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中国──あの日、あの時

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旅行記まとめ
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記事一覧

香港──直都のネオンはかく語りき

香港──直都のネオンはかく語りき

 かつて大英帝国の時代に栄えたこの都の一番の問題は、その人口に見合わない土地の狭さだった。
 この地に流れ込んだ中国人の生命力は、この土地問題を解決するために、ひたすら上に上に都市の増改築を繰り返し、そしてそれでも余りある生命力はネオンサインとして横へ横へと伸び続けた。
 しかし2000年代に入り、中国大陸が21世紀社会主義の名のもとに現代化され始めると、あの生命力に満ち溢れた香港も14億の荒波の

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丹東の怪しいツアーで北朝鮮の農村をみてきた話 

丹東の怪しいツアーで北朝鮮の農村をみてきた話 

 

はじめに

 一般に北朝鮮を直接見るなら韓国から板門店にいくのが一般的だ。しかし北朝鮮が国境を接している国のうち、もう一つ北朝鮮を見ることを売りにしている都市がある。それが遼寧省に位置する国境都市丹東だ。
 北朝鮮の友好国である中国から見える北朝鮮と、鴨緑江のヴェールに接する丹東の今を見てきた。

丹東に行こう!

 自分の住んでいる北京から丹東に行くには主に3つの方法がある。早い順に飛行機

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呼和浩特──騎馬民族の祈り

呼和浩特──騎馬民族の祈り

内蒙古、3月の冬へ

 北京でも桜が咲き始めた頃、私は内蒙古自治区の省都、呼和浩特に向かう列車の中にいた。かつて騎馬民族が駆け巡った大地の鉄路は、春とは思えぬ冷気に支配されていた。

計画的な無計画

 今回の旅行はいつになく突発的なものだった。木曜日の夕方に放課して、金曜日に授業がない授業予定を組んでいる時分で、金曜の夜まで予定がないというタイミングだったのである。
 「つまり木曜の夜に出て、金

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南京──追憶の都市を往く。①

南京──追憶の都市を往く。①

北京発南京行き

江蘇省南京。中国の首都北京から高速鉄道でわずか3時間の土地に、この長い中国の歴史で多くの偉人が争った古都がある。   
 南京は歴史上、三国・呉、東晋、南朝の宋・斉・梁・陳、十国の南唐、そして幻の宗教国家であった太平天国、傀儡国家南京国民政府の首都が置かれ、台湾(中華民国)が首都と主張する非常に数奇な都市だ。
 寒さが戻ってきた3月の中旬、私と友人は夜の北京駅を寝台列車で滑り出し

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南京──追憶の都市を往く。②

南京──追憶の都市を往く。②

南京の隠し味

 南京という街ほど、歴史と観光を調和させた街はないだろう。彼らはその昔から、自らの都市が抱いた歴史を尊重し、それを外部の人が楽しめるように程よく隠し味を追加したのである。

 隠し味には多くの物があるが、例えばそれがちょっとした良いお酒だったらどうだろう。南京でも有名な観光地、夫子廟周辺の煌びやかな通りに佇む一軒のバーこそ、南京旅行をちょっとグレードアップさせてくれる"隠し味"かも

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内蒙古──変わる支配者、変わらぬ大地

内蒙古──変わる支配者、変わらぬ大地

 中国は共産党が指導する社会主義国家ということもあり、5月1日のメーデーを中心に大型連休が組まれている。多くの中国人はこの機会に旅行に出かけており、私も学生向けツアーで内蒙古自治区の草原と砂漠を訪れることにした。

朝4時、トラブルにて

 内蒙古は中国の北西部にかけて位置する広大な民族自治区であり、多様な自然が同居していることでも知られている。遊牧民族の残り香を感じる草原に、オリエンタルな空気を

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北京──34年目の初夏

北京──34年目の初夏

 北京、天安門広場。中国の歴史の栄枯盛衰を見守ってきたこの広場は34年前の6月4日、中国史にとって一番のタブーとなる殺戮の舞台になった。

 発端は胡耀邦総書記の急死に伴う名誉回復運動だった。名誉回復運動は多くの学生運動家に火を付け、学生内部での対立を産み出しながら、中国の民主化を求める大きな潮流へと変容していく(この辺りは安田峰俊氏の『八九六四』に詳しい)。

