ハンガリー医学部はやばい?? 留年と退学のリアル
[2022.07.30 <お金の話>を加筆しました。]
[2022.09.01 退学・予備コースについて加筆しました。]
ハンガリー医学部留学について調べると、“留年“や“退学“といったキーワードをよく見かけると思います。
今回はこういった数字の実情や、あまり語られていない医学部留学生活のリアルを”進級”をテーマに書きました。
主には大学の進級率の実情や留年でかかる費用、予備コースの留年事情などについてです。
現地学生が感じる、いまの実情をまとめています。
ハンガリー医学部の留年・退学にまつわる通説
<“進級・留年・退学が1/3ずつ“は本当か>
結論から言うと、“進級・留年・退学が1/3ずつ“というのは少し前まで概ね事実でした。
これはかなり前から使われている数字で、現在は少し変わって以下のような状況になっています。
(※正確な数字は事務局が集計しているので、どうしても知りたい方は説明会などに参加してください。)
まとめると「留年者の割合が増えて退学者の割合が減った」ということですが、これは単純にそのまま“留年する人が増えた”というわけでもありません。
この推移の理由と共に、後半で深掘りしていきます。
<そもそもどうなると留年?>
“学期内に必要な単位を取れないと留年“というのは日本の大学と同じです。
現学期中に、次の学期の必修科目の履修条件に含まれる教科のテストに受からなくては留年となります。(例:解剖学2の履修のために解剖学1の単位が必要)
ただし、ハンガリーの医学部には回数限定で、申請をすると教科によっては試験を次の学期・学年に持ち越せるという特別措置のようなものが設けられています。
一旦仮合格ということにしてもらって、次の学期の必修科目を履修できるようにしてもらう制度ですね。
(当然、科目を持ち越すと次の学期の勉強が大変になります。)
こうしたテストのルール等はまた別の記事で詳しく書きますが、こうして日本とほぼ同じような条件で進級か留年かが決まります。
<退学に至るルール>
ハンガリー医学部は退学者が多いとよく取り上げられますが、退学に至るまでのルールは大学によって異なります。
例えば以下のようなものがあります。
また、学業不振が続いて留年・退学となる以外にも、家庭の事情や体調不良などの個人的な理由で自主退学した人もいます。
最近では、予備コースの段階でハンガリーでの医学部進学を辞めて日本へ帰る人も一定数いるようです。
ハンガリー医学部 留年・退学のリアル
それでは、少し前までは1/3ずつだった進級・留年・退学が現状どうなっているかと、その内情の考察ついてお話ししていきます。
<留年者率増加・退学者率減少の意味>
前述しましたが、現在の進級についての状況は以前と比べると以下のようになっています。
まず、退学となる人の数は年々減っています。
留年→退学となるパターンが大半を占めていたため、退学者数が減ると“留年したが退学には至らない“学生の比率が増えることになります。
「留年者の割合が増加」とだけ聞くと暗いニュースに聞こえますが、これらの推移自体は改善傾向と言えると思います。
退学者が減ったことに加えて、留年者比率が上がっている理由が次に説明する“複数回留年”です。
<“進級・留年・退学が1/3ずつ“を正しく理解する>
“進級と留年と退学が1/3ずつ“と聞くと、なんとなく「1/3ずつなんだ」と文字通りに捉える人が多いと思います。
極端なケースだと“年度ごとに1/3が留年、1/3が退学する”といった解釈をする人もいるようです。
これは概ね正しい理解ですが、ここで言及されていないのが複数回留年の数です。
退学は一度きりですが、留年は複数回起こり得ます。
「留年者数=留年経験者の人数をカウントしたもの」で、それぞれの留年回数を加味していません。
上記の例だと「留年した3人は卒業までにそれぞれ何回留年したのか」の情報が欠けています。
つまり、在学中に1回留年した人も2回以上留年した人も、同じ“留年者1名”として扱われており、留年人数のカウントは実質の留年回数よりも少なくなります。
留年・退学者率などは、ハンガリー医学部の進級/卒業がどれくらい難しいのかを測るためのものです。
