います。

香港が中国に戻る事を心待ちにしていた人たちも、香港が中国に戻る事を悲しんだ人たちも、それぞれの思いと、それぞれの事情があるので、どちらも外からとやかく言う事はできません

「検事の本懐」柚月 裕子 の中にはこんな言葉もあります。

「あいつは条件や証拠だけで事件を見ません。事件を起こす人間を見るんです。」

例えば、去年のデモでは「自分達は中国人ではない、中国の体制には反対する」という立場を強く訴える為に、地下鉄駅に放火したり、店のガラスを割って回ったりする暴徒がいました。

生まれた時にはそこはイギリス統治下だった若い世代が戸惑い混乱する気持ちは尤もかもしれませんが、だからといって、こうした破壊行為を容認する気には全くなりません

自分達の立場、主義、主張だけで、自分と相手を敵味方で分け、それを「表現する自由」と称しての犯罪行為は、絶対切り離して考えられるべきだと思います。

「あなたは日本人だからわからないんだ」と正当化されていい行為のわけはありません。


どうでしょう。

中国、その他発展途上にある国に旅行に行った時に、

「こりゃ、戦後の日本みたいやね~」とか「わ~50年前の日本みたいやね~」という親世代のつぶやきを聞かれた人も多いでしょう。

経済的に厳しく、身なりにまで気が回らない。気どころか、まず金が回らない状況。

汚いのがスキなのではなく、色々な物が、システムが、教育が、何もかも足りていない状況。

日本だって、そうした状況から変化をしてきました。60、70年代には学生運動という血生臭い思想闘争を経て、現代のような変化を遂げました。

その変化の道は、日本だけに限られたものではなく、中国や他の発展途上の国々にも言える事です。刻一刻と変化を遂げています。

 事実、今や色々な領域におけるテクノロジーは、中国が世界ダントツでしょう。

空飛ぶタクシーも、ドラえもんのタケコプターのように人が個々に空を飛ぶ研究開発も、砂漠の中の巨大農園も、下水を飲み水まで浄化するシステムも中国は既に数歩先を進んでいます。

共産主義国ですが、実情はかなり資本主義的な商業も大規模におこなわれています。

私は中国内陸の友達もたくさんおりますが、彼らも別に洗脳されているなんて事もありません。おかしい事、許せない事、も私と何ら変わらない感覚で持っています。自分達のお国のやり方に手放しで盲目的に服従するわけではなく、全くまともな感覚で不満は不満として抱えています。

それは日本だって本来同じであるはずなのに、逆に日本の方が、誰も声を挙げないという状況があるようにさえ思います。

何かを「十把一絡げ」で判断しようとする考え方は、とても危険な事だと思います。

中国=〇〇、日本=〇〇、香港=〇〇

そうしたレッテルを貼らずに、常に目の前の一人と向き合っていける自分でいたいなと思うのです。



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