見出し画像

【ファジサポ日誌】87.地方クラブが生き残るために~「パイを増やす」は大事~

明けましておめでとうございます。
本年も「ファジサポ日誌」をよろしくお願い申し上げます。

新年早々に「令和6年能登半島地震」が発生しました。
犠牲になられた方へのご冥福をお祈りし、被災された方へ心からお見舞いを申し上げます。

Jリーグサポーターの一人として、新シーズンの開幕が来月と迫る中、被災されたサポーターの皆さまに出来るだけ早く日常生活が、そしてサッカーのある生活が戻ることを切に願います。

1.岡山の大型補強から考えてみた

昨年、2026年夏からのシーズン移行が決定し、これからJリーグは大きな変革期を迎えます。アジアのチャンピオンになれる、世界に通用するビッグクラブを創ることに躍起な今のJリーグにおいて、筆者が応援するJ2ファジアーノ岡山をはじめ、地方クラブ、下部リーグのクラブの経営環境はこれから増々厳しいものへと変化していきます。

子どもたちにトップリーグの試合をみせる、即ち「子どもたちに夢を!」をクラブ理念に掲げるファジアーノ岡山は、いわゆる親会社を持たない市民クラブです。
今後Jリーグからの配分金が、これまで以上にJ1に傾斜配分されるようになると、資金面でJ1への昇格は手が届かない夢になってしまいます。

そうなる前にJ1へ昇格するべく、ファジアーノ岡山は2021シーズン途中から積極的なチーム強化を進めています。有料媒体(ファジゲート)からの情報ですので詳細は避けますが、これまで5億円前後であったチーム人件費は昨シーズン、今シーズンと確実に上昇、最終的には現在のJ1中~下位クラブの水準への到達を目標にしているようです。

人件費をしっかり掛けられるようになった要因は下記①~⑤にまとめられると思います。

上門知樹、井上黎生人のJ1移籍による移籍金、ミッチェル・デュークのワールドカップ出場による報奨金、佐野航大のオランダ移籍による移籍金など①選手のステップアップによる増収、②岡山市・総社市の体育施設における指定管理者受託による増収、③チケット・グッズ売り上げの好調、そしてコロナ禍以降の事業費のムダ削減による赤字の圧縮、増資、原資による債務超過リスクの回避といった④筋肉体質(北川社長談)の経営体制確立、⑤スポンサー収入の増加もあったのかもしれません。

今冬のストーブリーグではMFガブリエル・シャビエル、GKスペンド・ブローダーセン等の実力者を新たに迎え、おそらくクラブ史上最強布陣で2024シーズンに臨むことになります。

優秀な経営陣、クラブの涙ぐましい努力とスポンサー、サポーターの熱意が現在の強化体制を生み出している訳ですが、ではこの強化体制をもってして即ち昨年達成できなかったJ2の「頂」を極められるのかというと、そう簡単な話ではないと筆者は感じています。

岡山の新戦力たちには一つの共通項があります。それはフリーまたは(おそらく)契約満了時点の選手、つまり移籍金が掛からない選手が多くを占めているという点です。この点から、豪華補強でありながらもクラブからは、どこか「やり繰り」の意識が垣間みえます。やはりお金に気を遣っている様子が相当に窺い知れるのです。

一方でJ1昇格を争う他クラブの様子をみていますと、清水エスパルスが30億円予算を打ち出していたり、V・ファーレン長崎に関しては2022年の時点で既に人件費が13億円に到達しているなど、強化予算規模では既にファジアーノ岡山を遥かに上回っているクラブもあります。

もちろんサッカーは強化額の規模のみで決まるものではありません。
しかし、上記①~⑤にまとめましたクラブの自助努力やサポーターの熱い想いのみでは、いずれJ1を睨んだチーム強化に限界がくることも予想されるのです。

この限界を突破し、岡山が持続可能なクラブとして生き残るには何が必要なのでしょうか?