例えば「留年者10名」の内訳が“留年1回が10人“の場合と“留年1回が5人
+留年2回が5人“の場合では、進級難易度の印象が異なりますよね。
退学になる人が減り、こうして複数回留年で留まる人が増えたことが“留年者割合の増加“の一因です。
“〇割が留年”というとわかりやすいですが、実情を正しく表し切れていないと言えます。
これは事務局が数字を隠しているわけではなく、わかりやすい言い回しを多くの人が好んで使っているためだと思います。
<留年したらどう過ごす人が多い?>
1学期は授業・試験をとるためにハンガリーで過ごし、もう1学期は休学して日本で過ごす人が多いです。
これは後に説明する学費などのお金の問題と、休学したら学生ビザが一時停止されることが大きな理由です。
前期・後期のどちらをハンガリー/日本で過ごすかは個人の事情と教科の兼ね合いによります。
どのテストが終わった/終わらなかったかによって、各自次の学期で履修できる科目数が違いますが、大半は「履修できるだけの必修科目+選択科目を多め」にとって留年中の学期を過ごしていると思います。
終わらなかったテストだけを受けるとしても1学期分の学費は発生するため、どうせ同じ学費を払うのであればできるだけ科目をとって翌年の負担を減らそうということです。
進級状況の推移の実情
ここからは、この進級状況の推移の遠因となっているであろう要素の考察です。
<渡欧する学生の内訳>
ハンガリー医学部に渡欧してくる学生のレベルは年々上がっていて、これは予備コース入試の倍率にも表れています。
ここでいうレベルとは“外国環境でも勉強していける能力”のことを指します。
具体的には、帰国子女やインターナショナルスクールに通っていた学生が留学してくるケースが増えてきました。
それでも進級率が伴っていないのでは、という声が上がるかもしれませんが、こうした学生の内訳の変化はごく最近のものです。
年度によって多少差異はあっても、事務局が学生の選考でこの傾向を続けていくのであれば、進級率も徐々に改善されていくと思います。
<カリキュラム刷新の過渡期>
顕著なのはセンメルワイス大学で、全体のカリキュラムが大きく変わりました。
例えば、一年生の主要教科が分割され、鬼門とされていた二年生では主要科目(anatomy, physiology, biochemistry)のまとめテスト(Final exam)のタイミングが前期と後期に分散されました。
デブレツェン大学なども近くカリキュラムの変更を行うとされています。
これによって進級が容易になったかどうかは意見の分かれるところですが、ちょうどこの変化があった頃から下級生の進級度が良くなったようです。
こうした改革のおかげもあり、ハンガリーの医学教育は2022年度からWFME認定となりました。
(WFME認定について詳しくはこちらの記事をご参照ください)
<コロナ禍での進級事情>
コロナウィルスが発生し、オンライン授業が全盛となったことは大きな要因の一つだと思います。
Zoomでの試験が苦手という人もいるものの、学校側も慣れていないのは同じで、オンライン試験はなんとなくみんな合格するといった風潮がありました。
個人的にはこれが一時的に進級率の下支えになった気がしています。
(現在ではオフライン試験に戻っており、下級生では対面での試験に戸惑った学生も多かったようです。)
<学習教材の変化>
良質な動画教材・アプリなどの出現で、年々勉強がしやすくなっています。
何を今更と思うかもしれませんが、“進級・留年・退学1/3ずつ時代”と比べるとだいぶ学習環境は変わったのでは、と推測します。
それに比例して試験が難しくなったわけではないので、学生全体のレベルが上がり、試験の難易度は変わらずといった状況なのかなと思います。
チューターなどを介した事務局のサポートや、他国の学生との過去問やノートの共有が充実しているのもとても有効です。
(これは大学ごとに差があるかもしれません)
おそらくこうした情報共有の仕組みが根付くまでには、右も左もわからない科目がいくつもあったはずなので、その頃と比べると勉強はしやすくなっているはずです。
