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高知弁のリズムが好きです。『海がきこえる』『アイがあるから』氷室冴子


主人公は拓という男の子。そして、親友でしっかり者の松野君。東京の進学校から転校してきた美少女の里伽子。彼女の家庭事情と意地っ張りと、彼女に惚れた松野君の間で、じれったいような拓。青春の1ページをあわーく思い出して、読んだ当初はくすぐったかったです。

『海がきこえる』はジブリでアニメ化されたらしいのですが、私は全然知らずに原作だけ読んで、ちょっといつもとテイストが違うなあと思っていました。この作品は、高知弁がとてもいいリズムとアクセントになっています。

それから、地方の進学校の独特の雰囲気とか、閉鎖的だけどアットホームな高知の様子。こういうのって、氷室さんは何度も北海道を舞台に描いているけど、今回もまた高知の雰囲気がよく出ていて上手いなあと思っていました。

高知は、大学時代の友達に四国好きの子がいて、2,3度連れて行ってもらったことがあります。あと義妹も大学が高知だし、夫も高知が好きだったりで、娘が生まれる前には何度も歩いた懐かしい場所です。

アニメがすごく人気になったらしいので、この作品はそれまでの氷室作品と違って、男性ファンが異様に多い気がしますし、ファンサイトも男性主催のものが多くて、しかもすっごく充実していてびっくり。中には自分の高校時代と比較して、ものすごーく力の入った文章を書いている人もいて、ほほえましいです。私も中学・高校には怨み辛みが山ほどあって、自分だけ執念深く覚えているんじゃないことがわかって、うれしかったりも(苦笑)。

『海がきこえる』で印象的なのは、高校生だったときにはいがみ合ってた女の子同士が、大学生になった途端、まるで何もなかったかのように仲良くなってしまう、同級会の場面です。こういうのって、リアリティあります。不思議ですね、女の子の人間関係って。

(追記:2022年11月に文庫の新装版がでたのでそちらをリンク変更)

続編の『海がきこえるⅡ アイがあるから』は、前作とは別の意味でしんみりくる作品でした。前編の高知時代には、それなりに共感できたわがままヒロイン里伽ちゃんですが、東京に戻って大学生になってもそのままお子さまなので、今ひとつ感情移入できませんでした。

でも、お父さんの恋人の流産シーンあたりで、一皮むけて大人になった彼女には、共感もできるようになりました。ニンゲンって、頭で理解できることには限界があって、やっぱり修羅場を経験するとか、自分が相手の立場になるとかしないと、大人な態度をとれないんだろうな……なんてしみじみ思ったものです。

私が続編で一番感情移入してしまったのは、拓の美人の先輩知沙さんの恋人の奥さんです。子供ができずに夫婦で悩んで、その過程で旦那さんが浮気してという、普通だったらメインの闇っぽい設定になのに、サラリと物語の背景として描かれています。

ちょうど、自分も不妊治療していた真っ最中だったので、メインキャラクターでもないのに、ものすごーく感情移入してしまいました。この小説は、基本的には青春恋愛物語だけど、ただ惚れたハレタだけに終わらない作品を描いてくれる氷室さんは、やっぱりすごい。

1つ1つのシーンを繋ぎ合わせる過程で、余白をきっちり書き込まず、想像に任せるような小説の書き方がなされているのも、この続編の特徴です。エンターテイナー氷室冴子の、これまでにない面を見せてもらえて、満足でした。

ところでジブリといえば、余談ですが。氷室冴子さんと宮﨑駿氏の対談があるというので、以下の本も入手しました。


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