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【ファジサポ日誌】45.不器用なチーム~第10節vsベガルタ仙台~

(※写真は以前訪問した時の仙台空港駅です)
ファジとは全く関係がない話なのですが、試合前々日の金曜日夜にNHKの「ドキュメント72時間」で岡山県備前市の「大阪屋食堂」が舞台となりました。今どき珍しい24時間営業のドライブインです。筆者は割と定期的に通っていまして、放送を楽しみしていました。

その「ドキュメント72時間」の前番組が「アナザーストーリーズ」なのですが、テーマが高倉健の「幸福の黄色いハンカチ」だったんですね。

こちらの番組も夕張が辿った道も含めて、グッとくるものがありました。
高倉健さんといえば「自分、不器用なんで…」のCMも有名なのですが、日曜日のファジの試合を観ている途中で、この健さんのセリフを思い出しました。
ファジアーノ岡山って本当に不器用なチームだと、残念というよりは愛らしさを感じたんですね。

不器用さが言い訳として許されない厳しい社会というのは、今のJ2リーグからも垣間見えます。
ファジの状況がまさにそうで、Jリーグからの配分金にJ1との格差をつけられることから、市民クラブとしてのJ1昇格にタイムリミットが設けられています。
タイムリミットという点では、市民クラブではない他のクラブも同様なのですが、最近のJリーグで起こっている様々なギスギスした出来事、雰囲気の大素は、不器用さや言い訳を許してもらえないストレス感に満ちた状況でJ2の各クラブや選手が戦っていることに起因しているのかな?と試合を観ながら感じていたのです。

1.試合結果&スタートメンバー

岡山は11分に(6)輪笠祐士のキックミスから痛恨の失点を喫し、その後も仙台の前からのプレスに苦戦。重たい空気感の中、仙台の攻勢を受けながらも、何とか前半をこの1失点のみで凌ぎます。
後半は交代出場の(19)木村太哉が48分に仙台の高い最終ラインの背後を取り、仙台陣内右からクロス。その流れ球を(22)佐野航大が冷静にゴール左に差し込み同点とします。
ホーム勝利に執念を燃やす仙台は変わらず良いプレスからパスを繋ぎ決定機を創出、岡山も得意のセットプレーや途中出場(7)チアゴ・アウベスのシュートなどでゴールに迫りますが、互いに決め手を欠きドロー決着となりました。

J2第10節 仙台vs岡山 スタートメンバー

ホーム仙台は開幕から様々なフォーメーション、選手を試していましたが、最近になりこの4-4-2が定着。特に守備面での安定に手応えを掴んでいたようです。昨シーズンのトップスコアラー(9)中山仁斗や韓国代表歴もあるCF(88)ホ・ヨンジュンは欠場しましたが、ボランチや第2列で起用されていた(7)中島元彦を2トップの一角に入れ、前からのプレスを強化、チームの重心を徐々に前方へと移しています。
2020シーズンに岡山は、当時新潟に在籍していた(7)中島に2得点を奪われ逆転負けを喫したことがあります。
なお、攻撃時にはRSB(4)蜂須賀孝治が高い位置を取り3ー5ー2のように可変します。LSBに本職がCBの(20)キム・テヒョンが起用されていたのは、可変時の3バック対応を考慮したのかもしれません。

岡山は連戦の最終戦ということもあり、熊本戦で欠場した(6)輪笠や(8)ステファン・ムークがスタメンに戻ってきました。
(41)田部井涼の立ち位置に注目しましたが、ダイヤモンド型のトップ下ではなく、熊本戦同様ダブルボランチの一角のようなポジションであったと思います。これに伴い(8)ムークはCF(18)櫻川ソロモンとの純粋な2トップではなく、トップ下の位置も兼ねた1.5列目のようなポジションを取っていました。
ベンチメンバーの充実が目を見張ります。彼らをどの時間帯にどのように起用するのか?この点もこの試合のみどころでした。

