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小説◆変わりゆく景色

◈1


    (俺の信じてきた永遠ってなんだったんだろ……)

    少しずつ柔らかくなっていく日射しが春を教え始める頃。

    俺は冬に逆戻りした気分で街を歩いていた。

    つい先程の行きつけのカフェでの出来事が頭の中をグルグル回っている。

「ねぇ、私たち、最近つまらなくない?」

    恋人である由萌ゆめがミルクティーを一気に飲み干した途端、告げた言葉。

「つまらない……って、何が?」

    俺は飲みかけのブラックコーヒーをゆったりと口に含みながら小首を傾げる。

    途端、ふうっと大きなため息を吐く由萌。

「そういう何にも考えてなさそうな所がホント嫌!私、浅葱といるの飽きちゃた。私たち、今日でお仕舞いね」

「は……?」

    反論する隙もなく、由萌は素早くバッグを持って立ち上がり、そのままカフェから飛び出していく。

    あまりにも唐突過ぎて何がなんだか解らず、俺は彼女を追いかける事すら出来なかった。

    しばらく呆然としていたが、今さら冷めたコーヒーを飲む気にもなれず、自分もやがて席を立った。

    最後に二人分の会計を済ませ、カフェを後にする。

『今日でお仕舞い……』

    由萌の分まで会計するのも今日が最後。

    そう思った途端、悲しみが現実のものとなって襲い掛かって来た。

    グラグラとする、足元が覚束無い。

     由萌とは大学のサークルで知り合って、気がついたら一緒にいる事が多くなって自然な流れで付き合うようになっていった。

    彼女の希望もちゃんと聞いてあげてたし、それなりに上手くいっていたと思っていた。

    二人でいる時間が永遠に続くものだと信じて疑わなかった。

    それなのに…………。

(『飽きちゃった』ってなんなんだよ!)

    
    悲しみと怒りが入り交じった感情をもて余し、闇雲に街中を彷徨い至る現在。

    無意識に何度も零れるため息。

(信じてたの、俺だけだったんだな……)

    目の前の信号が赤になり、歩みを止める。

    またため息が零れそうになり、やっとそれに気付いた俺はポケットをまさぐり煙草を取り出す。

    口にくわえ火を灯した瞬間、どこからかポロン…とギターの音が聞こえてきた。

    その音色は儚く切ない。

(ストリート……かな?)

   時々、この辺りにはストリートミュージシャンが出没する。

    由萌は時々聴きたがって歩みを止めたが、俺は興味を持った事が一度もなかった。

    音楽は好きだが、自分はサブスクのランキング上位の曲が聴ければそれで満足だった。

    が、由萌は違った。

    新しい物好きな彼女は、聴いた事のないアーティストなどを探し、積極的に聴く方だった。  

    悲しいかな、思い出すのは由萌の事ばかり。

    信号が青に変わり歩き始めると、徐々に歌声がハッキリと聞こえ始める。


♫形あるものは    いつか    壊れる
    永遠のない    この世界に
    永遠を求めるなんて    無謀なのかな?♫


(なんていう歌詞だよ……)

    今の自分が聴くには余りにも残酷な歌だ。

    切ないメロディーの悲しい歌。

    聴きたくはない筈なのに。

    真っ白な空の下、まだ少し冷たい空気を引き裂くように響く凛とした歌声。

    それに引き寄せられ、足が勝手に音がする方へと向かう。

    見付けた女性の姿。

    雑居ビルの片隅で、小さな身体に大きなアコースティックギターを抱いて歌っている。

    歳は自分と同じくらいだろうか?

    少しだけあどけなさの残る二十歳過ぎくらいの女性。

    セミロングの髪を風になびかせ歌うその姿は、さながら群れからはぐれた小鳥のようだった。

    彼女の姿がハッキリと見て取れる場所で歩みを止め、短くなった煙草を携帯灰皿にねじ込む。

    視線を彼女へと戻した刹那、俺ははっと息を飲んだ。

    彼女は泣いていた。

    泣きながら歌っていた。

    溢れる涙をそのままに、力強く歌い続けている。

(すっげぇ……)

    彼女の歌は本物だと思った。

    ストレートにガツンと胸に響いた。

    気付いたら一緒に泣いていた。

    こんな事は初めてで戸惑ったが、嫌な気は全くしなかった。

    胸に巣くっていた悲しみが癒えていく……彼女の悲しい歌で。

    不思議だ、悲しい歌なのに優しく寄り添ってくれるような温かさがある。

    ずっともっと彼女の歌を聴いていたい。

    行き交う人々が先を慌ただしく急ぐ夕刻。

    彼女の歌に歩みを止める人は他にいない。

(勿体無いな、いい歌なのに……)

    そう考えると共に、また由萌を思い出す。

「知らない歌だから聴かないとか勿体無い!浅葱は絶対人生損してるって!」

    ストリートのオリジナルの歌に興味がないと言った俺に向けられた由萌の言葉。

(確かに損してたのかもな)

    流行り物しか興味を持てない……そんな自分だからつまらないなんて飽きちゃったなんて言われてしまったのかも知れない。

    道端で悲しい歌を聴きながら一人反省会。

    家で一人になってから色々思ってもしんどかったかも知れない。

    このストリートの彼女に出会えて良かった。

    偶然だけど必然なのかも知れない。

    出逢いとは案外そんなものだ。

    彼女は流した涙の跡をそのままに、数曲歌い続けた。

    曲が終わる度に拍手を送る。

    その手が少しかじかんでいる。

    春とはいえ、夕刻はまだそこそこ寒い。

    彼女は……ギターを奏でる彼女の手は、指は冷えていないのだろうか?

    慌てて俺は自販機を探す。

    すぐ隣のビルの横に自販機を見付け、俺はホットココアを2本買う。

    彼女へと視線を戻すと、歌うのを止めたのかギターをケースに片付け始めていた。

「あ、あの……寒くない?」

    彼女の為にと思って買ったはいいが、いざ渡すとなると緊張して少し声が震えてしまう。

    が、自分一人で2本のココアを飲む気にもなれず、勇気を出して彼女へと差し出してみた。

    すると彼女は歌っている時と打って変わって、とても柔らかな笑みを浮かべた。

「ありがとう。チップはもらった事あるけど飲み物の差し入れは初めてー。嬉しいな」

    受け取ってもらえて安心して、俺は良かったとホッと息をつく。

「なんかまだ寒いなと思って」

    はにかみながらそう返すと、彼女も同じように笑ってココアの缶を両手で握る。

「そうだよね、まだ寒いよね。寒い中、聴いてくれてありがとう」

「あ、ああ……いい歌だね。オリジナル?」

    歌っている時は少し鬼気迫る雰囲気もあったが、話すと全然感じが違いふんわりとしていて、彼女ともっと色々話したくなっていた。

    流行り歌しか知らない自分だからカバー曲の可能性もあったが、なんとなくオリジナル曲な気がしてそう聞いてみた。

「そう、全部オリジナル。気に入ってくれたんだ、ありがとう」

「うん。……泣いてたからちょっとびっくりしたけどね」

「ああ……私ね、自分の胸の中に溢れる感情を吐き出しながら歌ってるんだ。歌ったらスッとするよ。だから……良く泣いちゃうの」

   ちょっと恥ずかしそうにテヘっと舌を出す彼女。

    本当に先程まで力強く歌っていた彼女とは別人のように愛らしい。

   だが、やはり可愛いだけの人ではないようだ。

「さっき、キミも泣いてたよね?なんかあったの?」

(うわっ、見られてたのか!)

