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少女小説が売れた時代。『コバルト風雲録』久美沙織

久美沙織さんといえば、私の中では『丘の家のミッキー』。めるへんめーかーさんのイラストが印象的です。コバルト作品は氷室冴子さんのファンで、唯一別のものを読んだのが『丘の家のミッキー』でした。

『コバルト文庫』の大看板だった久美沙織さんが、コバルトについて書かれている! ということで、創成期のこととか、氷室冴子さんの話が読めるのではと期待して手に取りました。でも、「はじめに」とか「あとがき」ではコバルト全体のことではないですとの断り書きが……。でも、「久美沙織さんのコバルト奮闘記」もおもしろかったです。

久美沙織さんの駆け出し時代や、その後のお局時代のおもしろいエピソードが満載。イラストについてのあれこれ。久美さんの定評ある(?)小説講座については、出版社の一橋系と音羽系の話も「ヘエエ」な話題。なにより、現在のメディアの捉え方、出版の捉え方はなるほどと思いました。

こういう久美さん視点の内部事情というか、経験談は貴重です。そもそも、少女小説のさきがけだったコバルト文庫が、ものすごく売れて、他の出版社でもいろいろ出すようになって、ラノベやゲームというジャンルができていく中で、久美さんは他の小説だけの方とは違い、どんどん新しいチャレンジをされたので。

雑誌や本しか「所有できなかった」時代の脳と、DVD等で「何でも所有できる」現代の若者達の脳の違いを、久美さんは本の中で説明しています。これ、すごくおもしろいですね。今なら、さしずめここに、「いつでも無料とかサブスクでアクセスできる」(でも、いつ消されたり、改編されるかわからない)時代が加わるんでしょう。

あと、「大人は現実よりちょっと上のもの、他人からうらやましがられるようなものを指向するけど、子供は”全くの夢物語”を求める(ことができる)」って表現は言い得て妙だなあと。

この本は久美さんが40代の頃の本ですけど、今の久美さんのエッセイとか業界思い出話も読んでみたいなと思いました。そして、氷室冴子さんのファンとしては、生前それほど親しくなかったにもかかわらず、氷室冴子青春文学賞の審査員とか引き受けてくださる久美沙織さんの心意気を尊敬しています。


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