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【ファジサポ日誌】30.「スタイル」と「スタイル」のぶつかりあい~J1参入プレーオフ決定戦 京都サンガvsロアッソ熊本~

サンガスタジアムbyKYОSERAのアウェイ席を埋めているのは赤の軍団。もし臙脂のユニフォームと旗が、そして自分自身がこの席にいたらどのような気持ちになっていたのかと思わず想像してしまいます。

未だにプレーオフ敗退の悔しさは消えず、いやもう来年まで持ち越してやろうと気持ちを燃やし続けていますが、そのエネルギーを持続させるためにもこのプレーオフ決定戦は見届けなくてはならないと思っていました。

J2・4位ロアッソ熊本とJ1・16位京都サンガのJ1参入プレーオフ決定戦をレビューします。DAZNで同時刻開催のJ3鹿児島vs岐阜も視ていましたので、この試合はBS1で視聴しました。

※写真は今シーズンの岡山vs熊本より

1.試合結果とプレーオフのあり方について
2.両チームスタートメンバー
3.硬い立ち上がりとマッチアップ
4.京都の三角形を突破する熊本
5.ファジサポ目線で視た京都の先制点
6.イヨハのニア
7.アドバンテージを活かした京都

1.試合結果とプレーオフのあり方について

皆さまご存知のとおりJ1・16位にアドバンテージがありますので、試合結果はドローですが、京都がJ1残留を果たしました。

予め分かっていることではありますが、J2リーグ戦42試合、プレーオフを2試合勝ち抜いてきた熊本にとって、90分での勝利においてのみJ1昇格を果たせるというレギュレーションは厳し過ぎるとの声も多数みられます。

Jリーグがこのようなレギュレーションを採用しているのには、おそらく理由があります。

過去10年におけるJ1昇格クラブの次年度成績

2012シーズンにJ1昇格プレーオフが開始されて以降、プレーオフを勝ち抜いたクラブのJ1昇格初年度の成績が非常に良くないのです。
6クラブ中4クラブが1年でJ2降格、圧倒的に成績が低迷したクラブもあり、JリーグはJ2・3位以下に関して基本的にJ1で戦うレベルに無いという見解を持っているものと思われます。

一方で22クラブもあるJ2リーグに関して上位2クラブの自動昇格を認めるのみではリーグ戦全体が盛り上がらず、シーズン終盤に消化試合も増えてしまうという商業的な理由からプレーオフを開催しているものと思われます。

J1のレベルの維持と商業的理由の狭間に存在するJ1参入プレーオフという制度自体が、そもそも矛盾しているのかもしれません。

プレーオフのあり方については改善の余地があります。
J2クラブの場合、リーグ戦の42試合、このプレーオフで3試合の計45試合を戦い抜いたリターンはJ1昇格以外には考えにくく、次シーズンの編成で出遅れが生じるというリスク(まるで罰ゲーム)を背負わされるのは、リーグ戦で上位につけ、厳しい戦いを勝ち抜いてきたチームが受ける報いではありません。

この点を問題視するのであれば、プレーオフの日程を短くする必要があります。
岡山も2016シーズンはリーグ戦6位でしたが、リーグ終盤には全く勝てなくなっていました。また今シーズン6位の山形もリーグ戦序盤は降格圏に近づく低迷ぶりでした。客観的に6位のクラブにはシーズン通して安定して戦う力量はないものと思われます。ましてやJ1で戦う力量はないと考えるのが自然です。
それならば、プレーオフでアドバンテージを付けるよりも、プレーオフ進出圏を4位以内にしてプレーオフを2週で終えるようにするのも一案です。

また、こうした改善の前提としてJ1とJ2の日程を合わせることも重要です。
早ければ2024シーズンからJ1~J3のチーム数を20に統一する案も出てきました。
この案が実現しますと、J2リーグの試合数は42試合から38試合に削減され、収入面でのマイナスも想定されますが、一方で過密日程の解消に繋がるメリットもあります。
今よりはプレーオフに余力を持って戦えるメリットも出てきそうです。
チーム数変更の過程でプレーオフが開催されるのかどうかも含めて、どのように形なるのか分かりませんが、昇降格のチーム数も含めて、プレーオフのあり方そのものについてもメスを入れてほしいです。

皆さまはどのようにお考えでしょうか?