    恥ずかしさで動揺して、俺は空いてる方の手で顔を覆う。

「あ、ごめんね、聞かれたくなかったかな?ちょっと気になっちゃったから……」

「あ、いや……」

    遠慮がちに響く彼女の声に、俺は違うのだと慌ててかぶりを振る。

「見られてたんだなーと、思ってさ……」

    ぽりぽりと俺は頬を掻きながら彼女へと向き直る。

「あ、俺、浅葱……ね」

    女のコに『キミ』なんて呼ばれたの初めてで、嫌な気はしないが照れ臭くて名を名乗る。

「あさぎ……くん?あ、私は華澄ね」

「浅葱でいいよ。俺ね……さっき、彼女に振られたんだ」

「え?」

「つまらない……って、飽きちゃったって言われた。俺は、ずっと一緒にいられるって信じてたんだけど……なーんか、独りよがりだったみたいでさ」

   ははっと自嘲するように告げる俺。

「そっかぁ……」

    華澄は思案顔でそう呟くと、ゆっくりとココアのリングプルを開け一口、口に含んだ。

「浅葱とは初対面だし彼女の事も全然知らないのにごめんね、勝手な事言うけど……たぶん、彼女は恋に恋しちゃうみたいな憧れだけを追い掛けちゃうタイプだったんじゃないかな?」

「え?」

「だから、浅葱の事も一緒にいて憧れる気持ち……新鮮な気持ちが薄れてきちゃって、新しい何か探したくなって別れたくなったのかも」

「ああ……そういうタイプだよな、アイツは」

    新しい物好きな由萌。

(飽きちゃったってそういう意味か……)

    なんとなく腑に落ちて頷きながら、俺もココアを口に含む。

    円やかな甘さに口が支配され、さっきまでのコーヒーの苦みが緩和されてホッとしていく。

「だったらさ、別れても良かったんじゃない?」

「へ?」

    先程、『勝手な事言うけど』とは言われたが、本当にずけずけと物を言うなと俺はやや呆気に取られ間抜けな声を上げる。

    が、彼女は気に止めもせず、続きの言葉を口にした。

「だって、浅葱は付き合った人の事は兎に角大切にしたい、ずっと一緒にいたいって思うタイプだったりするでしょ?」

「あ、ああ……」

「彼女はね、それは無理。誰と付き合ったって理想ばかり追い掛けちゃうから、いつか絶対嫌になる……だから、最初から浅葱と彼女は求めてるものが違ったんだよ」

「求めているもの、か……」

    そんな事、考えた事もなかった。

    一緒にいて楽しくて、嫌な思いさえしなければ、相手を大切にさえ思えていればそれでいいと思ってた。

「だから、悲しいかも知れないけど、そんなに悲観的になる事じゃないよ。きっとちゃんと浅葱に似合った人にこれから出会えるよ、大丈夫」

「そうかな?」

「そうだよ!」

    一点の曇りもなく、迷いもなく、真っ直ぐに微笑んで告げる華澄。

    不思議だ。

    彼女の笑顔が太陽のように俺の曇った心を照らしてくれた。

    それはまるで魔法の様だった。

    先程まで聴いていた彼女の歌と今の言葉で、俺の抱えていた悲しみが遠い過去の事の如く癒えている。

「ありがと。なんか元気出てきた」

「本当?」

「うん、ほんともほんと。華澄に会えて、俺めっちゃラッキーだったかも!」

「良かったー。酷い事言う女だなとか思われたかと思ったー」

「思ったよ、それ。でも、合ってるな……と思ってさ。俺、求めているものとか、そんなん全然考えた事なかった。だから『何にも考えてなさそうな所がホント嫌!』なんて言われたんだなーって」

「そんな事言われちゃったんだ、そっか……」

    結構キツイ事言われたんだね…と自分も傷ついたように目を伏せ呟く華澄。

    そんな彼女に、俺は大丈夫と笑顔を向けた。

「うん。でも、なんか吹っ切れそ!マジ、ありがとな、華澄」

「どういたしまして」

    俺の言動にホッとして満面の笑みを浮かべる華澄のそのしぐさも温かく、心を柔らかくほぐしてくれる。

「いつもここで歌ってるの?」

「うん、そうだよ」

「じゃあ、また聴きに来るよ」

「本当?嬉しい!来て来て!」

    無邪気に笑う彼女と歌う日時を教えるから…とLINEを交換して別れた。

    帰路に着く俺の足取りは軽く、過去は切り捨て弾んで未来へと歩みを進めるのだった。


◈2


    それからというもの、俺は華澄が路上ライブを行う度必ずや足を運ぶ様になっていた。

『浅葱は私の一番のファンだね!』なんて無邪気な笑顔で告げてくれた華澄だったけど。

    初めて会ったあの日がたまたまだったのか、いつも道端にはギャラリーがいて、みな華澄の歌に熱い拍手をおくっていた。

♫誰にでも優しいあなた
    私は特別なんかじゃない
    これ以上    希望ひかりを与えないで

    枯らして    叶わぬこの想い
    枯らして    あなたの手で
    枯らして    種の一粒も残らぬよう

    枯らして

    枯らして♫


(相変わらず痛い歌詞だな)

    切ない女性の心情を歌う歌が多いから、当然足を止める人たちも女のコが断トツで、自分はやや浮いてしまってるが、それでも華澄の歌が聴きたくて俺はいつも彼女のライブに合わせてスケジュールを立てていた。

    区役所勤めの俺は所属部所的にも残業などなく、カレンダー通りの出勤、毎日定時上りの生活をしているので、ライブに合わせるのはそう難しい事ではない。

    今日はたまたま仕事帰りに仲間と話し込んで少し遅れてしまったが、ギャラリーの末端になんとか辿り着き手拍子をおくる。

(華澄も本当は胸の中、色々抱えてるんだろうな……)

    初対面の日、自分は由萌と別れた事を話したが、華澄は自分の事をあまり話してはくれない。

    自分は全部歌にするから人には話さないんだとか。

    なんかズルいような気もするけど。

(枯らして……か)

    なんか、究極の片想いでもしてるみたいな歌だなと思う。

    泣き叫ぶ様に歌う彼女を見てるとそんな気がしたが、きっと聞いてもはぐらかされるのだろう。

    俺の由萌への想いはキレイに枯れてくれた、華澄のお陰で。

    由萌と別れて数日後の事。

    由萌が他の男と腕を組んで歩いている姿を偶然見掛けた。

    その男を好きになったから俺と別れたのだろうなと察しがついた。

    華澄の言った通り、新しいトキメキが欲しくてその男と付き合ったのだろう。

    ショックを受けなかったと言ったら嘘になるが、なんとなく色々納得出来た。

    自分と由萌の関係性を冷静に見つめてくれた華澄がいたから受け止められた事実。

    俺にとって華澄は掛け替えのない存在になろうとしている。

    もちろん、彼女の歌も。

    痛い歌詞の激しい曲が終わり、穏やかだが悲しい……そんな歌声が辺りを包み始める。

    華澄は静かに涙を流し始め、歌を聴いていた女性数名もつられるように涙を流し出す。

    最近は見馴れ始めた光景ではあるのだが。

(ヤバッ、俺もつられそう)

    初めて華澄に会った日は由萌との別れもあって泣いてしまったが、男が街中で涙を流すとかあり得ないだろう。

    そう思い、俺は慌てて煙草を取り出し吸い始める。

    思い切り深く、肺の隅々まで行き渡らせるように煙を吸い上げる。

(はあ、危なかった……)