2.レビュー

J2第10節 仙台vs岡山 時間帯別攻勢守勢分布図(筆者の見解)

仙台のアタッキングゾーンへの侵入回数は岡山を圧倒しました。岡山陣内高い位置でのボール奪取が起点となっていました。
仙台の先制ゴールも仙台(7)中島が岡山LSB(2)高木友也、(6)輪笠へと単独ながら連続してプレスをかけたことにより、まず(2)高木から(6)輪笠へのパスがずれ、(6)輪笠の(1)堀田への戻しが浮き球かつゴール枠内へと向かってしまったことによります。

一方、岡山も相手陣内へボールを運ぼうと自陣からのビルドアップを試みますが、パスが不正確、パスコースを仙台に読まれていることに加え、出足の鋭さ、キックスピード等もすべてにおいて仙台の方が一枚上手であり、前半は自陣に貼りつけられます。正直なところ、一体何点失うのだろうかと、チームの崩壊すらも覚悟しました。

皮肉にも岡山が理想として掲げるサッカーを、完全に仙台にやられてしまいました。

後半は仙台のプレス、圧力がおそらく体力的な問題で若干落ちたこともあり、岡山にもプレースペースが生まれていたと思います。
それでも全体的には終始仙台優勢の一戦でした。
この内容でよく負けなかったというのが正直な感想です。
やはりまずは、前半の戦い方について考えていく必要がありそうです。

(1)輪笠祐士のミスから考える


11分の失点の直前に岡山はセットプレーでチャンスを迎えていました。
仙台のクリアボールを(2)高木が処理しようとしますが、ここに仙台陣内から(7)中島が単独でプレス、(2)高木の左足を切りに行ったことで、(2)高木から(6)輪笠へのパスが乱れます。
(7)中島は更に(6)輪笠へと連続してプレスします。
(2)高木のパスが乱れたことにより(6)輪笠のパスを受ける体勢が悪くなってしまいましたが、仙台のプレスは(7)中島単独によるものであり、普段見ている(6)輪笠の技術であれば、ボールを隠しながらターンして、前方にボールを送り直すことも可能であったとように見えました。

また(1)堀田に返すにしても(7)中島との間合いにはまだ余裕があり、これも(6)輪笠の技術であれば丁寧なパスを返せた可能性があります。
できれば(1)堀田もゴール枠内から外れた位置で(6)輪笠からのパスに備えたかったところです。

仙台にこのゲームを支配できる確信を与えてしまった。岡山の闘志を削がれてしまった失点であったといえます。

開幕戦ではボールを前方に送ることに進境を見せていた(6)輪笠でしたが、甲府戦でのミス以来、そのプレーから積極性が消えているように見えます。ボールを受けることに関しては安定しているのですが、ボールを前方へ送るというチャレンジが十分に出来ていないように見えるのです。

この場面もそうした(6)輪笠の消極性が影響したのかもしれません。

選手の心理面はいくら述べても想像にしかなりませんが、(6)輪笠に限らず、今の岡山の選手が抱えている大きな問題は、前半から「相手コートでのサッカー」というリスクを内包するスタイルにチャレンジしながら、相手より先に失点しない(特に序盤)というリスクの回避も強く求められている点にあると考えます。

つまり、非常に高いレベルの戦いを求められているのです。言い方を変えれば、矛盾した戦いとも言えるのかもしれません。

確かにこうした戦い方ができれば、J2優勝も近づくと思いますし、J1でも戦えるかもしれません。
しかしながら、今シーズンの各選手のこれまでの戦いぶり、現実を見ますとそうした高いレベルでの戦い、一気に頂点を目指すような戦い方は残念ながら難しいと、この仙台戦を終えて筆者は感じます。

そうなりますとマネジメントの問題へと論は移りそうなのですが、その点も簡単には述べたくないのです。
この1年と少しばかり、木山監督のコメントや采配から感じるのは、とても選手の潜在能力や成長を信じているという点です。

