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解説文を批評する!?『文庫解説ワンダーランド』斎藤美奈子

仕事が忙しい時期は、仕事の書類と並行して、ダラダラ読める本がうれしいです。その本は、ライトな文体でも中身がそれなりにあるとうれしい。

というわけで、斎藤美奈子さんの本を入手。以前愛読していた時期からかなりたっているせいか、文章は少し毒が減って、ちょっとマイルドな文体になっているような。でもおもしろさは相変わらずでうれしいです。

そして、今回も着眼点がすばらしい。ハードカバーから文庫化されるとき、追加される巻末解説は、作者をよく知る人だったり、同業者だったり、全く門外漢だったり。でも、そのおもしろさは千差万別。ファンレターのようなものもあれば、作者や出版社に忖度した文章もあります。

そんな、分かる人にはわかるけれど、素人にはなかなか判断がつかない文庫本の解説を批評したものが本書。名作といわれる文学作品なら、出版社が違う同じ小説の本があるので、それぞれ違う解説を読めるし、1つの作品でも、初版と再版では別の解説がつく場合もありますから、時代の変化や解説者毎のスタンスの違いもわかるとおもしろい。そんなお役立ちの1冊です。

高村光太郎については、『ヌードと愛国』という本でしっかり書かれていたけれど、『智恵子抄』の作品のイメージとは裏腹に、高村が智恵子を追い詰めた夫婦関係にちゃんと触れられているのもいい。

ただ、太宰治については、もっと突っ込んで書いてほしかったです。斎藤さんなら、書けることはもうちょっとあったはず(ただ、斎藤さんの原稿の字数がたくさんあったかどうかは不明)。

鶴見俊輔が赤川次郎のファンっていうのは、初めて知りましたし、ちょっとにわかには信じがたいです。でも、一部では有名な事実だったというし、出版社にお勤めだった斎藤さんがいうなら、事実でしょう。

斎藤さんの本は、ダメダメな解説をただ「ダメ!」というわけではなく、なぜだめなのかを説明しつつ、ちゃんと優れた解説も紹介してくれているのでうれしいです。そして、こういうちゃんとした批評の文章を読むと、実際にまな板の上にあがっている本も読んでみたくなります。

きっちりした良い仕事、作家さんや批評家さんならではのこだわり、素人には真似できない職人芸などなど。読書は素人がそれを味わえる、最高の娯楽の1つだと思っています。ふふふ。


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