    華澄の歌の力は凄い。

    つい最近までサブスクで流行り歌しか聴いて来なかった自分なので、そんなに音楽にこだわりもなく、詳しくなんか全然ないのだが。

    華澄の歌だけは絶対凄いって気持ちになる。

    パワーが全然違う、胸の奥底にストレートにぽんと熱を放り込まれるみたいに歌声が響く。

    こんな歌い手はそう居ない筈だと俺は思っている。

    華澄本人にはあっさり否定されてしまったのだが、「もっと凄い人なんていっぱいいるよ、浅葱は知らなすぎるだけ!」って。

    でも、俺には華澄がオンリーワンの存在だ。

    俺を泣かせられるミュージシャンなんて華澄しかいない。

    やがて、華澄は予定していた曲を全て歌い終え、集まってくれた人達に丁寧にお礼を伝えるとギターを片付け始める。

「お疲れ!今日もすげー良かったよ」

    俺は華澄に歩み寄ってそう話しかけた。

   途端、華澄はぷくーっと頬を膨らませる。

「ど……した?」

    躊躇いがちに声を掛けると、華澄ははあっとため息を吐いた。

「も~、私前にも言わなかった?タバコは身体に悪いから止めなさいって!」

「あ、ああ………… 」

    それか、と俺は苦笑いを浮かべつつ後頭部をポリポリと掻く。

    前にも何度か煙草を止めるように言われていた。

『彼女と別れて寂しいからって吸う本数増えたりしてるんじゃない?』なんて痛い所を突かれたりなんかして。

    由萌にもよく煙草を止めるように言われてはいたのだけど、理由は全然違っていた。

    由萌は煙草の煙が大嫌いで、煙の出ない電子煙草とかなら構わないといった感じだった。

    でも、華澄は……。

「前にも言ったよね、タバコ吸い続けてたら肺悪くするし癌にもなりやすくなるし血圧上がったりとかもするし早死にしちゃうかも知れないから止めなさいって!」

    そう、俺にまくし立ててくる。

「まあ、ね……判っちゃいるんだけどさ……」

「ぜーんぜん、判ってないでしょー」

    たじろぐ俺に構わず、華澄はまた頬を膨らませじっと責めるように見詰めてくる。

    華澄は由萌と違い、本気で俺の健康の心配をして止めさせようと怒っているのだ。

    言いたいことをずけずけ言っているかのようで、華澄の言う言葉には全て思い遣りが込められている。

    まだ出会って数ヶ月だというのに、華澄は本当に俺を大切に思ってくれている。

    自分の都合しか考えていなかった由萌とは大違いだ。

    少しズキッとする胸。

    由萌にとって俺は都合のいい男でしかなかったのか?

……まあ、もう過ぎた話だからいいのだが。

    今は目の前の華澄だ。

「いや、ね……身体に悪いのは知ってるよ。だけどさ、吸わないとなんだか落ち着かないんだ。……本数は減らすように気をつけてはいるから、さ」

    たじたじになりながらも、俺は必死に言い訳をする。

    どうにも俺は華澄には弱い。

    真っ直ぐ過ぎて誤魔化しが出来ないのだ。

「本当にー?」

「ホントもホント!……心配してくれてありがとな、華澄」

「どういたしまして」

    俺がやんわりと笑み返すと、やっと安心したかのように華澄も笑い返してくれる。

「タバコの代わりに飴とかガムとか食べたら?私の会社のチーフ、奥さんにそうとう怒られたらしく、そうやって禁煙成功したよ?まあ、ちょっと太っちゃったけどね」

    ふふっと少し遠い目をしながら笑う華澄。

    その表情はとても柔らかで陽の光に溶けていくかのように見える。

「華澄ってチーフの話するといつもそんなだね」

「え?『そんな』って?」

「すんげー柔らかい表情になる。よっぽど信頼してるんだな?」

「まあね。チーフはきちんと従業員を見てくれるいい人!ま、他の人が最悪って話もあるけど」

    苦笑いを溢す華澄。

    あまり自分の事を話したがらない彼女だが、職場の話は時々してくれる。

    CDショップで働いている華澄なのだが、チーフは仕事が出来て凄く面倒見の良い人らしいが、残念ながら同僚には恵まれていないらしい。

    そういうストレスが歌になったりもするらしいのだが。

「ミュージシャンって凄いな」

    ふとそう思い俺が口にすると、華澄は言わんとしている事を理解したらしく、苦笑いを浮かべつつううんと首を横に振った。

「凄くないよー、ただのストレス発散だもん」

「いやいや、凄いって。俺には出来ないよ。それに華澄の歌、すげーいいし」

「ははっ、ありがとう!ほーんとうに、浅葱は私の一番のファンだね」

    照れているのか謙遜しているのか……カラカラ笑いながら華澄はおどけるみたいに俺の肩をポンと叩く。

   そんな華澄に俺はゆっくりと首を横に振って返した。

「俺だけじゃないでしょ?今日も女のコいっぱい泣いてたよ。華澄の歌が聴いてる人の心にきちんと届いてるんたよ。それってすげぇじゃんか!」

    華澄を褒めつつも、なんでだか自分まで誇らしい気持ちになってくる。

    華澄が認められるという事は、華澄を凄いと感じた自分の感性も認められる事になるから嬉しいのかも知れない。

    今までは話題になっている予め世間に認められている曲しか聴いて来なかった自分だからそんな風に思ってしまうのかも知れないけど。

「まあね、泣く程感動してくれてるのとかは凄く嬉しい。歌って良かったって思うよ」

    少しはにかみながら、でも満足そうに言う華澄が目映い。

    澄み渡った青空みたいだ。

    笑みが温かくて胸が熱くなる。

    いとおしくて、でも抱きしめたいとかじゃなくてずっと傍で見つめていたい……華澄はそんな不思議な存在だ。

    もうすぐやって来る夏。

    その匂いを微かに感じながら、俺はこれからも変わらずに歌う華澄を応援しようと思うのだった。


◈3


    熱い熱い、溶けるような土曜日。

    日中に焼けたアスファルトの熱がまだ冷めそうにもない夕暮れ時。

    華澄はいつもの場所で歌っていた。

   今日も圧倒的に女のコが多いギャラリー。

   男性の姿もぽつぽつとはあるのだが。

   今日も女のコたちが華澄の悲しい歌を聴いて涙を流している。

    そんな中。

(なんだろう、あの人……)

    自分より少し歳上そうな男性が華澄と周りの人たちを見ながらうんうんと頷いている。

    華澄の歌を聴いているというよりはストリートライブの様子を観察しているといった感じがする。

    暫くその男性を見ていたら目が合ってしまったので、俺は慌てて視線を華澄へと向ける。

    華澄の歌声は夏の気だるい空気を切り裂くように凛と響く。

    鳴いていたひぐらしさえ黙り込む。

    華澄の歌は完全に辺りの空気を支配していた。

(華澄……どんどん凄くなっていく気がする)

    春先から比べて明らかにギャラリーも増えていると思うし。

   初めてあったあの日に感じた『本物だ!』という感覚が間違えではなかったのだという思いがひしひしと胸に押し寄せてくる。

(華澄は何処を目指してるんだろ……)

    ふと思った。

    今まで聞いたことがなかった。

    歌う理由は歌が好きなのとストレス発散。

    それ以外の事を俺は知らない、聞こうともしなかったな、何故か。

    ただ、こうしてここで歌う華澄を見ていられたらそれで満たされていたからなのかも知れないが。

    華澄はどうなんだろう?

    このままストリートとして活動していきたいのか、それともメジャーのアーティストを目指しているのか?

    聞くべきか否か……俺は何故か迷っている。

    だが、その迷いを切り裂く出来事がすぐに起きてしまった。

    華澄が予定している曲を全て歌い終えいつものように丁寧に集まってくれた人たちにお礼を伝えた時。

    駆け寄ろうとする俺の視界を遮り、華澄に歩み寄る人影があった。

    それは、先程気になった俺より少し歳上そうな男性だった。

(なんだろう?)

