【ファジサポ日誌】98.ベクトルは前へ~第5節 ファジアーノ岡山 vs 水戸ホーリーホック マッチレビュー~
本来は参戦のはずのホーム戦なのですが、春先の繁忙期の波が零細事業者に過ぎない筆者雉球の下にも押し寄せてきました。令和6年春、人を、働く現場を取り巻く環境の変化は激しいということです。
春先の風は気まぐれで時に重大な事故を起こします。
岡山ではこの水戸戦の2日前に再開発工事現場で型枠が崩壊し、作業員が下敷きになるいたたましい死亡事故が発生したばかりでした。
試合が開催されたこの日も午前中から強風、強雨に晒される荒天。まずは安全にホームゲームが開催され良かったと思います。
筆者はDAZNでリアタイもしていますし、こうして記事も書けていますが、今日はゲーム直前まで仕事をしていました。この時間を取れるだけでも全然違います。改めてサッカー観戦とは「一日仕事」であると痛感しています。
ひょっとしたら上半期、スタジアムに行ける機会は激減するかもしれないのですが、その辺りは状況が固まり次第また…。
取り敢えずレビューをお読みいただいています皆さまに、拙いとはいえ現地からの写真をお届け出来ないのが残念ではあります。その分内容の充実は目指していきますので引き続きよろしくお願いします(言っちゃったよ…)。
1.試合結果&メンバー
荒天の中での連戦と難しい要素もありましたが、盤石な1-0という表現が的確かもしれませんね。昨シーズンは春の嵐に足を救われた試合もありましたので、大目標のJ1昇格に向けて、まず関門をひとつ乗り越えたといえるのではないでしょうか。
メンバーをおさらいします。
岡山は最終ラインに(15)本山遥、(5)柳育崇を入れました。(43)鈴木喜丈と加えて昨シーズンのレギュラーで最終ラインを組みます。
RWBには(16)河野諒祐が今シーズンリーグ戦初出場。2試合連続ゴール中の(10)田中雄大も左シャドーで先発です。
一方DF(4)阿部海大はベンチからも外れ完全休養となりました。
サポーターからの期待もありましたFW(8)ガブリエル・シャビエルのベンチ入りは見送られました。
連戦ながらFPで出場が続くのがLCB(43)鈴木、(24)藤田息吹と(14)田部井涼のダブルボランチコンビ、LWB(17)末吉塁、そして前線の(19)岩渕弘人に(9)グレイソンです。
この6人は現段階におけるファジのサッカー(リーグ戦)においては欠かせないということなのでしょう。
水戸はかなりターンオーバーしてきましたが、ハイプレスかつ攻撃の核となるOFM(8)落合陸やCF(9)安藤瑞季はスタメンに名を連ねており、やはり油断はならないという印象でした。
個人的には、かつてのファジアーノ岡山ネクスト出身GK(21)松原修平の出場に期待していましたが、残念ながらベンチスタート、出場は叶いませんでした。
2.レビュー
(1)藤田息吹の落下予測
天気予報では毎秒9~10mとも言われていた北からの強風が予想どおりCスタを襲います。前半、コイントスに勝った水戸はピッチを選択、風上を取りました。よって岡山はいつもと逆で前半にホーム側方向に攻めることになります。
特に岡山は、水戸の出方も窺いながら、最適なボール運びを探っていた序盤であったと思います。1分(5)柳(育)が跳ね返したヘディングはヘディングした位置よりも後方に戻されてしまいます。
こうした風の状況からGK(49)スペンド・ブローダーセンは試合開始から10分も経たないうちにグラウンダーでの繋ぎを選択、チームは地上戦へのシフトを模索し始めますが、地上は地上で強風の影響を受けているのか、微妙にボールが流されパス回しが安定しません。
もっとも、風上の水戸もボールの流れ具合の把握には時間が掛かっている様子で、更には自陣ゴール前に送り込まれるアゲンストのロングボールやクロスの処理に手間取る場面もあり、また、現在の水戸が最終ラインからの丁寧な繋ぎで崩す形を模索、つまり地上戦を選択する傾向が強かったことからも、前半の水戸は決して風上を有利には扱えていなかったといえます。
実はこの試合全体の大きなポイントのひとつであったと考えます。
そんな両チームにおいて1人別格の落下予測をみせていたのが(24)藤田でした。
元来のセカンド予測の良さに、まるで体内に風速計が備わっているような風速・風向修正が加わった読みは、風が強い東北、山形での経験値なのかどうかはわかりませんが、縦関係にあたるCF(9)グレイソンの落とし、最終ラインのクリアに対しては最初からボールが落ちる位置に陣取っていました。この予測が速いので良い姿勢でボールを受けられ、次のプレーへの移行がスムーズなのです。
水戸の(10)前田椋介も良いボランチですが、正直なところセカンド回収という点では大きな差になっていたと思います。
今回もSPORTERIAさんのデータから引用しましたが、時間帯別パスネットワーク図では風下の前半はどの時間帯も、藤田に向かう矢印が集中しています。直接的にセカンドボールの回収を示すデータではありませんが、(24)藤田がどの味方の選手からもボールを受けやすい位置にいることがよく分かると思います。
(2)岡山の前へのベクトル
水戸は保持時に最終ラインから丁寧に繋ぐ傾向があり、自陣から敵陣へと侵入する場面で詰まると(9)安藤が下りて受けることにより状況を打開していたように見えました。浮き球の多くを(24)藤田に回収されてしまう水戸にとって、地上戦の選択は一定の効果はあり、筆者作成の「攻勢・守勢分布図」でも前半の中盤においては比較的優勢でした。
しかし、今シーズンのここまでの岡山の素晴らしさはこの風下の前半においても縦へのベクトルを全く失っていなかったところです。
