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【ピリカ文庫】七夕【ショートショート】京都と七夕と女子大生と

「そういえば今日七夕やな」

「ほんまやな、全然意識してなかったわ」


大学で6限目の講義を終え、坂道を降りながらくだらない会話が始まる。


「今日晴れやし、織姫様と彦星様会えるな」


女子大生の持ち物とは思えない、おじさんくさいチェック柄のハンカチで汗をぬぐいながら、友人は言う。


京都の夏は暑い。「じめじめ」を通り越した、この世の湿度を凝縮したような暑さだ。

しかも、まだ7月。8月からが本番で、今はまだ初戦のようなものだ。


「ていうかさ、天の川とか見れたことなくない?」

「たしかに~じゃあ織姫と彦星はいつ会ってんねやろな~」

「でもさ、彼氏と彼女がおるだけいいよな」


私たちは2人とも彼氏がいない。花の女子大生だというのに。


「女子大でサークルもバイトも女の人しかおらんしな~」

「そうそう、そこやんな~」


お互い、言い訳ということは分かっている。

おじさんくさいハンカチを持っていることや、ひねくれた性格が原因の一つだということも。



以前テレビ番組で、一般人が芸能人に悩みを相談するコーナーを見たことがある。


その中で、私たちと同年代の女の子が『彼氏ができない』という相談をしていた。

回答者の、いかにもモテそうな男性芸能人は、『大丈夫やって!そんなに心配せんでも!』

と、苦笑交じりに答えていた。



いやいやいや。大問題ですから!




女子大生にとって、彼氏がいるかいないか。

モテる大人の男性にとっては小さな問題でも、私たちにとっては大学生活の楽しみの幅が大きく左右される重要な問題だ。


そして将来にも。


「10年後も彼氏おらんかったらどうする??」

「えっ、どうしよ!この前イオンでやってた七夕の飾りに『彼氏ができますように』って書いとけば良かった~」

「うわ、しかも祇園祭りまであと1週間やん!あと1週間で彼氏できんかな~」

「いや、それ去年も言ってたで」


汗はとどまることを知らず、お気に入りのボーダーの T シャツが背中で貼り付く。


そして、前方には京都駅の方向が一目でわかるシンボルが見えてきた。



「京都タワーは今日もきれいやなー!」

友人が、声を大にしてそう言った。


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