    少し離れた所で様子をうかがってみる。

    どうやら男性はここの近くにあるライブハウスの店長らしかった。

    華澄にライブイベントに参加しないかと誘いかけているようだ。

    以前から、歌う華澄を見て気になっていたらしい。

(だろうな、華澄の歌聴いたら心動くよな、そんな仕事してる人なら尚更)

    話を終えたのか、華澄はその男性にペコリ頭を下げ見送ると、ぱたぱたと俺の元へと掛けてきた。

「どうしよう浅葱!私、ライブハウスで歌わないか?って誘われちゃった!」

    興奮する華澄を落ち着かせようと俺は静かに微笑み、うんと頷いて穏やかに返答した。

「知ってる。だいたいは聞こえてた」

「そっか……。ね、どうしよう!どうしたらいいと思う!?」

    優柔不断な俺と違って決断力のある華澄が、珍しく動揺して迷っている。

    いや、迷っているというよりは俺の考えを聞きたいと思っているのかも知れない。

    華澄的に一番のファンである俺の意見を。

    俺は先程浮かんだ疑問をすぐに聞く機会が出来た事に皮肉めいた何かを感じながらも、ゆっくりと諭すように語り掛けた。

「華澄は何処を目指して歌ってるの?ただ好きだから歌ってたいのかメジャーになりたいのか……」

   その問い掛けに、華澄はハッとした表情になり、その後少し落ち着いたように目を伏せ小さく息を吐いた。

「そうだなー。私ね、子供の頃から歌うの大好きで……ある日、ストリートで歌ってる人見かけて『ああ、私もやってみたいな』って思って歌い始めただけなんだ」 

「そっか……」

「でもね、仕事してるうちにさ、メジャーの棚の本当に有名所ばかり一生懸命陳列直してる人たち見てたら腹がたってきてね、なんか見返してやれる何か出来ないかなとか思うようになって……」

    時々聞いていた華澄の職場の話。

    華澄の働くCDショップはそこそこ大型でインディーズのCDなんかも取り扱っている店舗なのだが、共に働く仲間のほとんどはインディーズの棚には目もくれず、メジャーの売れ筋のアーティストの陳列ばかり気にするらしい。

    インディーズの棚の整理や補充をするのはほぼ華澄かチーフくらいだとか。

   酷い話だなと思う。

「私がインディーズでCD出しても気づくのチーフだけなんだろうなとは思うけど……チーフをビックリさせたいし、売れるようになったら他の人たちもビックリするだろうし、少しはインディーズにも関心持ってくれるかなぁとか考えたりするようになったんだ」

「ああ、なる程ね」

   華澄らしい考え方だなと思った。

    曲がっている事は嫌いで、黙って見ているのも嫌いで、何か行動をしないと気が済まない……そんな真っ直ぐな華澄がどうしたら職場の人たちの心を動かせるだろうかと色々考えた内の一つなのだろう。

「だったら、やった方がいいよライブハウスでさ」

    華澄だって思った筈だ、これはチャンスだって。

    ただ、新しいことをするには勇気がいる。

    背中を押してくれる人間がいて欲しいだけなのだ。

    だったら、俺が喜んで背中を押してやろう。

「大丈夫、華澄ならやれるよ!」

「そうかな?」

「そうだよ!しかも、イベントだから一人でライブするとかじゃないからチケットの売上とか気にしなくていいんだろ?」

    先程聞こえてた男性の話では、数組のミュージシャンで構成するライブイベントなのでお客さんが全く入らないなんて心配は必要ない、初めてライブハウスでライブするならうってつけだろうという事だった。

   確かにその通りだと思う。

「やってみて損はないよ、やりなよ華澄」

「ありがとう、なんかやる気出てきた!もちろん、浅葱も見に来てくれるよね?」

「当然だろ!最前列で拳突き上げてやるよ」

「あはは、絶対だよ」

    くすくす楽しそうに満面の笑みを浮かべる華澄を見て、俺の胸は熱くなる。

―まさか、これが俺と華澄の関係を変えてしまうきっかけになるなんて事は思いもせずに、ただただ俺は華澄の成功を祈って笑っていたのだった。



◈4


    華澄の初ライブハウス出演を明日に控えた夕刻。

    俺は数ヶ月ぶりに、行きつけだったカフェへと歩みを進めた。

    由萌と別れた場所だったから自然と足が遠退いていたのだが。

    昨日の夜、突然由萌からメールが来た。

    どうしても会って話したい事があるから……と。

    今更、話す事なんて俺にはない。

    無視をしようかとも思ったのだが。

    とりあえず、話を聞くだけなら聞いてあげてもいいかと、渋々ではあったが会うことにしたのだ。

    カフェの前へたどり着く。

    数ヶ月前と全然変わらない店構え。

    複雑な思いを絶ち切るように、はあっと深く息を吐きつつドアを開けた。

    店内に入ると共に大好きだったコーヒーの香りに包まれる。

    この店は俺が気に入っていて由萌を誘って通っていた。

    由萌はコーヒーを飲まない。

    どうして再会場所をここにしたのだろうか?

    ここなら俺が来てくるとか考えたのかも知れない。

    そんな事を思いながら店内を見渡すと、奥の窓辺のテーブルで由萌がこちらへ向かって手を振っていた。

(由萌、少し痩せたかな?)

    ふと思ったが、何も聞かずに由萌の向かえの席に着いた。

「コーヒー、いつものブルマン頼んどいたよ」

「ああ……おう、ありがとう」

    陽気に話し掛けてくる由萌と対象的に俺は戸惑いがちになんとか返答する。

    俺はここのブルーマウンテンが大好きでいつも飲んでいた。

    何年もの付き合いだ、流石にそれは覚えていたらしい。

    でも、オーダーを頼むのはいつも俺の役目だったのだが。

    まあ、いい。

    全て終わった事なのだから。

「……で、用って何?」

   さっさと要件を聞いて帰りたい。

   そう俺は思っていたのだけど。

「タバコ、吸うなら吸ってもいいよ?」

    ゆっくり話したいと由萌は思っているのか、俺に灰皿を差し出してくる。

    思えばこのテーブルは喫煙席だ。

    いつも煙草の煙を嫌がって禁煙席に座っていたのに。

    由萌なりに俺に気を使ってくれたのかも知れないけど。

「ああ……俺ね、禁煙してんだわ」

「ええっ?」

    俺の発言が信じられなかったのか、由萌は目を見開いて俺を見る。

「身体に悪いから止めたんだよ」

    言いながら俺は華澄を思い出し、ふと笑みが溢れる。

    華澄が俺の健康を本気で気に掛けてくれたから止める事が出来た。

「俺の事はいいからさ。それより、話って?」

「あ、あのね……」

    そう、由萌が口を開いた刹那。

「ブルーマウンテン、お待たせいたしましたー」

   タイミング悪く、店員がコーヒーを運んで来てくれる。

    バツの悪い思いをしながらも、俺は目の前にカップとソーサーを置く店員にぺこり礼をする。

「こちらはミルクティーです」

    相変わらず由萌はミルクティーだ。

    甘い香りで満ちてるカップにたっぷりのシロップを入れて飲むのが由萌流なのである。

「ごゆっくりどうぞー」

    俺たちの事情など何も知らない店員はにこやかにそう告げカウンターの中へと戻って行く。

    話すタイミングが縺れてしまった。

    俺は黙って由萌が黙々とシロップをカップの中に投入する様を見詰めていた。

    彼女がシロップを混ぜたスプーンをソーサーの上に置くのを見届け、俺は重い口を開く。

「で?」

「ああ、うん……あのね?」

「うん?」

    由萌にしては随分と歯切れが悪い。

    言い出しにくい話なのだろうと察した俺は、続きを促すように相づちをうつ。

「あの……浅葱って今彼女とかいる?」

(へ?)