2.山形というモデルケース

そんなことを考えていた昨年末、あるクラブの補強に注目しました。
J2モンテディオ山形です。

モンテディオ山形 主な入団・退団選手
(in)          (out)
MF 杉山直宏 G大阪   FW チアゴ・アウベス ボタフォゴ
MF 坂本亘基 横浜FC    FW デラトーレ    ミラソルFC
MF 松本凪生 甲府     DF     野田裕喜     柏
DF 安部崇士 徳島           DF  小野雅史     名古屋   
DF 岡本一真 群馬
FW 有田稜  いわき
MF 氣田亮真 仙台
MF 加藤千尋 仙台

J1・J2から日本人の実力者、特に前所属クラブのレギュラーを多く獲得しています。今回は補強内容の詳細を分析する記事ではないので、戦力的な面の言及は行いませんが、様々な情報を調べていますと、移籍金が発生する選手も数多く獲得している模様です。
この点が岡山との大きな違いになります。移籍金を気にしなくてよいのであれば、より現場のニーズに忠実な補強が可能となるはずです。

つまり、「この選手がベストだけど、移籍金を払わなくてはいけないので第2候補の選手にしよう」という次善の選択の必要がなくなる訳です。
筆者の見解にはなりますが、実際、山形は渡邉監督が進めてきた幅を広く使うサッカーに適したサイドプレーヤーに的を絞った補強が出来ています。

この強気ともいえる補強を可能にしているのが、好調な営業成績にあるといえそうです。

山形地元誌の記事です。近年、山形の営業成績は20億円を突破、2023年度はついに24億円を超えました。

なお、岡山も2022年度の営業成績は前年比プラス約3億5千万円の19億円近くに迫る勢いを示しています。これは称賛されるべきクラブの努力といえますが、山形は更にその上を進んでいるのです。

山形県の人口は現在およそ104万人、県内総生産は4兆円強となっています。一方で岡山県は人口186万人、県内総生産は7兆5千億円程度です。

県内総生産のみで経済規模を判断できるとは思っていませんが、人口規模、経済規模を比較すると、この山形の営業成績は驚異的といえます。

モンテディオ山形は1999年のJ2リーグ創設当初からのメンバーであり、J1に計4シーズン在籍した歴史と実績を持つクラブです。
2013年までは公益社団法人で運営され、その取り組みは地方クラブのモデルのひとつとして注目されていました。

その山形が近年新たな地方クラブの姿を示しているのではないかと筆者は捉えています。

「はえぬき」や「つや姫」(JAグループ山形)とお米のブランド銘柄のインパクトが強かった山形の胸スポンサーが、現在の総合コンサルティング企業「ABeamCоnsulting」に変わったのが2016年。
同社によるチーム支援自体は2013年からスタートしています。
2000年代、公益社団法人によるクラブ運営が注目を浴びていた山形でしたが、クラブの経営規模拡大に向けた株式会社化に併せて事業パートナーを募り、これに選定されたのが同社という経緯です。
現在、同社は山形の株式の49%を取得(公益社団法人も49%を取得)し、いわゆる親会社と呼べる立場かと思いますが、特長的なのはコンサルティング企業の強みを全面に出して、クラブ経営、運営の細部にまで連携、サポート、特に営業力を強化してきた点にあるといえそうです。
楽天、ヴィッセル神戸出身、現在の相田健太郎社長を招聘したのが2019年ですが、ここから一気に営業成績が向上しています。
また、早い段階からNDソフトスタジアムがある山形県総合運動公園の指定管理者事業を担っています。

ABeamCоnsulting社は元々大手監査法人から独立したのですが、スポーツ事業や公共セクターのコンサルティングに強い点も特徴のひとつです。
マンチェスター・シティとパートナーシップを締結していることでご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
余談ですが、鹿児島ユナイテッドのサポとして鳥取遠征中の様子が話題となった鹿児島市の下鶴市長も同社出身だそうです。

モンテディオ山形の事例は、地域性や公共性を重視する企業姿勢やスポーツ事業に強いパートナー(実質的な親会社)を得たことで「オラが街のクラブ」の雰囲気、空気感を維持しながらJリーグにおいて地方クラブの存在感を強めていく一つのモデルケースなのかもしれません。

参考にABeamCоnsulting社のHPと、相田社長就任時のスポーツライター大島和人氏の記事が興味深かったので貼っておきます。

3.先進産業がクラブを強くする?