その他
<お金の話 留年するといくらかかる?>
ここまでは制度的なことや内訳について書いてきましたが、少しお金の話です。
当然ながら留年すると余分に費用がかかります。
またその額は“どのような形で留年するか”で変わってきます。
大きく分けると、留年した場合の1年間の過ごし方はこの2パターンです。
「留年=必要な単位を取得できなかった」ということなので、少なくとも1学期分は学期をアクティブにして取る必要がある授業・試験を受けることになります。
1学年2学期制なので、上記のようなパターンが考えられるということです。
ここでのポイントは、①休学している学期には学費がかからないこと②1教科だけ履修登録している学期は学費が半額になることです。
学費が大体1学期8000-8500USDのため、両学期ともにアクティブにして履修登録するのか、何教科履修するのかで学費が変わってきます。
学費はドル/ユーロ建なので、為替レートによって日本円での額が変わってきます。
また、これに加えて生活費などの諸経費がかかります。
家賃・生活費を月15万円、留学保険を年20万円とすると、学費に加えて年間200万円ほどになります。
留年した1年間の過ごし方としては、1学期だけ授業と試験をとってハンガリーで過ごし、もう1学期は休学して日本で過ごす人が多数派な印象があります。
<退学した後はどうなる?>
ハンガリー医学部を退学した人たちはその後どうしているでしょうか。
大まかな傾向では、なんらかの形で医療系に携わる人が多いようです。
個人情報になるためあまり詳しくは書きませんが、だいたい3パターンに分かれます。
①ハンガリー以外の海外医学部に再入学
ハンガリー医学部を退学した後に、他の東欧諸国の医学部に再入学する人が一定数います。
過去には中国の医学部に入り直した学生もいたようです。
東欧諸国の中ではスロバキアやブルガリア、チェコなどが選択肢で、ハンガリー医学部とは異なる事務局が斡旋サービスを行なっています。
ハンガリーで既に医学部に入るまでの勉強は終えていることもあり、これらの国の医学部への入学自体は比較的楽だといいます。
②日本に帰国して医療系学部に再入学
このパターンが1番多いと思います。
予備コースの時点でハンガリー医学部を辞める学生も何人かおり、年齢的にも日本で大学受験を継続するのは自然な流れなのだと思います。
私立の医学部・歯学部、看護学部や理学療法などやはり医療に関する分野の学部に入り直す人が多いようです。
留学で身につけた英語力で私大文系学部に入った学生もいました。
③就職
退学後に就職している人たちの職種は様々です。
多くは日本で働いていますが、英語力を活かして海外で働いている学生もいます。
<予備コースでの留年・退学は?>
予備コースから受験をして受からなかった、という学生も年に数名はいます。
この場合、もう一度トライするために予備コースをやる選択肢が出てきます。
マクダニエルカレッジで予備コースをもう一度やる人や、一旦日本に帰ってインテンシブコース(短期)として戻ってくる人もいます。
また予備コース1周目の受験時に、試験官から大学附属(セゲド、デブレツェン)の予備コースへの入学を促される学生もいるようです。
その場合は大学附属の予備コースにもう一年通い、そのまま大学に上がることになります。
数名ほどの学生は予備コースの段階でなんらかの理由で見切りをつけて退学し、日本に帰国します。
この段階で帰国した学生の多くは、先述の通り日本で大学受験を継続するようです。
まとめ
後半は私の把握している情報に基づく考察なので、因果関係に疑問を感じられる方がいるかもしれませんが、全体として改善傾向にあるのは事実かなと思います。
だからといって安心して留学してください言いたい訳ではなく、進級の現状についてまとめられた情報があまり多く見当たらなかったので今回の記事を作成しました。
私の知る限りでの内容なので、大学ごとに多少の差異があることはご了承ください。
その他、知りたい情報があればTwitterまでお願いします。
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