【向日葵は枯れていない!】30.ギラヴァンツ北九州 マッチレビュー ~第30節 vs いわてグルージャ盛岡 ~
シーズン序盤に対戦したチームとの再戦は、当時とは全く別のチームになっていることも多く、改めて分析や対策をやり直さなくてはならない手間があるものと考えます。
今回の対戦相手であった岩手がまさにそういうチームであり、北九州の戦いぶりからは研究の跡はみえたのですが、それが嵌らなかった点が最大の敗因であったと思います。
しかし、想定と異なった試合展開となった時の選手たちの振る舞いという点では、再びチーム全体の「若さ」を見せてしまったという感想を持ちました。
振り返ります。
1.試合結果&メンバー
3連敗の後、ホーム岐阜戦で快勝。今節は最下位に苦しむ岩手が相手でしたが、先制され追いつけないうちにミスからに先に失点。(29)高昇辰のゴールから反撃の狼煙を上げた北九州でしたが、逆に追加点を岩手に許してしまうと、終始ちぐはぐな戦いとなってしまいました。
3失点は今シーズン4度目、堅守がベースのチームとしては、少々心配になる点です。
順位は沼津に抜かれて5位に後退もまだプレーオフ圏内をキープしています。一方で上位陣の中では、最も得失点差が少ないチームとなっており、今後J2昇格戦線に生き残るには、やはり勝ち切るサッカーの再構築が必要といえそうです。
メンバーです。
北九州はエースCF(10)永井龍がメンバー外となりました。欠場は実に26試合ぶりとなります。理由は不明です。
CFには期待の(16)大森真吾が移籍後初スタメンを飾ります。
(27)田中悠也の離脱に伴い注目されていたGKは前節途中出場から安定したパフォーマンスをみせた(1)伊藤剛が今節も起用されます。システムも注目でしたが、前節同様に3-4-2-1です。
一方の岩手はシステムも人も大幅に変更を加えてきました。
前節YS横浜戦(0-0)では3-1-4-2でしたが、今節は基本システムが3-4-2-1です。スタメンも前節から5人を変更、前節から継続出場の選手の中にはポジションが変更されている選手もいました。
DAZNのフォーメーション予想が全く当たってなく、試合開始直後に実況アナウンサーが実際の配置を説明する程でした。
ご存知のように岩手は、今シーズンを中三川哲治監督でスタート、その後、神野卓哉GMが監督を兼任、その神野監督も監督職を退任し、現在は昨シーズン途中までYS横浜を率いていた星川敬監督が指揮を執っています。
就任からちょうど1か月程が経った頃です。
2.レビュー
(1)北九州のねらい
まず3-4-2-1の継続についてですが、3-4-2-1というよりはスリーバックを継続したかったのではないかと感じました。
盤面上ではお互いに基本システムが同じで、これだけをみますと「ミラーゲーム」に持ち込みたかったようにも見えるのですが、先ほど述べましたように、岩手は前節のYS横浜戦で今節とは異なるシステムを採用。北九州側が今節の岩手のシステムを予想することは困難であったことからも「ミラーゲーム」へのねらいはなかったように推測します。
また、岩手は盤面上は3-4-2-1なのですが、保持時には大きく可変していました。
前線と左サイドはやや流動的であったと思いますが、RCB(18)宮市剛がサイドまで張り出してRWBのようなポジションを取ります。ビルドアップは残った2CBとGK(1)大久保拓生でスタートする形です。
つまり、ミラーゲームにはならない訳です。
一方で、岩手の最近3試合のボックス進入傾向をみていますと特徴的な傾向が浮かび上がります。
①右サイドからはクロスを多用する、②左サイドからは内レーン(第4レーン)へのパスが中心となる、③進入起点は5レーンを広く使っているといった点です。
何となくYS横浜時代の星川監督のサッカーを思い出させるような特徴ともいえます。就任から約1ヶ月と述べましたが、今節はちょうど新戦術が浸透してきていた時期でもあったと思います。
北九州としては、岩手のこうした進入に対して①については(50)杉山耕二、(13)工藤孝太の2枚で跳ね返し、②については(4)長谷川光基のチャレンジで対応、そして大外からの進入は両WBが制限をかける。
このような守備プランであったものと考えます。
よって3バックの前節からの継続というよりは、今節特有の事情から改めて3バック採用が必要であったと推測します。
(2)ねらいが崩れた理由
続いては(1)で述べましたような北九州のねらいが崩れた理由について考えてみたいと思います。
これも大きく分けて3点あったと思います。