   その質問に嫌な予感しか俺はしなくて、顔をしかめながら返答する。

「いないけど……」

「本当?良かったー」

    ぱあっと安堵の笑みを浮かべる由萌に俺は逃げ腰になった。

   やっぱり嫌な予感しかしなくて。

    そんな俺の様子を気に止める事もなく、由萌は瞳を輝かせ言葉を続けた。

「私ね、浅葱と別れて色々一人で考えたんだ」

(一人じゃなかったろうが……)

    俺は知ってるんだぞと突っ込みを入れたかったが、とりあえず由萌の話を聞いてやろうと黙ってコーヒーをすすった。

「……で、思ったの!私の事をちゃんと見てちゃんと考えてくれる人って浅葱だけだなぁって。ずっと大切にしてくれてたのに酷い事言ってごめんね。浅葱、私、浅葱とやり直したいの!ね、いいでしょ?」

    あざとく上目遣いで瞳を揺らしてみせる由萌。

(嫌な予感的中かよ……)

    今の俺には全てがセピアに見える。

    多分、由萌はあの男と上手くいかなくて別れて寂しいから俺とやり直したいとか思っているのだろう。

    頭あったま痛いなぁ。

「無理」

   俺は簡潔に一言で返答した。

「え?」

    あまりに簡潔過ぎたか、由萌は理解出来ないと小首を傾げているので、俺は諭すように彼女に語り掛けた。

「あのなぁ、由萌。お前は今、一人で寂しいから優しくしてくれる男に側にいて欲しいだけで、本当に俺を必要としてるのとは違うだろ?」

「そんな事ないよ!私は浅葱がいい」

    必死で食い下がる由萌に俺は静かに首を横に振って見せる。

「今は……さ、俺でいいかも知れないけど、きっと由萌はまた俺に飽きると思うよ」

「そんなこと……」

「由萌が求めてるのは俺じゃない。俺じゃ由萌を幸せに出来ない」

「…………」

「由萌、俺はさ……お前に幸せになって欲しい。だからさ、寂しいから俺とか楽しそうだから誰かとか簡単に考えないでもっとちゃんと自分の幸せ考えて付き合う相手選んだ方がいいと思うぞ」

    由萌に思いが伝わるようにしっかりと目を見てゆっくりと告げた。

     本当に由萌には幸せになって欲しい、心からそう思う。

    だから、俺じゃダメなのだ。

    今だから解る答え。

    由萌は呆気にとられたようにぽかんとして俺を見ている。

「……なんか浅葱、変わったね」

「そうかな?」

「うん」

    自分では良く解らなくて、ぽりぽりと人差し指で頬を掻く。

    こくん、と一口絶対に甘ったるいであろうミルクティーを口に含んで由萌は躊躇いがちに聞いてくる。

「浅葱、好きな人いるの?」

「へ?」

    瞬間、脳裏を過る華澄の笑顔。

    トクン……と胸は高鳴るのだが。

    違う、違うのだ。

    華澄はそういう存在じゃない。

    華澄と自分との間に恋だの愛だのといった感情は持ち込みたくない。

    そんなものでけがされたくない、華澄は大切な掛け替えのない存在なのだ。

    返答の代わりに俺はしっかりと首を横に振る。

「そう……」

   やや納得してなさそうに呟いた由萌が悲しげに目を伏せた。

「どっちにしても私はもうダメなんだよね、分かった。ごめんね、急に呼び出して……」

    言いながら由萌は立ち上がりテーブルの角のオーダーの伝票を手にする。

「え?お代はいいよ、俺が払うって」

    慌てて俺も立ち上がり由萌を止める。

    今まで飲食代は全て俺が払っていた。

    女のコは化粧品やら服やら何かとお金が掛かるから、そういうのは全部俺が払う事にしていたのだが。

「私のわがままで呼んじゃったから、私に払わせて。……最初で最後の奢りね」

「由萌……」

    そこまで言われたらもう止める術はなくて。

    会計を済ませる由萌を待って一緒にカフェを出る。

「ご馳走さま」

    はにかみながら短く俺が言うと、由萌は小さく頷いて真剣な顔をした。

「……浅葱、今日はありがとう。酷い事だけ言って別れちゃったの後悔してたんだ。だから謝りたくて……ごめんね。大切にしてくれてありがとう」

「由萌……」

    そんな風に考えていてくれた事に驚きを隠せず、俺は呆然と由萌を見詰めていた。

「これでもう本当にさよならだね」

「だな」

    切なげに目を伏せる由萌に、俺も同じように返事をする。

(なんか湿っぽいな……)

    由萌が由萌らしくなくて、俺はなんとかしようと作り笑顔を浮かべる。

「由萌、大丈夫だよ、お前はちゃんと幸せになれるから」

「ふふ……うん、ありがとう。浅葱も幸せになってね」

「おう!」

    『じゃあ』と小さく手を上げて由萌と別れる。

    今度こそ本当のさよならだ。

    前回のモヤモヤとした怒りと悲しみとがない交ぜになった感情を抱いた別れではなく清々しいさよなら。

    清々し過ぎて逆に少し切ない。

    なんだろう、無性に華澄に会いたい。

    華澄の歌を聴いたなら、きっとこんな切ない想いは直ぐに吹き飛んでくれるに違いない。

    今日は歌うと連絡をもらっていないのだが、なんとなく足が自然といつもの雑居ビルへと向かう。

   すると。

「え?」

    そこにはちょうどギターケースを抱え歩いてきた華澄の姿があった。

「華澄?」

「え?浅葱?」

    俺が声を掛けると華澄も驚いたように、でも嬉しそうに俺を見た。

    何でだろう、会いたいと思った時に会えるだなんて、まるで以心伝心みたいだと俺は密かにドキドキしつつも彼女に問う。

「明日、ライブハウスでライブだから今日は歌わないんじゃなかった?」

「うん、そのつもりだったんだけど、気持ちが落ち着かなくて……なんか歌った方が落ち着く気がして、ちょっとだけ歌おうかなって思って」

「そっか、なる程ね」 

    そういう事かと頷く俺を、華澄は少し怪訝そうに見詰めた。

「ねえ、浅葱。なんかあった?」

    流石、鋭い華澄だ。

    普通にしているつもりだったのに平常心じゃない俺に気付いてしまったようだ。

    俺は先程の由萌とのやり取りを話して聞かせた。

「そっかぁ……まあ、でも最後にそんな風に言ってもらえて、いい思い出に変わってくれて良かったんじゃない?」

「まあね」

    力なくははっと笑って返す俺を見た華澄は、よしと呟いてギターをケースから取り出し始める。

「今日は浅葱の為に浅葱の好きな歌なんでも歌ってあげる!」

「え、マジで?」

「うん!」

    とびきりの笑顔を向けてくれる華澄が眩しくて、俺の胸に巣くっていた切なさが溶けていく。

(やっぱり俺は華澄に出会えて幸せだな)

