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発達障害の生き方(ASDの一当事者の体験から)

私は自閉症スペクトラム(ASD)の当事者です。21世紀になってから就労を始め、途中で無職の時期も挟みつつ、IT技術者や工場オペレータ、事務員として生き延びてきました。自分の体験から或る程度ほかの発達障害者のために言語化して役に立つかもしれないと思ったアドバイスやモノの見方を書き残しておきたいと思います。お説教が多いのでそこは申し訳ありません。

一般に「障害者」であるだけでも千差万別なのですが、その中でもさらに特性が個人個人で大きく偏っているのが発達障害者の特徴だと心得ておりますので、すべてが役立つ人はもちろんいないと思いますが、ひとつふたつでも拾って参考にしてもらえればうれしく思います。


生計を立てる・就労・経済的自立

  1. 就職する

    • 一般の雇用と違って、障害者枠での就労プロセスでは自分の労働者としてのプラスばかりでなく、マイナスもしっかりと強調して、それがどうすれば補われるのかを事業所の面接担当者に明確に言葉で伝えなければなりません。なぜならば、面接担当者はあなたがこれから一緒に働くかもしれない現場の上長にあなたに対してどのようにサポートしたらよいかを連絡しなければいけないからです。特にオープン就労であれば、障害者雇用という前提から、面接担当者は何かしらのマイナスを現場の人々に伝達しなければなりませんが、それはコトバでおこなわれる必要があります。あなたは自分への配慮希望をコトバにして渡さなければいけません。

  2. 現場で働く

    1. 障害者からの配慮

      • 残念なことに、あなたは合理的に配慮されるべき障害者もしくは非定型発達者であるにもかかわらず、実際にはあなた「も」職場の周囲の人たちに配慮しなければなりません。なぜならば、まずあなたが職場の人たちに配慮して、あなた自身がどういう人であるのかをわかりやすく周りの人に伝えるという配慮ができなければ、まわりの人たちも、あなたを仮に助けたくても、どうやって助けたらいいのか、何が負担になり何が負担にならないのか、見当がつかないからです。健常者は障害者支援のプロではないし、あなたに深い興味はなく、実際、何も知らないのです。

    2. 企業とは「悪の組織」であると捉えたほうがいいかもしない

      • 民間企業での私の経験から言えば、職場では「何が正義か?」とか「何が道徳的か?」といったことは少なくとも文字通りの意味では問題になりません。どんなことが自分たちに利益や良い気分をもたらすか、イヤな気持ちにならないかの方がはるかに大切で重要です。動機や意図の純粋さや、事実と異なるウソを言ったかどうかよりも、結果的にみんなが満足することや誰も面倒なトラブルに陥らないことの方が喜ばれます。

      • もし同じ組織のなかにずっと留まりたいと思うならば、あなたは自分が同僚たちの「味方」であるというシグナルを言葉だけではなく、日常的なあいさつや気配りなどのちょっとした行動で繰り返し繰り返し示していく必要があります。というのも、もしあなたが「味方」でないと認識されてしまうと、あなたに対する同僚の評価や「当たり」は厳しいものになってしまうからです。あなたがあまりにも他の人の気分をわるくすると、あなたは「裏切者」としていじめられたり追放されたりするかもしれません。ウソはついても許されやすいですが、約束は律儀すぎるほど律儀に守ったほうがいいのです。こういった点で組織というのは、ヒーロー番組の「悪の組織」に近いイメージで捉えた方が余分な期待を持たずにそこで過ごしていける場所であるかもしれません。裏切者には死あるのみです。

    3. 上司と部下の関係は親分子分の関係と捉えた方がいいかもしれない

      • マフィア映画などの反社会的組織を美化して扱ったコンテンツをみると、そうした組織は自分たちを疑似家族として扱っていることがわかります。つまり、実際には赤の他人同士であるのに「ファミリー」として親分子分関係を結ぶことで、あたかも血縁で結ばれた理想的な家族・一族のような利害共同体をつくるのです。そうやって相互に助け合う組織をつくれば、生き延びる可能性が高まるからです。あなたも職場の中で自分の「ファミリー」を増やすように、味方を増やせるような行動をしたほうがきっといいでしょう。別の言い方をすれば、媚びや恩義を販売するチャンスがあれば自分を嫌っていない人にそれをどんどん売却した方がよいということです。そうすれば、仮にあなたが職場でミスを犯して苦境に立たされたとしても「お目こぼし」がもらえたり、「口添え」をしてもらえるかもしれません。反対に、職場で孤立すると悲惨なことになります

※あなたの特性によっては職場で「ロボット」や「歯車」の立場に自分の行動を寄せるのが労働をやり過ごす上で得策かもしれません。そのためのヒントは下記の記事を参照してください。

「普通」ってなんでしょう?

