事例病について② 事例で何を伝えればいいのか?「何を導入したか」の先にあるもの
製品、サービス、ソリューション紹介に「事例」は欠かせない、けれど
里田は最近ではあまり「書く仕事」をメインにはしていません。それでも、長い付き合いがある顧客からは「原稿」を頼まれることも珍しくありません。
そんな「原稿」には“事例”も多く含まれています。基本的には、そのサービスや製品を導入したお客さまに取材をさせていただくことになるのですが、時にはこんなことも言われます。
「なかなか許可が取れないので、営業担当に話を聞いて、書いてください」
取材許可が取れないのに、事例を公開してもいいのか?と感じるのですが、高確率で「社名は非公開で」と注釈がつきます。
まず、お客さまに取材できない段階で、不穏な空気を感じます。もちろん、ネガティブな理由ではなく、お客さまによっては「どんなサービス、ソリューションを導入しているか公開したくない」という話は珍しいものではありません。とはいえ、全部が全部そうではないはずなのです。
そして、仕方なく営業担当に話を聞くのですが、主な質問事項は次のようなものになります。
<背景>
そもそも、お客さまが抱えていた課題とは?
その課題によって、具体的にどのような弊害が出ていたか?
具体的に対策を講じ始めたのはいつ頃で、どのような解決を想定していたか?
現在、導入しているソリューションにたどり着いた経緯
<導入の経緯>
他に検討した対策はあるか、あるならばどのようなものだったか
導入したソリューションを選択した決め手はなにか?
導入にあたって、ステークホルダーは誰だったか?
社内での情報共有、意見聴取は行ったか?
導入にあたっての課題にはどのようなものがあったか?
導入時の課題はどのように解決されたか
<導入したソリューション>
導入したソリューション、サービスの内容について
そのソリューションのどの部分に最も魅力を感じたか
競合サービスは具体的にあったか
<導入後の動き>
導入後、社内では期待通りに運用されているか
社内での評判はどうか
今後、期待していることはあるか?
ざっと、これくらいは取材したいのです。ものすごく優秀な営業の方は、これらスラスラと答えてくれます。ところが、多くの営業担当は<導入したソリューション>以外は、あやふやなのです。せいぜい<導入の経緯>、<背景>について、お客さまから伺っているくらいです。導入後の話も、アフターサービス部門しか知らないということがあります。
なぜ、そんなに詳しく事例をヒアリングするのか?
どうしてこんなに多くの事柄を聞くのか?
「〇〇というサービス、製品を導入した」
「導入後、こんないいことがあった」
これだけでいいのではないか? こんなことも言われたことがあります。
それに対する答えの一つが、以前の記事「事例病について① 事例ばかりにこだわることの弊害」に書いてあります。
過去に学び未来に活かす。そのための事例です。
未来に活かすには「reason why」、「なぜそうなったか」が明確にわからなければなりません。
そのサービスを導入した背景、何に困っていて、何を解決したかったのか。それを解決することで「何を目指したのか」。
これが明確でなければなりません。
それが「事例記事」で理解できれば、自社の場合はどうなのか?を考えることができます。
「人手不足が深刻で、生産性を向上させるこのソリューションが求められていました」
これはまだまだ「入口」です。
なぜ「人手不足が深刻」だったのか。もちろん、社会的な環境も大きいでしょう。他には原因はなかったのか? 社会環境以外に「社内事情」はなかったのか?
「生産性を向上させる」には、他の方法はなかったのか? なぜこのサービスが採用されたのか? 本当に人手不足ならば、「人を雇う工夫」でも解決できる可能性があるが、それをしなかった理由は?
ここまで掘り下げていくと、「本当の背景」が見えてきます。
総務部、経理部向けのバックヤードの生産性向上を狙うSaaSサービスがたくさんありますが、「そもそもなぜ、SaaSサービスで課題解決を図ったのか? アウトソーシングではだめだったのか?」まで掘り下げる必要があります。
競合サービスとの機能比較は、その後の話ですし、それは事例ではなく、「機能比較表」で事足りる話でもあります。
ここまで掘り下げられた事例を見ると、次のような言葉は出てこなくなります。
「この事例とは業界が違うから」
「この会社とは規模が違う」
「課題がうちとは少し違うなぁ」
なぜなら、業界の違いや規模の違いで起こる課題の先にある、「reason why」まで掘り下げているので、「自分たちならばどうなのか」に、読んだ人がたどり着きやすいのです。
違いを探すのではなく、「共通点を探し始める」のです。
「〇〇を導入しました」「課題が解決できました」では、事例にはならない
里田が過去に依頼された「事例記事の作成」で最もひどかったのは、「営業担当が作った、PowerPoint 3Pの資料を元に記事化」というものだったそうです。
導入したサービスの概要、お客さまの概要、営業担当の感想がそれぞれメモされていたそうで、「さすがにこれでは作れません」と断りました。
事例とは「〇〇を導入したら、▲▲になった」という報告ではありません。それは「導入実績」です。
事例とは「どのような課題を抱えていたか」から始まり、その解決策の模索、その結果としてのサービスの導入が語られる必要があります。
そして、その結果、何が得られたのか。そして、どんな未来に向かうのか。
ここまで語られてこその事例です。
そこまで語られていればこそ、「未来のために、そのサービス、製品を導入しよう」と考えることが可能になります。
事例とは過去に起こったことの記録です。ただし、それをただの記録にせず、未来につなぐことができるものにしなければなりません。
それでこそ、受注が増える、はずではないでしょうか。
そして、受注が増えた先の未来を考えることができるはずです。