    そう、心の底から思っていた。

    明日は華澄の初のライブハウスでのライブだ。

    華澄の真っ直ぐで突き抜ける歌声を聴きながら、ライブハウスでは出来る限りのサポートをしてあげようと胸で誓うのだった。



◈5



     残暑が厳しい夏のある日曜の夜。

    華澄の初のライブハウスでのライブは大成功と言っていいだろう……そういった感じに終了した。

    ライブハウスを出、俺は華澄のペースに合わせてゆっくりと帰り道を歩いていた。

「大成功おめでとう、華澄」

「ふふ、ありがと!浅葱のお陰だよ。最初から拳振り上げて盛り上げてくれたもんね」

「あったり前じゃん!だって俺、華澄の一番のファンだし」

「あはは、自分で言ったなー」

    おどけて俺の肩をパシッと軽く叩く華澄に、俺は目を細める。

「だってさ、これから華澄はもっと沢山のファンに囲まれる事になりそうだから、俺一番をキープしとかないとさ」

    これは本音だ。

    今日のライブで、確実に新たなファンと呼べる華澄を支持する人達が増えた事は疑いようのない事実だ。

    そうなると、今までのようなポジションに自分は居れるのかと心配にならない事もない。

    だが、華澄はそんな心配は不要だとカラカラ笑い出した。

「大丈夫!浅葱は一番だよ。そんな一番の浅葱に相談なんだけどさ」

「へ?」

    急に相談と言われてびっくりする。

    でも、そう言えばライブハウスで歌う事も相談されたんだよなと思い返し、自分は頼りにされているのだろうかと嬉しくなった。

「どうした?」

「横居さんにね、これからはストリートでなくライブハウス中心で歌わないかって言われたんだ」

「へぇ、いいじゃん」

    横居さんとはライブハウスの店長……この前、華澄に声を掛けてきた男性の事。

    彼は今日のライブの成功を喜んでくれながらも、こうなる事は予測出来たと、華澄の歌ならもっと可能性があると評価してくれている、頼もしく信頼の置ける人だという印象だ。

    確かに、今日のライブの様子を見るからに、これからもライブハウスで勢力的に活動するのは良いのかも知れない。

    だが、華澄は思案顔になる。

「でもね、ライブハウスで歌うとなると今までみたいに自由が利かないから仕事のシフトとライブのスケジュールと上手くやりくり出来るのかなってちょっと心配なんだよね」

「ああ、なる程ね」

    華澄は仕事に責任感を凄く持っていて、急な残業で歌うの中止にしたりといった事も何度かあったのだ。

    華澄の仕事熱心な所も魅力的だと思うのだが。

「でも、ライブハウス中心で活動するってのもいいと思うけどな」

    今日、初めてステージで歌った華澄だっだが、初めてとは思えないくらい堂々としていて輝いていて、力強い歌声がホール中に広がって今までとは違った感動があったから、機会があるなら是非やった方がいい。

「そうだよね。私も今日初めてライブハウスで歌ってみたけど、すっごく楽しかった。だから、いいかなとは思うんだけど……」

    問題は仕事のシフトか。

「うーん…………、いっそのこと転職しちゃったら、もっとシフトの自由が利く所に?」

    それもひとつの手だろうと俺は言ってみたのだけど。

「え?」

    短く、そう呟いて華澄は立ち止まってしまった。

    表情が凍りついてしまっている。

「あ、ご……ごめん。転職なんて、そんなに簡単な事じゃないよな?」

    焦って俺が取り繕うように笑うと、華澄は小さくううんと呟き、首を小さくふるふると振りながらスタスタと先を歩き始めた。

    俺はあたふたと彼女の後を追う。

「……まあ、そうだよね。歌を続けるなら転職も考えないとだよね」

    振り返りながら、そう俺に笑い掛ける華澄。

    その笑顔は凄くぎこちない。

    仕事も大事にしている華澄に、思いつきで『転職』という言葉を言ってはいけなかったのかも知れない。

「あ、いや……さぁ、仕事と歌と両立出来るかなんてやってみないと解んないじゃん?とりあえずやってみて、ダメならその時考えてもいいし……さ」

    慌ててそう告げた俺を見た華澄は、その様が可笑しかったのか、いつもの笑顔でふふっと笑い出した。

「まあ、そうだよね。何が一番自分にいいのかじっくり考えてみるよ」

「おう。それがいいよ。仕事熱心な華澄も歌う華澄もどっちも魅力的だからさ」

    素直にそう思って、そう口にしたのだけど。

「……っもう、おだてても何も出ないゾ!」

    華澄はそう冗談めかして、またスタスタ歩き出す。

「華澄……」

    やっぱり、ちょっと様子がおかしいような…………。

    戸惑う俺に、振り向きながら華澄は笑い掛ける。

「相談に乗ってくれてありがとう、浅葱」

「おう」

    そう返答はしたものの。

    折角、華澄が俺を頼って相談してくれたのにろくな回答をしてあげられなかった。

    そんな後悔だけが胸に押し寄せる。

    どうしてもう少し気の利いた言葉を掛けてあげられなかったのだろうか?

    安直な考えしか浮かばない自分に腹が立って仕方がない。

    見上げた8月の夜空は、いつものようにネオンでぼやけていて、何色をしているのか俺にはさっぱり判らなかった。



◈6


    いつもの雑居ビルの前。

    歌う華澄の周りには、今まで以上に多いギャラリーが集まっていた。

    行き交う人々の通行をやや妨げてしまっている程に。

(やっぱり、もうストリートで歌うのは限界なのかもな……)

    色々な意味で、これからはライブハウス中心で活動した方がいいに違いない。

    俺はそう思うけど。

    華澄はどうするのだろう?

    決心はついたのだろうか?

    そんな事考えながら、歌う華澄を見ていた。

    今日の華澄は少しだけ愁いてるように見える、気のせいだろうか?

    悲しい歌を歌う、華澄が今日は涙を流さない。

    ギャラリーも皆、息を飲んで静かに華澄を見守る。

    いつもとはちょっと違う感じのライブが終わり、華澄はいつものように丁寧にお辞儀をする。

    しかし、そこで終わりではなく、華澄は声を張って「お知らせがあります!」と話し出した。

    これからはストリートではなくライブハウス中心で活動する事にしたのだと。

(そっか……華澄、決心したんだ)

    俺はホッと息を吐く。

    その方が、華澄にはきっといいと思うから。

    今日、ちょっと様子が違うように見えたのはこの発表を控えていたからなのかも知れない。

    報告が終わり、人が散っていった後、俺はゆっくりと華澄に歩み寄る。

「決めたんだな、華澄」

「うん、決めた。浅葱のお陰で決められた」

「へ……俺?」

    確かにこの前相談は受けたけど大したアドバイスも出来なかったと感じていた俺は、華澄の言葉に驚いて間抜けな声をあげてしまう。

    そんな俺に向けて、華澄は消えそうに儚そうに微笑む。

    とくん……飛び跳ねる心臓。

「どうした、華澄?」

「……そうだね、浅葱になら話してもいいかな?」

    言いながら、ギターを背中に背負い歩き出す華澄。

    夕刻の少し冷たくなった風に吹かれながら、俺たちは近くのオープンカフェへと向かった。

    店内の一番外れのテーブルに腰を落ち着けると、華澄はゆっくりと語りだした。

「会社、先週で辞めたんだ。来月からリモートワークの出来る会社に就職する事になった」

「えっ…………そっか、そっちも決心ついたんだ?」

「うん……、浅葱のお陰で目が覚めたかな」

(?)

    先程も言っていたが、俺のお陰ってどういう事なのだろう。

    さっぱり判らなくて小首を傾げていると、華澄は肩を揺らして自嘲するかのように笑った。

「本当はもっと早く辞めるべきだったんだよね……」

    アイスティの注がれたグラスの中、マドラーをもてあそびながら華澄は遠い目で語る。

    いつも言いたい事ははっきりという華澄が、躊躇いながらぽつぽつ語る。

    見たことのない彼女の様に、俺の鼓動は徐々に上り出す。

    一体、華澄は何を抱えているのだろうか。

「……これ言ったら軽蔑されちゃうかも知れないけど…………」

(軽蔑?)