山形が外部にクラブ経営・運営のエネルギーを求めながらも地域性や公共性を失わない事例であるなら、岡山のように親会社を求めずに市民クラブとしてクラブの価値を更に高めていくにはどのようにすればいいのか?

クラブは当にその青写真は描いていると思いますが、出来る努力はある程度全てやっているのかなと、あくまでもサポーター目線ではありますが、そのように思います。

では更に岡山のクラブ規模を拡大、人件費をもっと使えるクラブにしていくにはどうすれば良いのか?
ここではあえて、一体感といったマインドの話は避けようと思います。
お金を増やさなくてはならない、パイを増やさなくてはならない、つまりスポンサーを増やす必要があるのかと思います。
現在のファジアーノ岡山も堅調かつサッカーに理解のある素晴らしいスポンサー企業に恵まれているとは思うのですが、今後の他クラブとの競争を考えた時にもっと「岡山」の産業が振興されなくてはならないと思うのです。

https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/83152_268459_misc.pdf

岡山県が公開している経済状況を示す文書・資料を貼ってみましたが、全体的には製造業にしても運輸業にしても、現状は横ばいか低調にあることがわかります。また、この資料には記載はありませんが、近年の少子化や紙媒体の削減・減少により岡山の産業を長年支えてきた印刷業やそれに関連する倉庫業にも近い将来大きな岐路が訪れるかもしれません。

日本全体の産業動向をみた時に、現在注目したい動きは半導体産業の国内回帰です。現在、日本国内にいくつかの大規模拠点が整備、計画されています。筆者は数年後には半導体産業を抱える地域のクラブが大きくその規模を拡大するのではないかと予想します。

https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/life/168486_394477_misc.pdf

西日本で注目されているのが熊本県です。
「くまもと半導体産業推進ビジョン」という50ページにわたるpdfなのですが、日本の半導体産業の今がよく整理されていますので、関心のある方は参考にしていただければと思います。

数年後、この半導体産業が隆盛し、関連産業も含めてロアッソ熊本のスポンサーになったら、今のJ2リーグの関係性などはガラッと変わる可能性もあるのです。

つまり、岡山にも先端産業・先進産業の振興が必要であると思うのです。
半導体産業ということではありません。この産業には豊かな水資源が必要です。どこでも誘致できるというものでもありません。
岡山にも先端産業の目はあります。10年程前には国内旅客機開発を視野に入れた航空機部品工場が県内に誘致されました。この旅客機開発が順調であれば、もっとその規模は拡大されていたかもしれません。

自動車産業の強みを活かした高度医療機器製造業などは、製造品の付加価値も高いですし、もっと県全体で盛り上げていかなくてはなりません。

筆者は経営や産業の専門家ではないのですが、時代に合わせたスポンサーの獲得はこれからのJクラブ、特に地方クラブの大きな課題になると考え、新年1本目はこのような記事にしてみました。

明後日(1月8日)には新ユニフォームが発表されます。今シーズンは昨シーズン以上に強化費、人件費をかけたシーズンになりそうです。ファジアーノ史上今まで無かった「鎖骨」にスポンサーが入るのか?この点にも注目したいと思います。

今シーズンもよろしくお願い致します。

【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、
ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに
戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。

アウトプットの場が欲しくなり、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦中。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。


この記事が参加している募集

サッカーを語ろう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?