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吉河 知恵
2023年8月15日 20:00
「♪♪♪~」…だめだ。また間違えた。手からとめどもなくあふれてくる手汗をぬぐいながら、優子はため息をつく。小学1年生から小学6年生の現在まで続けている、ピアノのレッスン。6年続けているにも関わらず、残念なことに優子にはピアノの才能がまるっきり無かった。上達はせず、次の演奏会を最後にピアノは辞めることにしていた。才能が無い上に練習嫌い。それでも続けて来れたのには理由があった。「そろそろ
2023年5月10日 23:50
「本当に綺麗な指だね」そう言いたいのをぐっとこらえて、薫は目の前に集中する。落ち着いた雰囲気でも、ダイニングレストランは賑わっていた。「…では、この中から好きなカードを1枚引いて下さい」薫は、迷うことなく真ん中のカードを引いて渡す。「はい、あなたが選んだカードはハートのジャックですね?」「はい」「では、このカードに魔法をかけます!」佐藤君は、カードを裏返し大げさに念力を込める。「
2022年6月25日 21:33
「よし。こんなところかな?」髪をとかし終わり、鏡を見つめながら優子は言った。今日は苦手な数学から一日がスタートだ。ため息が漏れそうになるのをこらえて、鏡に向かってにっこり笑った。毎朝毎晩見る自分の部屋のこの鏡は、優子にとって大切なものだ。丸くて上の方にティアラみたいな飾りがついていて、キラキラしている。これはなんと、小学生の頃にお小遣いを貯めて買ったのだった。「行ってきます!」
2021年7月18日 00:48
「平凡な男」って、こういう人のこと言うんだろうな。隣に立つ航(わたる)を見て由香はボーッと考える。「コレ可愛いな~。って、由香、聞いてる?」そう話しかけられて我に帰る。「あっ、ううん、なんでもない。可愛いよね、このイヌのぬいぐるみ。」航越しに、平凡な男について思いを馳せていたなんて言えない。「え?クマだろ、コレ??」「ウソでしょ、よく見せてよ。」今日は、大学のゼミの
2021年6月24日 00:13
あ~、今日も眠いなー。授業前、まぶたの開き具合から眠いことを再確認する。「朝6時から1時間も走れば、眠くもなるよね。」そうつぶやき、私は机の上に形ばかり教科書を準備する。今日の朝練もハードだった。念入りなストレッチから始まり、ジョギングし、最後は筋トレだ。高校生の有り余る体力をもってしても、一日中元気で授業を受けるには運動量がハードすぎる。今日は、前期最後の登校日。みんな、
2021年6月18日 23:46
「そういえば今日七夕やな」「ほんまやな、全然意識してなかったわ」大学で6限目の講義を終え、坂道を降りながらくだらない会話が始まる。「今日晴れやし、織姫様と彦星様会えるな」女子大生の持ち物とは思えない、おじさんくさいチェック柄のハンカチで汗をぬぐいながら、友人は言う。京都の夏は暑い。「じめじめ」を通り越した、この世の湿度を凝縮したような暑さだ。しかも、まだ7月。8月からが本番