    いつも凛として歌っている華澄を尊敬する思いはあるのだが、その華澄を軽蔑なんて俺がするとは思えないのだが。

「何だか判らないけど、大丈夫。俺、自分で言うのもなんだけど寛大な方だから、さ……」

    本当に俺に話してもいいのだろうか……そんな迷いがあるように見えて、続きを促すように俺は冗談めかして笑ってみせた。

    すると、華澄は覚悟を決めたように膝に手を置いて、真っ直ぐに俺を見つめてきた。

「私ね、気がついたらチーフの事が好きになってた」

「え……マジ、で?」

    こくんと華澄は力強く頷いた。

    既婚者であるチーフを好きになっていた……それは確かに人には打ち明けづらい話だ。

    納得して、俺もなんだか胸が苦しくなって唇を噛み締める。

    以前、華澄が自分の事をあまり話さないのは歌にするからだと語っていたが、本当の事情はこういうことだったのかと思った。

    華澄は歌にする以外に思いを吐き出す術がなかったのだ。

(辛い恋……してたんだな、華澄)

   俺がどう言葉を返していいか解らず黙っていると、沈黙に耐えかねたように早口で華澄は話し出す。

「最初に気付いた時は何か勘違いしてるんだと思ってた。いつか、こんな気持ちは消えてなくなるって……。でも、どんどん引かれていく気持ちが強くなってって……。だからって、チーフと付き合うとか奥さんから奪うとかなんて更々考えもしなかったし、ましてや気持ちを伝えるつもりすらなかったし、なんとか気持ちを収めようとしてたんだ」

「そっか……」

   短くそう相槌をうちながら思った、『枯らして』―ライブでいつも歌ってるあの歌は華澄の心の叫びだったのだと。

    いけないと止めなきゃと解っているのに溢れてくる想い。

    自分で止められない程に膨らんでしまったから枯らして欲しかったのだろう。

    歌の意味が凄く解って胸が痛くなる。

「何にも知らないで『転職したら?』なんて簡単に言ってごめん。好きな人と離れるなんて嫌だったよな……」

    反省して俺はうつむきながらそう話す。 

    膝の上に置いていた手を無意識に強く手のひらに爪が食い込む程に握りしめていた、知らなかったとはいえ無神経な事を言ってしまっていた自分が許せなくて。

    あの時の華澄の表情を思い出す。

    凍りついたような表情。

    好きな人と別れろと言ってしまったようなものだ、あんな表情になるのも当たり前だ。

   だが、華澄は違うのだと俺に笑いかける。

「ううん、浅葱がそう言ってくれたお陰で気付けたんだよ?そっか、転職しちゃえばいいんだ……って。離れたら気持ちだって消えてくれるのに、なんでそんな簡単な事に今まで気付かなかったんだろう……って」

    目を伏せ力なく笑う華澄の姿が儚げで光に解けてしまいそうで胸が軋む。

    してはいけない恋、消してしまわなければならない想い。

    そんな切なさを抱いて、華澄はずっと自分を責めなから仕事をし続けていたのだ。

    だけど、転職を思い付かなかった。

    それは、それだけ想いが強かったという証だろう、大好きな人と離れるなんて考えられなかったのだろう。

    今まで見てきた、チーフの事を話していた時の華澄の表情を思い浮かべる。

    確かに好きになってはいけない相手を好きになってしまったのかも知れない。

    でも、想いだけは純粋だったから、あんな表情をしていたのだと思う。

「俺は華澄の事、軽蔑したりなんかしないよ」

「え?」

    俺が真っ直ぐに華澄を見つめてそう告げると、華澄は驚いたように小さく声を洩らした。

    そんな彼女に、俺はもう自分を責めなくてもいいよと柔らかに笑いかけた。

「だって、華澄は気持ちを伝えるつもりはなくて一人で完結させようと頑張ってた訳だろ?……だったら、誰に迷惑かけた訳でもないし、軽蔑するなんて事ないよ」

「浅葱……」

「それに、人を好きになる気持ちって自分で簡単にコントロール出来るものでもないじゃん?好きになっちゃうのは仕方ないし、その気持ちまで悪いものだなんて思う必要もないと思うけどな」

「でも……」

「確かに好きになってはいけない人を好きになったかも知れないけど、想いに罪はないと俺は思うけどな。しかも想いを絶ち切ろうと懸命に努力したんだし、えらいよ華澄は」

「そんな事……」

   俯き、ふるふると小さく首を横に振る華澄。

   小さな姿が迷い子のようで切なくなる。

    もう一人ではないよ、まだ辛いなら俺も半分背負うから……そんな思いが胸に込み上げてくる。

「華澄、よく頑張ったな」

    俺が口に出来たのは、そんな言葉だけ。

    ただ、静かに優しく華澄を見守る。

   やがて、華澄はゆっくりと顔を上げた。

「……ありがとう、浅葱」

    そう、呟くように言った華澄の瞼に光るものが微かに貯まっているのが判った。

    きっと、俺の思いは伝わったのだと、そう感じた。

    傾き出した陽の光が穏やかに俺たちを包み込んでいる。

「本当は誰にも話すつもりなかったんだけど、なんか浅葱ならいいかなって思ったんだよね。うん、話して良かった」

    ややして、アイスティを飲んで落ち着きを取り戻した華澄がおもむろに口を開いた。

「なんか、ほっとした」

「そっか」

    互いに見つめ合い笑い合う。

    華澄に出会えて本当に良かったと何度も思ったが、今は華澄も同じ思いを抱いてくれている……そう分かる。

「二人だけの秘密だよ」

    すっかりいつもの調子に戻った華澄がいたずらっ子みたいに笑って俺に言う。

(『二人だけの……』か)

    そんな風に言われてしまうと、どうにも心がくすぐったい。

「ああ」

    こくんと頷いた後、そんな気持ちを誤魔化すように空を見上げた。

    そして、遠くの方がいつもより早めに灰色に変わっている事に気付く。

    夏が終わっていくのだ。

    華澄の恋心も季節が移ろいゆくように、ゆっくりと優しく消えてくれるといいのに。

    そう、願った。



◈7



    ある週末。

    俺は華澄のライブを観る為に街中を歩いていた。

    人混みを縫って進む見慣れた街並みの一部に違和感があり、じっと目を凝らす。

    そこは華澄がいつも歌っていた雑居ビルだ。

    気になり、足早にその場所へと急ぎ、壁に付けられた真新しい看板を覗き込む。

「……閉鎖」

    あまりの驚きに俺はそれだけ口に洩らした。

    見るからにこの雑居ビルは築年数が経っていて、老朽化が進んでいるのが判るが。

    冬には取り壊しになるらしい。

    だが、ここは華澄と俺の大切な思い出の場所なのだ。

    無くなってしまう……。

    仕方のない事なのは判っているのだが、どうにも遣る瀬ない。

    俺は早足でライブハウスへと向かい、華澄のいる控え室へと進む。

    ここのスタッフの人たちには、俺は華澄の友人という事で認識されていて普通に控え室に入れている。

「華澄!」

「あ、浅葱。どうしたの、そんなに慌てて?」

    動揺している俺とは打って変わって、のんびりと華澄は笑っている。

    激しい温度差を感じながらも俺は華澄の肩をがしっと掴んで口を開く。

「大変だよ、華澄。あの……華澄がいつも歌ってた雑居ビル、取り壊しになるんだって!」

    きっと、華澄も悲しむだろう、大切な思い出の場所なのだから。

    そう思ったのに。

「ああ、そうなんだ」

    華澄が告げたのはそれだけ。

    表情ひとつ変えずに話す様に俺は呆然として、華澄を掴んでいた手がするりと下に落ちた。

「それ……だけ?」

「え?ああ、まあ、寂しくはあるけど仕方ないよ。あそこ古かったしね」

   やはり何でもないという風に返答する華澄。

    縮まらない温度差に俺は愕然がくぜんとなる。

    今まで華澄と話していて、こんなに気持ちが噛み合わないのは初めてだ。

「どうして……」

    動揺した俺の小さな呟きも華澄の耳には届いていない。

    あの場所を大切に思っているのは俺だけなのだ。

    そう感じて鉛を飲んだような気分になる。

    そんな俺の様を気に止める事もなく、華澄は楽しそうに笑みかけてくる。

「ね、それより、浅葱聞いて、聞いて!私ね、CD作ることにしたんだよ!」

「へ、マジ!?」

「うん!横居さんが色々アドバイスしてくれて……折角だから作ろうと思って」

    温度差の原因はこれだろうか?