まずは、前線からのプレスがあまり機能していなかった点です。
岩手の3バックの面々は可変も想定していることから、本来WBの(18)宮市やボランチもできる(17)新里涼が入っていました(実際に後半途中からはボランチへ移る)。
ビルドアップに定評がある選手たちで組まれていますので、北九州のプレスも空転していたようにみえました。
更に厄介であったのが、岩手のしっかりした最終ラインからのビルドアップは前後半とも序盤の15分ほどに限定されていた点です。残りの時間に関しては、北九州陣内にロングボールを蹴り込む場面も多かったと思います。
これが更に北九州のハイプレスを空転させた訳ですが、北九州の出方をみてというよりは今の岩手の状況がよく出ていたと思いました。
おそらく星川監督が指向するサッカーは後方からのビルドアップから丁寧に組み立てる形なのですが、これまでの岩手が取り組んでいたサッカーはダイナミックにボールを動かすサッカーであったと思います。確か前回対戦時(第2節)もそうであったと思います。今の岩手は、ビルドアップ型に取り組んでいる過程でそうなっているのか、それとも意図した混合型なのかわかりませんが、以前のサッカーと今のサッカーが混在しているような状況なのです。
これが特に前半北九州の守備の「獲り所」を失くしていたように見えました。
1トップ(16)大森のプレスに関しては悪いようには映らなかったのですが、どうしても(10)永井と比較するとしつこさという部分では物足りなかった印象も拭えませんでした。
岩手のパスネットワーク図からも時間帯によるボール運びの大きな変化がみてとれます(SPORTERIAより)。
ふたつ目は、北九州保持時に岩手の第2ラインに引っ掛けられショートカウンターを数多く許した点です。
配置図では赤の点線が岩手の第2ラインになります。
このラインの突破に苦労した理由もいくつかあり、まず岩手が保持から非保持へと移行する過程で、出来るだけ高いライン(ミドルゾーン)で奪う意識が高かったことです。つまりWBが非保持時に一気に撤退するのではなく、北九州の出方をみながら徐々に後方へと戻っていくような守備移行であったと思います。
よって岩手の第2ラインには各レーンに人を配置出来ている人数が揃った状態をつくれていたのです。更にここに本来CBの(4)深川大輔が配置されていた点も大きかったと思います。岩手としてはこの第2ラインで北九州ボールを奪う構えは十分に出来ていました。
更に北九州側にもこの第2ラインを突破できない理由があったと思います。
特に前半、中盤から前線にパスやフィードが十分通らなかった点にあります。CH(6)藤原健介がボールを持つ時間が普段より長かったとように見えましたが、パスの出し所を探っていたようにみえました。(6)藤原自身の調子もあまりよくなかったように見えましたが、パスの出し所を探すということは、やはり前線のパスレスポンス(パスを引き出す力)が足りていなかったからだと思います。オフザボールのところでの裏をねらう素振りなどの駆け引き、下りる動き、(29)高昇辰や(21)牛之濱拓らが中に入ってくるスペースをつくる動き、今節(10)永井の不在の影響を感じたのはまさにこうした点でした。筆者はこれまで(10)永井から交代後の(16)大森のワントップぶりは良かったとみていましたが、先発で自らゲームをつくっていくとなると、まだ力量不足の面もあるのかなと感じざるを得ませんでしたし(サイドに流れたりと彼なりには工夫はみられたのですが)、Xの投稿では2トップの方が合っているというご意見も数多くみられました。
今後、(16)大森自身の奮闘と(16)大森の起用法の確定の双方が求められます。
前半、前線のアクション不足が北九州、特に(6)藤原が岩手の第2ラインを突破するボールを出せず、時間を掛けているうちに岩手に引っ掛けられてしまった原因といえます。
前半で交代した(16)大森、シュート0本は残念。今後の巻き返しに期待したい。
パス成功率が異様に低かった(6)藤原、全くなかった訳ではなかったが、もっと浮き球を使う、アバウトなボールを落とすという変化も必要であったのかもしれない。
北九州のパスソナー・パスネットワーク図。試合全体を通してのものだが、やはり中盤から前線にほとんどパスが通っていない様子が伝わる。
最後に3つ目は、岩手左サイドからの進入への対応についてです。
この点は岩手の先制点のシーンがもっともわかりやすいといえます。
(いわて公式さんから引用します。)
右サイドに大きく展開されているのですが、まず北九州全体の戻りが遅れている。トランジションが十分でない点がみてとれます。