2.両チームスタートメンバー

J1参入プレーオフ決定戦 京都vs熊本 スタートメンバー

互いに前節同様のスタメンでした。余計なことはせず、お互いに自分たちのサッカーを出し切ろうという意図があったように思います。

岡山サポとしては、京都に元岡山戦士が多い(豊川、武田、井上)点はどうしても気になります。当然、彼らは京都の想いを背負って戦う訳ですが、PO1回戦で敗れた者として、簡単に熊本をJ1に通してほしくないという心情も湧き起こります。

更に京都ではリーグ戦最終節に引き続き(9)ウタカがベンチ入りしました。磐田戦では短い出場時間ながら決定機を作り出していました。どのような戦況、タイミングでピッチに投入するのか?この点も注目でした。

3.硬い立ち上がりとマッチアップ

京都は「ハイライン・ハイプレス」、熊本は人もボールも動く「アクションサッカー」(熊本のサッカーの形容は難しい…がスタイルは確立されている)と明確なスタイルを持つ両チームの対戦とあり、試合序盤からスタイルとスタイルのぶつかり合いと予想しましたが、思いのほか慎重な立ち上がりであったと思います。

特に熊本は、京都に高い位置で奪われるリスクを避けたかったのか、自陣から細かく繋ぐシーンは少なく、マイボールになると京都のハイライン、特にSBの裏を狙う浮き球を多く配球していました。先制点が重要となる試合において、最も得点の可能性が高まる攻撃と言えますし、京都の最終ラインを下げさせるねらいもあったように感じました。

一方、京都は熊本の配球元アンカーの(6)河原を、同じくアンカーの(24)川崎が激しくマーク、その動きを自由にはさせず、またRSB(14)白井が熊本(16)坂本に対して激しいマッチアップをみせます。
プレーオフの1回戦ではこの(16)坂本が値千金の同点ゴールを決める活躍を見せました。京都のマークはやはりきつくなります。

試合の経過と共に京都のマッチアップの強度は増し、マイボールになると、素早くカウンターに移行しますが、アタッキングゾーンでの繋ぎの精度を欠き、決定的なチャンスを迎えられません。

4.京都の「三角形」を突破する熊本

前半の30分過ぎから京都のプレスが掛からなくなる時間帯があり、この時間帯の攻防がこの試合のポイントの一つであったと思います。

J1参入プレーオフ決定戦 京都vs熊本 前半31分過ぎのシーン

前半31分のシーンを振り返ります。
京都がGKからヘディングで繋いで押し込もうとしていた場面です。熊本がクリアし、こぼれ球が左サイドの(16)坂本に渡ります。

熊本の攻撃の真骨頂のようなシーンであると感じました。
(16)坂本はなぜか中央の(6)河原に向かってドリブルで突進。
(6)河原を潰したい京都は彼を3人(三角形)で囲み(16)武田が猛プレスをかけます。

ここで(6)河原は斜め後ろにバックステップを踏み、京都の「三角形」から「脱出」。(16)坂本からのショートパスを(16)武田の足がかからないぎりぎりのタイミングで受けます。

(6)河原はダイレクトで再び左サイドの(14)竹本にはたきます。

J1参入プレーオフ決定戦 京都vs熊本 前半31分過ぎのシーン その②

(14)竹本は先ほどの(16)坂本のように(6)河原に向かってドリブル突進。京都も先ほどと同じように「三角形」を作り、今度は(16)武田、(10)福岡の2人でプレスをかけます。

しかし(6)河原はこれも交わし、更に中央のスペースに走り込んだ(15)三島へパス。京都はここにも「三角形」を作りますが、(10)河原を追い越した(14)竹本が(15)三島のサポートに入ります。

