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おいしい酒器。利き酒Vol.3 『不老泉/山廃仕込純米酒/参年熟成』

自分の魅力と持ち味を最高の形で表現してくれる器。日本酒は、そんな酒器を求めている。

同じ日本酒で、酒器を代えて味わいの違いを利き酒する、「おいしい酒器」シリーズ。第3弾。

酒器が変わると味わいも相当変化する。

日本酒の美味しさの本質は「味わいの重なり模様」にあると思っているぼくは、普段日本酒をワイングラスで飲む(『リーデル』というグラスメーカの脚なしタイプ)。ワイングラスで飲む理由は、香りや味わいの輪郭が隠れることなく全てを感じることができるから。詳しくは以下記事の通り。

そんなぼくの個人的嗜好は一旦置いておいて、他の酒器で飲むと味わいや香りが具体的にどう違うのか試してみた、その記録。

1.銘柄選定の基準

今回酒器別のテイスティングに選んだ銘柄は、『不老泉/山廃仕込純米酒/参年熟成』。3年もの原酒の熟成酒。

原酒というのは、「加水」といって醸造後に香味の調整を目的に水を加えるのが一般的な造りであるところ、敢えて加水をしない造りのこと。程よいアルコールのボリューム感を得られるのが特徴。

選定理由は、前回vol.1と2とは別のタイプの熟成酒で試してみたかった。(注釈:ほんとは冷蔵庫にこれまた丁度1.5合ぐらい残ってた不老泉があって、熟成酒で今回の利き酒に使えたらバッチリやんか!って。正直。。)

【基本spec】 
原料:米、米こうじ
製造(瓶詰)時期:2019年10月
造り:純米、火入れ、山廃、3年熟成、木槽天秤しぼり
使用米:表記なし。
精米歩合: 60%
アルコール分:17度以上18度未満

2.用いた酒器と選定の基準

今回用いた酒器は従来と同じく以下一覧表の5種類。

1)普段は①のワイングラスで飲んでいるので、これがぼくの標準。

2)②利き猪口だけ磁器になるが、これは日本酒界で利き酒の「標準」酒器。ぼくの「標準」である①ワイングラスとの差異を知る目的。利き猪口のサイズは①ワイングラスの口先口径と同じぐらいの8勺(1合の8/10)を使用。

3)②以外の素材は全てグラスで揃えた。素材は同じ条件で、形状が違うだけで味わいがどれだけ変化するのかを見るのが目的。


3.酒器別 利き酒の結果

①ワイングラス 結果:◎または○
入口は干しぶどう、熟したバナナ、アーモンド、バニラやクリームを思わせる複雑で凝縮された香り。
口に含むと、分厚い酸味が入口の凝縮された香りと重なり、お米の厚くまろやかな旨みを運んでくれる。
キレは苦味が重なってくる。

重層感がありながら、味の重なりごとの輪郭を感じる。その代わり、最後にアルコール感の鋭さを感じる。

②利き猪口 結果:△
バニラとクリームに干しぶどう。ワイングラスに比べると香りは穏やかで優しめ。

口に含むと、ワイングラスよりも旨みが舌に残り、たっぷりあるばすの酸味が少し控えめになり脇役になる印象。酸味がもう少し全面に出てほしいところ。

キレの苦味は穏やか。

飲み口はワイングラスに比べて軽快で優しめ。飲みやすさはある。ただ、重厚感が少し形を潜める印象で、熟成酒の良さが出ていない気がする。ちょっと物足りない。


③天開グラス 結果:△または×
入口は香り控えめ。弱いクリームの酸味を思わせる。

口に含むと、やや軽快な飲み口から急に苦味が顔を出すような印象があり、思った以上にバランスが良くない。この形状だと、お米の旨み感を感じにくいのがバランスの悪さに繋がっているかもしれない。

キレも苦味のみ強調される感じ。

④カクテルグラス 結果:×
入口の香りはかなり控えめになる。
口に含むとまず苦味を感じる。厚めの旨みと酸味も感じるものの、それを上回る強めの苦味が覆い被さるよう。そのまま苦味でのキレ感。

これはバランスが悪い。

⑤シャンパングラス 結果:◎または○
入口の香りは、クリーム、ヨーグルトといった柔らかい酸味を思わせる香り。
口に含むと、まろやかで分厚い酸味と旨みが融合して舌の真ん中にしばし残る感じがたまらない。ほのかな苦味も感じて、口に含んでからの味わいのバランス感はこれが一番良い。

熟成酒の最大の特徴とも言える、まろやかさを一番楽しめる。このお酒に合ってると思う。

4.総評

今回は熟成酒。

A.複雑かつ凝縮感たっぷりの香り。
B.まろやかなお米の旨みと酸味

この2つが熟成酒の真骨頂。

ぼくの「標準」酒器である①ワイングラスでは、A.の複雑な香りがかなり強くなる。慣れないと、やや飲みにくさを感じると思う。ぼくとしては、やはりこのような熟成酒であっても、「味わいの重なり模様」こそが日本酒の美味しさの本質だと思っていて、その点からは香りの強さを差し引いてもワイングラスを推したい。ただ、後味のアルコール感は残る。これも味わいの輪郭の一つと捉えられるかどうか。

意外だったのは、⑤シャンパングラスがこの酒質にかなりマッチしていること。B.のまろやかな味わいという特徴を一番生かしてくれるのは⑤シャンパングラスだと思う。香りは控えめ、穏やかになり、熟成酒の大きな特徴の一つを失う感じがあるが、口に含んでからの味のまとまり感とまろやかな味わいはその欠点を補って余りあるほどバランスが良い。「複雑な香りは良いから、まろやかさを楽しみたい」という場合には、⑤シャンパングラスが良いと思う。

3回の酒器別利き酒をしてきましたが、これまでのところ、④カクテルグラスの良さを感じる日本酒に出会っていない。カクテルグラスに合うのはどんなお酒なんでしょう。

その点も一つ楽しみが増えたみたいで嬉しい。


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