LWB(15)加々美登生に対して(4)長谷川がチャレンジにいくのですが、ここであっさりクロスを許してしまったのが痛かったと思います。岩手LST(77)小松寛太が(17)岡野凛平を引き連れた内側へのランも効いていました。(50)杉山は既に(39)河辺の走り込みを予測していたと思われますが、先に良い形で入られてしまいシュートブロックにもいけませんでした。
北九州としては想定していた形での対応であったと思いますが、トランジションの遅れ、そして各局面、個で負けてしまっていた点が大変残念でした。
(3)後半の修正について
ということで、北九州は後半から慣れ親しんだ4-2-3-1へと陣形を変えました。CF(16)大森に代えて(20)矢田旭を投入、トップ下に入れ、(29)高昇辰をワントップに置く形です。
ねらいは(29)高昇辰をトップに置くことで、前線からのプレスをしっかり掛けること、そして岩手のWBが戻り切らない内にサイドを素早く攻めて、サイドからのクロスに強い(29)高昇辰に得点を獲らせる。
そして(20)矢田を入れたことで、後方からのパスを引き出すねらいであったと思います。
非常に良い修正にみえました。
前半は非常によくない試合運びの北九州でしたが、52分に(20)矢田が決定的なシュートを放つなど、先に次の1点を決めることが出来れば、まだこの試合の勝敗の行方は分からなかったと思います。
その1点が北九州のミスから岩手に入ってしまったというのは痛恨の極みでしかないのですが、この時間帯にもう一つポイントになった点があったと思います。それはシステム変更後にCBの(4)長谷川をそのままRSBで起用したことです。後半に入り、北九州はねらいどおりサイドを特にこの右サイドを上手く攻めることが出来ていました。
よって(4)長谷川がドリブルで持ち上がるシーンもいくつかみられたのですが、やはりCBの選手なのでクロスの精度は低かったと思います。
ベンチには本職(22)山脇樺織も控えていたことから、後半開始から(22)山脇にスイッチしても良かったように思えたのですが、この点もいくつかチーム事情を想像できます。ひとつは、後半開始から(20)矢田を投入していたことで1点ビハインドの状況で2人いっぺんに後半開始から代える難しさという点、そして前半失点に絡んだともいえる(4)長谷川の挽回力に期待した面もあるのかもしれません。この点は結構今の北九州のチーム状況を表す重要なポイントのような気もします。結果を出しながらも、選手の成長を促していく起用も行わなくてはならないという面です。それであれば(16)大森に1試合任してみても良かったのかもしれませんが、難しいマネジメントであると思います。更に、(22)山脇のコンディションの問題もあったのかもしれません。
69分、(29)高昇辰がワントップ起用に応えるゴールを決めただけに、2失点目で勝負ありという試合になってしまいました。
3.まとめ
北九州にとっては非常に厳しい試合になりましたが、この試合チームに油断があったのかどうかは筆者にはわかりません。
しかし、ここまで述べてきましたように成長途上の岩手のサッカーに翻弄されながらも、各選手個人でもっとピッチ上で改善できた、個の能力で対応出来た面もあったと思います。裏を返せばこの点についてはすぐに改善できるのかもしれません。
この負けを薬にしてもう一度引き締めてくれたらいいと思います。
一方、岩手については、北九州が負けたからそのように述べる訳ではないのですが、最下位のチームのサッカーではないです。新体制になって戦術が浸透してきた様子がよくわかりました。北九州としては良くないタイミングで当たってしまったのかもしれませんが、昇格争いの他のライバルたちも食ってほしいと思います。
今回もお読みいただきありがとうございました!
※敬称略
【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
岡山のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
北九州大学(現:北九州市立大学)法学部出身
北九州は第二の故郷ということもあり、今シーズンからギラヴァンツ北九州もミニレビュー作成という形で追いかける。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。
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