こうして(14)竹本から(5)菅田を経由してオーバーラップを開始していた(2)黒木へボールが渡り、中央に進出した(16)坂本を経由して最終的に(2)黒木のクロスに至ったというシーンでした。

京都の常に相手コートで三角形を作り、休みなく仕掛けるプレスはJ1でも見ていましたので見事なのですが、そのプレスを熊本のビルドアップが上回っていた時間帯でした。

熊本のねらいは京都のプレスを無効化することです。
そこで京都のプレスを誘いながら、その背後に出来るスペースを探り続けているのです。面白いのは味方同士が極限まで近づくことでサポートしやすい関係を作り続けている点です。
これは、一度ボールを奪われると大ピンチになるため、リスクは高いのですが、ドリブル、ショートパスに自信を持っている選手が多いこと、そして(6)河原の視野の広さがあるからこそ出来る戦術なのだと思います。

更に見逃せないのはボールに関与していない選手、例えばこのシーンでは後半の(16)坂本や(2)黒木がポジションに関係なく前線での攻撃関与の準備をしている点です。

この時間帯の熊本のサッカーを観まして、私はこれは熊本が勝つかもしれないと予感したのでした。しかし…。

5.ファジサポ目線で視た京都の先制点

熊本の「アクションサッカー」全開の流れとなり、前半38分には熊本(18)杉山が敵陣中央付近から満を持してミドルシュート、シュートは枠を捉えていましたが、これを京都(21)上福元が片手一本のファインセーブを魅せます。こぼれ球に熊本の選手が滑り込みながら詰めようとしますが、これはヒットせず、ボールを上福元が抑えます。
若干、コースが甘かったのかもしれませんが、このセーブは見事でした。

このセーブが熊本優勢の流れを大きく変えたと思います。
思えば(21)上福元はリーグ終盤戦でビッグセーブを連発。一部では「神福元」とも呼ぶ声もある程でした。
そんな流れからの京都の先制点。ここは動画で振り返ります。

ファジサポ目線でこのゴールを視た時に勝手に思い出したのが、2016年のプレーオフ1回戦松本山雅戦の赤嶺真吾のゴールなんですね。
あの時は競ったのが豊川でしたが、雨の中、泥臭くボールを繋ぎ、相手最終ラインの裏へ抜けて流し込む…。「神」と呼ばれるGKもいたという点も含めて、J1のクラブと比較してはいけないのかもしれませんが、あのゴールを思い出してしまいました。

熊本目線でみますと、パスを出した(18)松田、決めた(23)豊川は共に熊本県出身。因縁を感じずにはいられません。

話が逸れますが、なんとなく岡山が当面目指すべき姿は今の京都のようなスタイルなのかな?とこれは私の勝手な妄想ですが、そんなことも思ってしまいました。

6.イヨハのニア

自らのサッカーをJ1京都相手に勇敢に遂行していた熊本でしたが、痛恨の失点を喫します。しかも、これまで戦ってきた2戦とは異なり、相手にアドバンテージがある状況です。しかし、熊本の素晴らしい点はここで怯まない、ここで崩れないことです。

それでは後半23分、熊本(3)イヨハの同点ゴールを振り返ります。
プレーオフ2回戦の山形戦、そして第24節岡山戦ゴールと比較してみます。

J1参入プレーオフ決定戦 京都vs熊本 後半23分 イヨハの同点ゴール
J1参入プレーオフ2回戦 熊本vs山形 前半12分 イヨハの先制ゴール
J2リーグ第24節 岡山vs熊本 後半12分 熊本2点目となるイヨハのゴール

この3ゴールに何か共通項がないかと思い、図示して比べてみましたが、あまり共通項がないのです。強いて挙げますなら(3)イヨハがニア(に近い位置に)に飛び込み後ろへ逸らすシュートを放っているという点ぐらいですが、この(3)イヨハの得意なプレー(と思われる)を活かすという点は熊本の戦略なのでしょう。