前回のレビューでも書きましたが、(5)柳育崇にビルドアップをさせたり(23)ヨルディ・バイスとの2CBに高いラインを設定したり、(9)ハン・イグォンに前プレを求めたりと、各選手の特性とは異なるプレーを要求することが増えているのですが、100%ではないにせよ70~80%は出来るようになってほしい、出来るはず、もっと言えば出来るようにならないとJ1はない、そうしたメッセージを特に今シーズンの木山采配からは感じるのです。

筆者は木山監督から関西人気質を感じるのですが、いい意味で楽天的に見えていました木山監督の表情が最近曇りがちであり、目線が下に落ちていたりもする。ひょっとしたら、監督自身も未だ成し得ていない自身が率いるチームのJ1昇格に向けて大きなプレッシャーと戦っているのかもしれません。

この項目で既に述べたいことの8割方を述べてしまったような気もしますが、今の岡山にまず必要なのは戦う気持ちの整理であると思います。
このまま「相手コートでの戦い」にチャレンジしていくのでしたら、チームとして失点のリスクを許容し、選手を重圧から解放することが必要と考えます。

仙台戦、特に前半の選手の表情は過去に見たことがないほど暗く見えました。彼らが失点しても、明るい表情で(すぐに切り換えて)いきいきと相手コートでプレーする。
言葉の使い方は違うのかもしれませんが、「心理的安全性」(※対人関係においてリスクのある行動をしてもこのチームは安全であるというチームによって共有された考え)が担保された状態で、相手と戦うことが大前提になると思うのです。

(2)ボールの運び方に一考を

では「相手コートでの戦い」を遂行するために、自陣からどのようにボールを運べばよいのか?
この点について考えてみたいと思います。

右サイドからのビルドアップは(5)柳がなかなか縦に、中央にパスをつけられず、下りてきたRSB(16)河野諒祐に出す、後ろ向きで受けた(16)河野が右ターンして左足で縦に出す、このパターンの繰り返しになっているのが大きな問題です。
ボランチの位置やパスの質、(16)河野の対人守備等の問題もあるのですが、完全に対戦相手に狙われています。ボールを相手陣内に運ぶ即効性の高いパターンを増やさなくてはなりません。

熊本戦では(14)田中雄大が(16)河野に代わり下りて受けることで、(14)田中のテクニックを使って相手マーカーを剥がし、ドリブルで前進するというシーンも多く見られました。これも一つの方法で、この試合でもそういうシーンは少々あったものの、あまり有効ではありませんでした。
やはりサイドでボールを受ける位置自体が低く、かつ味方選手が後ろ向きでボールを受けることになるので、なかなか攻撃の起点にならない、寧ろ相手守備のスイッチポイントになっています。

J2第10節 仙台vs岡山 38分岡山の攻撃

38分の岡山の攻撃シーンです。仙台守備陣の動きは省いています。
端的に述べますと(16)河野が高い位置で受けられれば、高い確率でチャンスになる、フィニッシュに至るということです。
そしてこの場面は(5)柳が最終ラインからドリブルでボールを運んだことにより、岡山の陣形が幅を取りながらも、縦にコンパクトになる効果がありました。
最終ラインが上がったことで、左サイドの(2)高木を仙台陣内に押し出し仙台の可変の隙をつく良い攻撃が展開できました。

このシーンは岡山が一度左で作ろうとして詰まったのですが、そこで仙台を引きつけたことにより、右に(5)柳にドリブルスペースができました。(6)輪笠が安易に(1)堀田に返さず(5)柳に出した判断が素晴らしかったと思います。(14)田中が自らの動きで仙台の(2)秋山陽介を自陣に止めていた点も見逃せません。