 中国の中央指導部はこの運動を、天

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新疆ウイグル自治区──祈りなき紅いオアシス①

新疆ウイグル自治区──祈りなき紅いオアシス①

 新疆ウイグル自治区。中国の中で最も西北に位置する行政区画で、少数民族のウイグル族が多数を占めるエリアだ。そして何よりこの中国の地方行政区は、人類史上あってはならないジェノサイド・民族浄化が今まさに行われているだろう場所としても知られている。5月も終わりが見えてきた頃、私はその新疆ウイグル自治区にいた。

シルクロードの汽車は往く

 北京から向かうにあたって、まず目指したのは首府が置かれているウ

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新疆ウイグル自治区──祈りなき紅いオアシス②

新疆ウイグル自治区──祈りなき紅いオアシス②

 新疆ウイグル自治区。中国の中で最も西北に位置する行政区画で、少数民族のウイグル族が多数を占めるエリアだ。そして何よりこの中国の地方行政区は、人類史上あってはならないジェノサイド・民族浄化が今まさに行われているだろう場所としても知られている。5月も終わりが見えてきた頃、私はその新疆ウイグル自治区にいた。

砂漠の星を駆ける

 ウルムチ駅午後10時。カシュガルに向かう寝台列車「喀什号」は夜の夕焼け

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ウイグル旅行を振り返って──中華民族のディストピア

ウイグル旅行を振り返って──中華民族のディストピア

 先日、noteでウイグル旅行記を前後編に分けて2篇投稿した。

 概ね4日間の旅行は私の抱いていた従来のウイグル観を大きく崩すと共に、一つの結論を導き出させた。つまりこの2023年のウイグル自治区(少なくとも主要都市圏)は、既に"従来の民族文化が全て浄化されたディストピア"なのではないかと言うことだ。これについて端的に述べていきたい。

①監視体制の弱体化・縮小化

 従来、ウイグル自治区のイメ

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天津──ソ連空母を観に行く・商務座体験

天津──ソ連空母を観に行く・商務座体験

 ソビエト連邦。世界初の共産主義国家にして戦後世界もう一つの牽引者であった国は多くの遺産を残した。領土問題、民族問題、社会主義リアリズム……。ソ連崩壊の折に最も関心を集めた問題が莫大なソ連邦軍の装備品の譲渡だ。ソ連は崩壊直前から軍備の海外流出が相次いでおり、崩壊とともに多くの装備がソ連邦圏から成る独立国家共同体加盟国に配分された。

 ところ変わって中国は天津市。北京近郊の港町として栄えたこの西欧

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カシュガル民宿街──作られた旅情

カシュガル民宿街──作られた旅情

 最近、新疆ウイグル自治区に徐々に日本メディアが入るようになり、様変わりした新疆の様子が話題になりつつある。
 私自身、少し前に書いた2本の旅行記(下にリンク)や、旅行の振り返りが好評を博したりと、新疆を巡る情勢は日本が取り上げる中国ニュースの中でもホットな話題と言えるだろう。

 そしてつい先日公開されたこの記事は、ウイグル自治区のカシュガル市内に設けられた民宿街について触れていた。
 旅行記を

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雲南─麗しき"金三角"

雲南─麗しき"金三角"

 中国雲南省。中国国内で最も多くの少数民族が居住するこのエリアは、南方情緒を色濃く残す、中国でも異色の土地だ。
 北京市が40℃に迫ろうとしている6月の半ば、雨季の様相を呈する雲南省に私はいた。

北の首都から熱帯の中国へ

 北京市から飛行機で3時間、雲南省昆明市。省都にして一帯一路・中国=ラオス運命共同体の拠点にもなっているこの街は、流石というか中国の地方都市の中では比較的規模が多い印象を受け

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中朝国境──豆満江に響く朝鮮鉄路の笛

中朝国境──豆満江に響く朝鮮鉄路の笛

 4月に入ったにも関わらず、寝台列車のコンパートメントには冷たい冬の風が入り込む。「私は丹東の出身でね。まだこの地域はずっと冬だよ」と話したっきり、同部屋になった東北人のおばあちゃんはじっと雪の残る東北の大地を眺めていた。

丹東駅朝8時

 朝8時前、列車は朝鮮との国境都市である丹東駅に滑り込んだ。あいにくの雨模様で傘を持っていない。仕方ない、駅についた感慨にふける間もなく、駅横にあるホテルに駆

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