31分ピッチ中央付近、水戸RSB(2)後藤田亘輝からRSH(14)杉浦文哉へのショートパスをサイドにサポートに出ていた(14)田部井と(10)田中が連携してボール奪取。(43)鈴木からのリターンを受けた(10)田中が(9)グレイソンとのワンツーでピッチ中央に抜け出します。この場面から岡山は風下ながら矢印が前へ、攻勢を強めていきます。
サイドをCHがサポートして数的同数または数的有利をつくり、シャドーのプレスバックで奪う。特殊な気象下でのゲームになりましたが、岡山のコンセプトは全く揺らいでいないのです。
33分水戸GK(51)春名竜聖からのビルドアップもCB(33)牛澤健に渡ったところで、シャドーの(19)岩渕が激しくプレス、最終的に自陣で(14)田部井が回収に成功します。
更に35分、水戸が自陣中央で前への出し所がなくなり、逃げのバックパスを選択すると(9)グレイソンはじめ岡山の選手たちのスイッチがオン、連動してプレスし、水戸を自陣奥まで撤退させます。非常に爽快な場面でした。最終的にグレイソンのクロスは味方に合いませんでしたが、この直後の水戸のフィードも(14)田部井がブロック、完全に水戸の前進を妨げることに成功しました。
ちょうどこの時間帯から12分から一時激しく降っていた雨の影響も出始めたのか、水戸のパススピードが落ちますが、この岡山の前向きなベクトルが水戸の前進気勢を大きく削いだように見えたのでした。
そして37分PK獲得のシーンです。
水戸が右サイドでコンパクトな陣形を敷いて前進を試みていましたが、水戸LSB(3)大崎航詩の縦パスを(14)田部井が引っ掛け、こぼれ球を(10)田中が逆サイドに展開します。岡山が広くピッチを使い始めていました。
岡山右サイド(15)本山、(16)河野、(24)藤田でパス交換する間、水戸は自陣左サイドにコンパクトな陣形を再び整えています。
この場面の崩しは、岡山2人のランニングが効いていました。
まずは(16)河野の斜め前方のパスに対する(10)田中のランに(3)大崎と(33)牛澤がボックス外側に寄せられます。そして(16)河野のパスを受けた(9)グレイソンからのボックス内のパスに対して(19)岩渕が囮のラン、実に水戸の5人がこの動きに引きつけられているのです。
これはおそらく水戸の選手の視野から(17)末吉が消えているからです。
開幕戦、そして前回のレビューでも岡山の横幅圧縮について触れましたが、逆にこれが横幅圧縮の弱点といえます。相手のボールホルダーやマークしたい選手に対して人数を掛けられる分、逆サイドの広いスペースに出ている選手を捕まえられないのです。
またこの(9)グレイソンの緩いグラウンダーのパスも憎らしくて良かったです。一見(19)岩渕に出しているように見えるのです。
PKを完璧に決める、この投稿のとおりです。今日の大きな収穫といえるでしょう。
(3)新たな可能性を示した後半と課題
様々な苦労をしながらも風下の前半に先制に成功。この段階で岡山は勝利に向けて大きく優位に立ったといえます。
後半の試合運びが注目される中、両チームとも後半開始から選手交代を行います。岡山は(14)田部井に代えて(44)仙波大志を投入、そのままボランチに入ります。
水戸も前半の途中から前進できなくなっていた右SB(2)後藤田に代えて(19)村田航一を投入します。
後半、岡山(24)藤田へのマークが厳しくなる中、岡山のボール運びは交代出場した(44)仙波が中心となるのです。この点は先にお示ししました「時間帯別パスネットワーク図」の後半をご覧いただきたいと思います。
(24)藤田が比較的ワンタッチで捌くのに対して、(44)仙波は持ち前のキープ力を活かした持ち運びで後半の岡山の攻勢を支えました。
この点もこの試合の大きな収穫であったと思います。
試合を積み重ねる度に(24)藤田の存在感が増す岡山ですが、彼への依存度が上がれば上がる程、彼の不在時の戦いに大きな不安を残すことになります。その点を踏まえましても(44)仙波がボランチの位置からしっかりゲームメイク出来た点は今後の選手層に大きな厚みをもたらしたといえます。
そんな後半でしたので、やはり追加点を奪えなかった点については不満が残ります。後半も前半同様チームのベクトルは前向きであり、いわゆる相手陣内でのサッカーも出来ていましたので、盤石な戦いぶりではありましたが、サッカーは何があるのかわかりません。
水戸のルーキーMF(24)山﨑希一は攻撃で違いをつくれていましたし、交代出場(22)久保征一郎、(45)寺沼星文のツインタワーはそれなりに脅威でしたが、このツインタワーに単純に放り込まず、ショートパスを繋ぎ続けた水戸の攻撃に助けられた面もありました。
岡山としてはチャンスは作れていますのでボックス内外のクロスと中の選手の意図が合わない点は改善しなければならないのですが、木山監督のコメントを踏まえますと、おそらく中に入っている人は囮で、マイナスのクロスが入ったスペースに誰かが走り込むことを求めているようにも思えます。
この試合で言えば(27)木村太哉がもっと中に入らないといけないのかもしれません。
後半もかなりの運動量をシャドーには求められます。
3.まとめ
以上、簡単ではありましたが水戸戦を振り返りました。もっと細かく触れたい論点もありますが、今回は残念ながらここで時間切れです。
簡単にまとめますと、天候や試合展開に関わらず、前へ、縦へのベクトルというチームコンセプトを逞しく打ち出せるチームになっているということがいえます。
あとは、より盤石に勝つために追加点を奪えるようになる点が課題といえます。
一戦ずつ大切に戦っていきましょう!
今回もお読みいただきありがとうございました!
※敬称略
【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。
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