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私たちが愛した永遠の青春小説作家『氷室冴子』KAWADE夢ムック

2018年、氷室冴子さんの没後10周年を記念して、なつかしの『なんて素敵にジャパネスク』が復刊されました。そして、その後も続々、表紙を今風におしゃれにしてリニューアルが続いています。

氷室さんを記念する本書のようなムックも発売されましたし、数年後には嵯峨景子さんの『氷室冴子とその時代』みたいなファン必見本も出版されました。嵯峨さんの本は超絶な解像度で氷室さんを分析していて、裏付け資料のの充実度でもプロの焼いたステーキみたいです。

そして、氷室作品の幅の広さからすれば、本書みたいなムックは同業者や知人の方々からの熱いメッセージや対談がつまっていて、思い出アルバム的な味わいがあります。嵯峨さんの本が分厚いステーキの豪華さなら、こちらはお正月の地元のおせち料理。前菜からメインディッシュ、地元の素材が使ってあって華もあれば素朴な味もあり、箸休めにはデザートもある感じ。

そんなわけで、本書『氷室冴子』ムックは自分の興味ある人の文章をパラパラ読めるのが魅力です。毎年、梅雨前の時期、氷室冴子さんの命日の6月6日が近くなると手にとって、読むたびにどこかしらにひっかかるものがあります。

文章を寄せている新井素子さん、近藤勝也さん、荻原規子さん、久美沙織さん、夢枕獏さん、俵万智さん、群ようこさん、須賀しのぶさん……などなど。とにかく、執筆者や対談者が豪華で、それぞれのカラーがあって、対談や寄稿時期も違うので、全部読み応えがあります。

以前読んだときには、夢枕獏さんの戦友エッセイが強く印象に残りましたが、何度目かの今年は、須賀しのぶさんの文章に共感しかありません。

ふりかえると、思春期の入り口で氷室作品に出会えたのは本当に幸せだったと思う。当時の私はとにかく背伸びすることに必死で、年相応の望みや、なにより「少女」であることを認めることができなかった。しかし氷室作品にはそれがごくあたり前のこととして描かれていた。自分が見ないふりをしてきたもの、そして大人の本ではかえりみられなかったとても繊細な感情が、「ああ、そうまさにこういうことなんだ!」とするするできた………私は、氷室作品によって、思春期の複雑な感情を教えてもらった。そして、救われたのだ。

少女小説というものは、暴論かもしれないけど、つきつめてしまうとジェンダーとの闘いであると思っている。女となっていくにあたり、どうしても避けて通れない問題ではあるが、少女にとって受けいれるのはなかなか難しい問題でもある。だから少女小説では、ラブコメだったり、あるいは華麗なファンタジー、もしくは主人公を少年にしてみたりと、リアルと理想の狭間の曖昧な世界で表現される。

子どものころの大切な親友は、ふだんは離れていても時々どうしても会いたくなる。ひとたび会えば、それまでの時間などを忘れて、互いに少女に戻る。大人になった今もうまくのみこめないものを、わかるーほんと腹立つよね!と一緒に怒ってくれて、とびきり愉快な彼女の話で心慰められる。氷室作品とは、私にとってそういう存在だ。

「少女小説」というジャンルは死語になりましたが、氷室冴子さんのエッセイはリニューアルして好評のようです。ようやく時代が氷室冴子さんやファンたちの現実に追いついてきたようです。






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