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文芸やまなみ 佐藤亜弥美の紀行文・エッセイ

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山並みのあいまから。 恵那市笠置町に暮らす佐藤亜弥美のエッセイ・紀行文を不定期にアップしていきます。 日々の暮らしのこと、里山のこと、アフリカ旅のことなど。
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記事一覧

ロンダニーニのピエタ像(作品が生きている、と感じるとき)

ロンダニーニのピエタ像(作品が生きている、と感じるとき)

ロンダニーニのピエタ像(ミケランジェロ、亡くなる直前の未完の作品)をイタリアでみたとき、「ひっ、生きている」とおののいた。

この感覚になるアートってほんとうに少ない。
何の気なしに宿の近くに城があるから、ふらりと入ったミラノのスフォルツァ城(現在改装され美術館になっている)でびっくりした覚えがある。

ミケランジェロの存在がすぐそこに感じられるのである。
嫌なエネルギー感ではないが、ものすごく「

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祈る群像 |旅のエッセイ/モザンビーク/ベイラにて

祈る群像 |旅のエッセイ/モザンビーク/ベイラにて

 迷い込んだ浜辺で。うだる暑さのなかのモスクで。湖のほとりで。おんぼろバスのなかで。アフリカでそこかしこに見たのは、祈る人々だった。貧しさに、飢えに、不遇に耐えるために祈る人々。アフリカの人々にとって、神はとても近くにいるのに、その光ははるか遠い。 

 わたしはモザンビーク島があるモザンビーク北部から、ほぼ最南端にある首都マプトへ行くために、バスの乗り継ぎをしにベイラへ来た。
 モザンビーク島に

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(後編)カバと、ちいさな家族【旅のエッセイ/ザンビア/シヤボンガ】

(後編)カバと、ちいさな家族【旅のエッセイ/ザンビア/シヤボンガ】

前編はこちら

カバとの対峙

 次の日の夕食の後、昨晩と同じに流しで皿洗いをしていた。流しのそばには勝手口があって、外のたたきでは猫が数匹餌を食べていた。ふと猫を見に勝手口から顔を出すと、ショーンが勝手口の外側にいた。
「こっち、静かにおいで」
とショーンが手招きしている。

勝手口を出てみると、なんと数メートル先の草地に、カバが草を食んでいるのが見えたのである。本当に手に届くほどの近さであっ

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(前編)カバと、ちいさな家族【旅のエッセイ/ザンビア/シヤボンガ】

(前編)カバと、ちいさな家族【旅のエッセイ/ザンビア/シヤボンガ】

カバの影

夜に溶けてしまいそうな大きく暗い湖を、満月が照らし出す。湖のへりの草原に、のっそりと、どっしりと歩く巨体がある。夜風は湿っている。一歩その巨体が踏み出すごとに、土がみしみしと音を立てる。巨体の持ち主の顔は暗く、よく見えない。この巨体がこどもなのか大人なのか、まったく検討が付かないが、人間の何倍もあることには間違いない。月夜を破るようにばりっ、ばりっ、と音が響く。…カバが草を噛み、引き

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シソノという子 -マラウイ・サリマ、センガベイにて【旅のエッセイ】

シソノという子 -マラウイ・サリマ、センガベイにて【旅のエッセイ】

蓮の湿原を抜けて シソノを思い出すとき、その場面は映画であるならおそらくハイライトと思われる。シソノは光をまとって微笑んでいる。しかしそのまぶしい光はすぐに霧に暗く覆われてしまう。シソノの行く末を考えると、彼女の将来は苦しみに満ちているのか、それとも満ち足りた生活を送っているのかと案じてしまう。わたしにはそれを知るすべがなく、涙を禁じえない。
 
 シソノはおそらく二歳とすこしだったと思う。そこら

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天国と呼ばれる国  レソト 【旅のエッセイ】

天国と呼ばれる国  レソト 【旅のエッセイ】

レソトの肩を越えて

 南アフリカ共和国のなかに、九州ほどのちいさな王国がある。ドラケンスバーグ山脈を南東に抱えるレソトという国は、四方を南アフリカに囲まれている。
南アフリカの海岸の都市ダーバンに滞在していた時に、旅する若いフランス人カップルに出会った。特に行く当てもなかったわたしを、レソトへの旅に誘ってくれた。カップルの旅行についていくなんて悪いな、と思っているわたしに、ふたりより三人のほうが

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人魚のいる海 ーモザンビーク・ヴィランクロにて【旅のエッセイ】

人魚のいる海 ーモザンビーク・ヴィランクロにて【旅のエッセイ】

 なぜヴィランクロに行きついたかは詳しく覚えていない。モザンビークは対岸にマダガスカルを置くアフリカ大陸の東側の海洋国で、インド洋に面しているため中世より海からの客人が多い。わたしは二十代だった。北部の世界遺産モザンビーク島、中部のベイラを経て、知り合いのいる南部の首都マプトにたどり着く前に一度インド洋らしい海を見ておきたかった。海岸沿いで豪雨に見舞われやすい古都ベイラから首都マプトまでは海岸線に

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