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山澤ひじき
2021年5月21日 22:45
深夜の閑散としたファミリーレストランで、僕と安子は友人4人に囲まれていた。そこにはしれっと幸子も同席していた。「戻ってきて欲しい。」彼らはそう言った。戻れるはずなんてなかった。それに、親友たちは今の僕に戻ってきて欲しいなんて思っていないと思った。釣り上げた目にむすっとした顔、平静を装う顔。無表情の幸子。僕の口から放たれる言葉は、4人の連携プレイにより全てカキーンと天井に描かれている
2021年5月18日 21:28
正子が、発熱した。………初詣の柴又帝釈天は賑わっていた。人の賑わう声は荒ぶる川の音に似ている。落ち着いた会話、子どもの笑い声、久しぶりに会った友への歓喜の声、混雑への不満、お好み焼きや焼きそばの焼ける音、餅が膨らんで弾けるポスっという間の抜けた音。食べる音、下駄の足音。その全てが混ざり合って、川は荒ぶる。川に飲まれて、鼻がツンとする。耳をつんざくような正子の母の声は、常に僕に向けられて
2021年5月15日 21:57
気がつくと車のボンネットの上に乗っていた。自転車が少し離れたところでカゴをぐしゃぐしゃにしていた。ボンネットに乗ったのはこれが2回目だ。しばらく放心してからボンネットを降り、自転車を持ち上げると、サドルも曲がっていた。慌てて僕に近寄ってきたタクシードライバーは大丈夫ですか?と叫んだが、僕にはそれが遠くに聞こえた。「大丈夫です。」タクシードライバーの顔も見ずに、僕は歩きだした。大
2021年5月12日 22:23
正子は僕が掛け持ちでやっていた某スーパーのバイト仲間だった。部門が違ったのでほとんど言葉を交わすことはなかったが、ある日僕は正子が喫煙スペースでがっくりと肩を落としているのを見て、どうしたのかと思って声をかけた。それが正子とのファーストコンタクトだった。あん肝の缶詰を誤って大量発注してしまったという。あん肝の缶詰を手に取る人は少ない。それは困ったものだねと言って、けれども心の中では僕はそれが可笑し
2021年5月10日 22:57
個室内に青白い煙が充満している。テーブルには枝豆、ホッケの開き、イカの一夜干し、チャンジャなどのつまみが並び、それで泡盛をぐいぐいと飲む。タバコをパカパカと吸いながら、3人はくだらない話に花を咲かせていた。「今日は私が奢るから」突然正子がそう言い放った。この言葉の意味も考えず、僕と幸子は即座に泡盛のお代わりを頼んだ。それが、いけなかった。僕は泡盛をぐいと飲み干し、グラスの氷をカラ