この京都戦と山形戦は味方がいる場所に走り込む、味方も同時に同じ場所に走り込むことで、相手守備者の隙をついているのですが、岡山戦のようにニアの選手がボールウォッチャーになっている隙を突くような走り方もできます。
この点は、相手の守り方も異なりますので、対戦相手ごとに細かくスカウティングして変えているのだと推測します。各対戦相手は(3)イヨハの頭は警戒していると思いますが、走り込み方や走り込む位置が多彩なため捕まえられないのかもしれません。

7.アドバンテージを活かした京都

注目の(9)ウタカの投入は熊本の同点ゴールが決まった直後の後半25分でした。攻撃に関しては(9)ウタカのアイデアとキープにある程度任せる。そして、ライン全体を下げブロックを敷き、守備を優先します。

J1で戦っていたとはいえ、なかなか1試合で2点以上を奪うことが難しい現状、そしてJ1で磨いてきた守備力を考慮しますと妥当な戦術といえます。アドバンテージを活かした試合運びを選択していました。

後半ATの(9)ウタカの顔面ブロックと熊本(37)平川のシュートのポスト直撃…。熊本は京都の執念の前にボール一個分の差で泣いたのでした。

おわりに
全体的には熊本優勢の試合展開であったと感じました。しかし、最終的には京都がJ1で戦い続けた自信により劣勢の展開を跳ね返した一戦となりました。
京都にアドバンテージがある中、京都は後半そのアドバンテージをしたたかに勝利に結びつけたのですが、時間帯によってはお互いの「スタイル」と「スタイル」のぶつかりあいが見られた好ゲームでした。
前半30~40分の熊本の良い時間帯に熊本が先制できなかったことが、この試合の勝敗を分けたと考えます。
しかしながらスコアはドローです。この試合を観た限り、J2の上位であればJ1下位にも通用するとまでは私は言えないです。
やはり、熊本の積み上げてきたスタイルがJ1に通用したという感想です。

今後のストーブリーグでの熊本の選手の動きに注目が集まりますが、J3から昇格後、たった1年でJ1にも通用するサッカーを完成させ、仮に個人昇格を果たす選手がこの先出てくるならば、現在無名の若手選手たちにも大きな希望を与えると思います。下部リーグの活性化という観点からも今シーズンの熊本が果たした功績は大きいのです。

一方、来シーズンも熊本と戦わなくてはならない岡山としては、何度も書きますが、この京都のスタイルはひとつのお手本になると思います。

2022年Jリーグ最後の試合がとても有意義なものであったことを述べて締めさせていただきたいと思います。

お読みいただき、ありがとうございました。
京都、熊本のサポーターの皆さま、他サポながらレビューさせていただきました。失礼いたしました。

【自己紹介】
今シーズンから未熟な内容ながらもレビューを続けております。
ありがたいことに、最近、コメントや反応をいただくことも多くなって参りましたので、少しばかり自己紹介をさせていただきます。

麓一茂(ふもとかずしげ)
40代。零細な社会保険労務士です。
コミュニケーション能力に長けていないにもかかわらず、人の意図、心情、人と人との関連性、組織の決定などを推測しながら、サッカーを広く浅く観ています。

公私において、全体的にこのレビューのような論調、モノの見方、性格だと思います。
1993年のJリーグ開幕でサッカーの虜になり、北九州に住んでいた影響で、一時期はアビスパやサガンをよく観戦していました。
(ギラヴァンツが産声を上げるずっと前の話です。)

ファジはJFL時代からです。
J2昇格がかかったリーグ終盤、佐川急便戦を落とした時の伊藤琢矢選手の涙は未だに印象に残っています。

ずっと何気なく一喜一憂しながら応援していましたが、2018シーズン後半に「なぜファジは点を取れないのか」考えるようになり、ちょっとずつ戦術畑を耕すようになりました。

ミラーレス一眼片手の乗り鉄です。
先日の東京V戦は、岡山→播州赤穂→野洲→米原→大垣→豊橋→浜松→静岡→熱海→高崎→小出→会津若松→郡山→いわき→日立→品川→武蔵小杉→稲田堤→調布→飛田給と主に快速・普通列車を乗り継ぎ味スタに到達しました。

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