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親魏倭王の小話集

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2024年3月の記事一覧

歴史小話集①

歴史小話集①

【『日本書紀』考】
『日本書紀』の「紀」について、三浦佑之先生は中国の紀伝体歴史書における「本紀」を指すのではないかと考察しておられる。つまり、『日本書紀』とは『日本書』の「紀」、本紀であり、当初は中国の紀伝体歴史書に倣った『日本書』が構想されていたのではないかと。しかし、列伝は編纂されず、結果的に「紀」だけが完成して『日本書紀』と呼ばれるに至ったことになる。
三浦佑之先生は合わせて、『風土記』は

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中国史小話集①

中国史小話集①

【陳勝・呉広の乱と秦の滅亡】
始皇帝没後に起きた陳勝・呉広の乱は中国史上初の農民反乱で、秦のガチガチすぎる法治による締め付けが原因と考えられる(あまりにも法が厳しく、役人たちは自分が法を犯さないかどうかに気を取られ、民のことまで気が回らなかったらしい)。
この乱は官軍の将軍・章邯の活躍もあり、すぐに鎮圧されるが、戦国時代の各国の王族らが呼応し、群雄割拠の状態となる。そんな中、楚の項羽が中心となって

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考古学小話集①

考古学小話集①

【4世紀の纏向遺跡の中枢部】
纒向遺跡の中枢部は、4世紀になるとそれまで中枢部があった辻地区から、より山手の巻野内地区へ移る。珠城山古墳群の北側である。ここでは区画溝が検出されているが、吉野川分水の工事中に柱根と思しき丸太が大量に出たという証言があり、居館があったのは間違いなさそうである。吉野川分水の工事に先立ち発掘調査が行われなかったのが悔やまれる。
付近には垂仁天皇の纒向珠城宮、景行天皇の纒向

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民俗学小話集①

民俗学小話集①

【盆行事の話】
私の実家がある地域では、盆の時期に「七橋参り」という行事をしたという。私は母からこの名称だけ聞いた。母も詳細は知らないらしく、どのような行事だったのかは推測するしかないのだが、名称からすると、部落周辺にある7つの橋を巡礼したものと思われる。
川は世界の境界、橋は現世と異界を繋ぐ道であり、盆が「死者があの世から帰って来る」行事であることを念頭に置くと、先祖を迎え入れる行事であったと考

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民俗学小話集②

民俗学小話集②

【清水の舞台から飛び降りる話】
「清水の舞台」で知られる清水寺は観音信仰の霊場として有名だが、ここには満願の日に舞台から飛び降り、無事なら大願成就、もし死んでも補陀落浄土へ往生できるという信仰があり、多くの人が飛び降りたらしい。そのためたびたび禁令が請願され、飛び降りないよう舞台を竹矢来で囲ったりもしたという(ちなみに、木に引っかかるなどしたのか意外と生存率は高く、八割くらいの人は助かっているらし

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本の話①

本の話①

【怪奇小説の傑作『ねじの回転』】
英米の怪奇小説で、発表から100年以上経つにもかかわらず、今なお高い評価を得ている作品がある。ヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』である。彼は心理学者ウィリアム・ジェイムズの弟で、兄の影響か心理描写を得意とした。見えない恐怖と戦う主人公の心理描写が焦燥感を煽る傑作である。
心理学と怪奇小説は相性が良く、主人公の心理描写が細密であるほど怪奇小説は恐ろしい。ジェイムズ

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