「〝普通〟なんてないんだ!」という人をたまにみかけます。もちろん、コトバの表面だけでは何が言いたいかハッキリしないことも多いので、実際の発言意図はさまざまでしょう。ただ字面通りに取った場合、私としてはそんなことはなく、実際に「普通」は確かにあると感じています。それも一つあるというだけではなく、無数の「普通」が乱立しています。しかもそれぞれの「普通」は時間が経過するごとに変動するので、私としては「普通」というよりも「相場」といった方が適切なイメージに近いのではないかと考えています。

日本文化に関する有名なエスニックジョークで、日本人を難破した船から飛び降りさせるときは「他の人も飛び込んでいますよ」と声をかけるとよいというものがあります。おそらく多くの人は「相場」をどうにか読もうとするというよりも、子供の頃から隣の人の真似っこをして振舞ったり、同調圧力(ピアプレッシャー)を感じるアンテナを育ててきたのでしょう。あなたにもそれがあるのであれば問題ありませんが、もしないのだとしたら(私はありませんでした)どうにかして他の人々の足並みからその現場での「相場」を読み取る必要があります。もし「相場」を読み取れないでポイントを外した発言や行動をしてしまうと、あなたは場違いな人間として存在を無視されてしまうでしょう。それは悲しいことです。

ひょっとして、私はいろんな福祉や医療の制度のあいだを一人でつないで綱渡りをしなきゃいけないんじゃないだろうか?」

障害者としてお医者さんや支援センターの人たちと関わったり、就労支援などの複数の制度を利用していると、それらの制度をまたいでうまく乗り切ることそれ自体が負担に感じてしまうことがあります。

発達障害は社会性の障害です。それにも関わらず複数の制度をまたいで調整しながら自分のケアをしなければいけないというのは、ただでさえ不向きなことをやらなければ、苦境から脱出できないということなのではないか?と疑問に感じます。実際、そういう状況に自分自身が投げ込まれていた時、私は大きな不安に駆られていました。誰も「私」をみていない。私一人の全体像をわかっているのは私だけで、私の部分的な不具合ひとつひとつをそれぞれの制度や機関で手当てしてもらっても、トータルでそれが良い結果を生んでいるかどうか、ハーモニーを奏でているかどうかは自分自身でマネジメントしなければいけません。

おそらくこのような複数の制度をまたいでケアを受けて自分を調整するというのは「誰にでも同居していて世話してくれる肉親がいる」という前提の元に組み立てられているのでしょう。ですから、本当はそうした自分自身の代わりに自分の全体像を把握してくれる味方そばにいれば一番理想的なのですが、現実はそういう人ばかりではありません。

一人暮らしの発達障害者が直面するこの課題が存在するということを心に留めておいてもらえると、少しだけ覚悟ができるかもしれません。たとえそういう状況に陥ったとしても、それぞれの制度の中であなたを担当してくれる人たちは決して悪意を持っているのではないと信じるようにしてください。もちろんあなたにハラスメントをしてくるのであれば話は別ですが……。

あなたは無価値な存在?

安心してください。あなたの値打ちを決める権限はあなたにはありません。あなたには憲法で保障された人権があります(それがなけなしのものに過ぎないとしても、です)。もしあなたの値打ちがあまりにもマイナスなら、あなたは障害者として様々な手当てを受けることができます。もっとマイナスなら、あなたが自傷行為に走らなくても警察があなたを逮捕してくれます。あなたが自殺しなくても、あなたがあまりにも有害な存在であれば日本には無期懲役や死刑という制度がおかれています。あなたが仮に自分のことを単なる消費者でしかないと思っていても、あなたは消費税を日々納めている納税者であり、納税を通じて国際貢献や地方創生やインフラ公共事業に貢献しています。

非常に残念なことに、あなたの値打ちはあなた自身が決めているわけではありません。あなたは強制的に人権を与えられています。いわゆる自由の刑に処されているのであって、生まれてしまったからにはあなたの「幸せ」をみつけて、それに向かって蛇行しながらでも進んでいくほかないのです。このことは障害者であっても何の変わりもありませんが、障害者や少数派であるがゆえに意識せざるを得ないことです。

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