岡山には正直なところ、他チームと比較してパスが上手い選手というのは少ない気がします。その代わりドリブルが上手い選手は多いです。いかにドリブルで相手陣内に持ち運ぶシーンを作るか、その前提としてドリブルスペースをいかに作るのか?岡山劣勢の前半にあって、このシーンは今後の岡山の攻撃に非常に大きなヒントを与えてくれたと思いました。

(3)柳育崇について考える

もちろん(5)柳はドリブラーではないのですが、最近数試合を見ますと自身のドリブルで相手陣内に持ち運ぶシーンも度々みられるようになりました。そして最終ラインでの(からの)パスワークよりは明らかに自信を持ってプレーしている様子も窺えます。
やはり攻守において前進気勢が非常に強い選手なので、気持ちを乗せてあげることも大事なのかなと思います。
48分、木村の右サイド突破に繋がったフィードも仙台の隙を突いた良いタイミングで出していたと思います。
右から無理にパスで繋ごうとせず、前述したドリブルで持ち運ぶ。そして(19)木村太哉のような快速選手がいる前提ですが、前方のスペースへフィードする。こうしたプレーを中心にしても良いような気もします。

それにしても相手を引きつけた(18)櫻川もボックスに走り込み丁寧に持ち直した(22)佐野の動きも、そして何と言っても(19)木村の突破も鮮やかでダイナミックでした。やはりこういう攻撃が岡山には似合うと改めて思いました。

(5)柳交代論もちらほら見かけるようになりました。筆者は(5)柳サポなのでどうしても(5)柳に擁護的な意見になりますが、一番考えなくてはいけないのは(5)柳のリスクを回避することにより、セットプレーの強みを失うということです。
仮に(5)柳を外した場合に最終ラインをどのように組むのか?
(23)バイスと(43)鈴木喜丈の組み合わせとなりますと左右の位置をどう考えるのか、(20)井川空に関してはプレーをあまり見ていないので正直なところわかりません。そこは夏のマーケットで新戦力という話になるのかもしれません。
でも、主将ですからね。何とか乗り越えてほしい、頑張ってほしいです。

いわき戦からの1枚
迫力満点のドリブルで攻め上がる柳

3.まとめ

今後も前プレを志向するチームとの対戦は続きます。例えば栃木もそうです。しかし、その前プレも今回の仙台のように連動性があるチームとそうでないチームがあります。相手のプレスを剥がせば裏返せる、そんな対戦相手もいますので、チームには対戦相手ごとに冷静に戦ってほしいと思います。

いずれにしましても、この仙台戦で選手の心理面のケアやプレー選択の考え方について修正が必要とも思いました。木山監督の勝利し乗り越えることで現状を打破したいとの想いはしっかり伝わっていますが、今一度ボールの運び方については再考してほしいと思います。

そのボールの運び方についても、この仙台戦の中でヒントになるシーンもありました。また、後半、相手の運動量の低下、集中力の低下などで岡山も同点に追いつけましたし、勝ち越すチャンスもありました。
仙台のように完成度が高い前プレを仕掛けてくるチームに全くの隙がない訳でもありません。

監督、スタッフ、選手も代わっていく訳ですが、ファジアーノ岡山のサッカーはずっと不器用なままだなと筆者は思います。しかし、そこに味わいがあるのです。応援したくなる要素のひとつでもあります。いずれは洗練されたサッカーにも取り組まなくてはならないと思いますが、まずは選手の個性が活きるサッカーに期待します。

今回もお読みいただきありがとうございました。

※敬称略

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き社会保険労務士
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
ゆるやかなサポーターが、いつからか火傷しそうなぐらい熱量アップ。
ということで、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

応援、写真、フーズ、レビューとあらゆる角度からサッカーを楽しむ。
すべてが中途半端なのかもしれないと思いつつも、何でもほどよく出来る便利屋もひとつの個性と前向きに捉えている。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。
アウェイ乗り鉄は至福のひととき。多分、ずっとおこさまのまま。


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