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#ストーリー

小説◆セピア色がキャラメル色に変わる瞬間《とき》

小説◆セピア色がキャラメル色に変わる瞬間《とき》

2012年10月作

ほんのりと冷たい風が吹き抜ける夕暮れ時。

オレ裕介は人気の疎らな大学校舎を出、校門へと向かっていた。

(秋だねえ……)

頬を撫でる風に煽られるように見上げた黄昏た空。

キュッと胸を掴まれるみたいな切なさが込み上げて……。

この季節特有の寂しい気持ちを堪能しようと、校門の前で足を止めたオレは、おもむろに上着のポケットからiPodを取り出し、イヤホンを耳に宛てる。

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小説◆哀夢 a Rock’n Roller

小説◆哀夢 a Rock’n Roller

《1994年~1995年作》



幾粒かの汗が、冷たいコンクリートに染み込んでいく。

薄暗い倉庫に人気がないことを確認すると、彼は適当な物陰を見付け、そこへ身を潜めた。

どれだけ走り続けたのか判らない。

ただ、ひどく息が、苦しい。

全身の感覚がほぼ無くなっていた…が、それでも彼は逃げなければならなかった。

彼―ミリオン▪レーンは現在警察

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小説◆変わりゆく景色

小説◆変わりゆく景色

◈1

(俺の信じてきた永遠ってなんだったんだろ……)

少しずつ柔らかくなっていく日射しが春を教え始める頃。

俺は冬に逆戻りした気分で街を歩いていた。

つい先程の行きつけのカフェでの出来事が頭の中をグルグル回っている。

「ねぇ、私たち、最近つまらなくない?」

恋人である由萌がミルクティーを一気に飲み干した途端、告げた言葉。

「つまらない……って、

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