    CDを出すだなんて華澄には大きな挑戦で、1つの目標でもあった筈だ。

    未来へ踏み出し始めてる華澄には、過去のことなど振り返っている余裕なんてないのかも知れない。

「良かったじゃん、華澄!」

    心からそう思った。

    これから更にもっと応援してあげようと。

「ありがとう。今日ね、新曲歌うんだ。楽しみにしてて?」

「おう!」

     最高のライブを期待して客席へ向かった俺だったのだけど。

(あれ…?)

    いつもの悲しい歌を歌う華澄。

    だが、華澄であって華澄じゃない―まるで他人ヒトの歌を歌うみたいに自分の歌を歌っている―俺には、そう、見えた。

    この違和感を抱いているのは俺だけなのだろうか?

    歌を聴いている数名の女のコがいつものように涙を流している。

    華澄が泣いていないから違和感があるのだろうか?

    答えが解らないまま、華澄は新曲を歌い始める。


楽しい時間は すぐに過ぎて
あなたは 私を 送ってくれた
切なさ隠す様に 笑顔で車から降りた
家の前には 秋桜が 咲いていた
風に吹かれて 優しく 咲いていた

秋桜が 咲いていた
秋桜が 咲いていた♫

     片思いの切なさを歌った歌なのだが、なんだろう……切なさのその奥に含みを持った温かさがある気がして……ストレートに痛い歌詞ばかり歌ってた華澄にしたら、この曲はソフト過ぎる気がする。

    先程抱いた違和感が更に増していく。

「華澄……」

    取り壊しの決まった雑居ビル。

    いつもと違うように見える華澄。

    その2つの事実が、棘を持った蔦になって俺の胸に絡み付く。

    帰り道、冷たくなった秋風がその胸の傷口に吹き付けて、俺を蝕んでいくのだった。



◈8



    今年ももうひと月余りで終わろうとしている、寒さ堪えるある夕刻。

    俺は華澄に呼び出され、いつものライブハウスの近くにあるカフェに来ていた。

「じゃーん、出来たてほやほやのCDだよー」

    鼻歌でも歌い出しそうな勢いで愉しそうに華澄は俺にCDを差し出す。

「おお。とうとう出来たんだ、やったな凄いじゃん!?」

「でしょ、でしょ?『浅葱に一番にあげる!』って言いたい所なんだけど……ごめん。先に横居さんにあげちゃったんだ」

    本当に申し訳なさそうにぺこりんと両手を合わせ謝ってくる華澄。

    その姿が愛らしくて、俺はははっと口許に笑みをたたえる。 

「大丈夫。だって、横居さんは色々相談に乗ってくれたんだから……まあ、当然でしょ?」

「うん。そう言ってもらえると有り難いなぁ」

    本当にCDが出来て嬉しそうにしている華澄を見てると、こっちまで嬉しくなってくる。

    レコーディングの事とかミックスの事とか色々苦労した話を聞いていたので、華澄の喜びが手に取るように分かるから尚更だ。

「そっかあ、とうとう出来たんだ。……じゃあ、前の会社に置いてもらったりするの?」

    前に華澄が言っていた、他の従業員たちにもインディーズレーベルに興味を持って欲しいのだと。

    その為にも自分がCDを出したいと。

    だが。

「流石にそれはしないよー。まあ、チーフに頼んだら置いてはくれるだろうけど。でも、売れるか売れないか判らないし、全然売れなくて棚卸の度に『売れてないなぁ』って思われても嫌だもん」

「……まあ、そっか」

    冗談めかして笑う華澄の様に、チーフの事は穏やかな思い出に変わっている事がうかがえて良かったなと思ったのだが。

    元々のCDを出したかった気持ちと、今の気持ちは違うのだなぁと考えながらジャケットを眺める。

    花を基調にした愛らしいイラストの描かれたジャケット。

    華澄のイメージといえば凛としていて真っ直ぐでカッコいいといった感じなので、なんだか凄く掛け離れている気がしてしまう。

    まあ、華澄のファンは女性が多いから、こういうデザインが喜ばれるのかも知れないけど。

    兎に角、折角苦労して作ったのだ。なんとかして売り込まなければ。

「あ、そうだ!同じライブハウスばかりじゃなくて違うライブハウスでも歌ってみたら?」

    軽い思い付きではあったが名案だと考え、そう提案したのだが。

「え、なんで?」

    華澄から表情が消える。

「なんでって……」

    呟きながらも焦燥感を抱く。

    前にもこんな華澄を見た事があった気がするのだが、いつだっただろうか?

    思い出せそうで思い出せない。

    とくとく胸がうるさく騒ぎ始める。

「折角作ったCDなんだから、沢山の人に買ってもらいたいじゃん。だったら他のライブハウスでも歌った方がいいかな……って思ったんだけど」

「ああ、なる程ね……」

    俺の話を聞いた華澄がいつものように笑って言葉を続ける。

「確かにそうかも知れないけど、今はまだいいよ。CDだってお試しで出してみただけで、すぐに売れるだなんて思ってないし。そんなに自惚れてないから、私」

    リアリストな華澄らしい、しっかりとした考え方。

    確かに華澄の言う通りだ。

    ……でも。

    目の前にあるイメージにそぐわないジャケット、前回のライブで抱いた違和感、それと先程の華澄の表情。

    それが重なってなんだか俺は落ち着かない気持ちになってくる。

「……なあ、華澄?」

「ん?」

「あの雑居ビルが取り壊しになる前に、もう一度だけあの場所で歌わないか?」

    俺はそう、気付いたら口にしていた。

    あの場所で歌う華澄を見たら、俺の胸を巣くうモヤモヤした気持ちが晴れてくれる……そんな気がして。

「え?どうしたの浅葱、随分あの場所にこだわるね?」

「だって、あの場所は初めて華澄に会った場所だし……」

    苦笑いを浮かべる華澄を見、また俺と彼女との間に温度差を感じたが、構わず俺は話し続ける。

「もう一度だけでいいんだ、歌ってくれないか?なんなら一曲だけでもいいから」

「うーん。そこまで浅葱が言うんなら一曲くらいならいいけど……」

    困惑しながらも仕方ないなと笑う華澄に、俺は縋るように前のめりになって懇願する。

「なあ、今すぐ行かないか?もう取り壊しになるまで日数ないし……」

「え、今?私、今日ギター持ってきてないよ」

「アカペラでいいよ、俺手拍子するし……」

    無理なお願いをしているのは判ってる。

    どうして自分でもこんな無茶苦茶なお願いしてるんだろうとかも思ってる。

    ただ、どうにも胸がとくとく騒いで落ち着かなくて、言動全てが無意識だった。

    流石に華澄も俺の様子がおかしい事に気付いて小首を傾げている。

「どうしたの、浅葱?」

「だめ……か?」

    まるで駄々っ子だと自分でも判ってる。

    判ってるのに、少し語尾が小さくなったが、それでも懇願する。

「……仕方ないなー、他ならぬ浅葱のお願いだ、きいてあげようじゃないか」

    おどけながら華澄は立ち上がる。

「本当に一曲だけだゾ!」

「ありがとう」

    無茶なお願いをきいてくれた華澄に感謝し、ほっとしつつカフェを後にし雑居ビルへと向かった。

    空には真っ黒な雨雲。

    辺りは暗くなっていて街灯が灯っている。

    取り壊し前のビル付近は人気もなく、物悲しさを漂わせていた。

「さて、何を歌おうか?」

    ビルの前に立った華澄が俺に微笑みかける。

「『Eternal』がいいな」

    『Eternal』―その曲は由萌と別れたあの日、街中を歩いていた時に聴こえてきた、初めて聴いた華澄の歌だ。

    あの日は由萌と別れた直後だったので残酷に響いたが、改めて聴くと永遠を信じたいのに信じられない……そんな繊細な心情を描いた切ない歌で大好きになっていたのだ。

「OK!……っと、ほら、手拍子!アカペラで歌うの恥ずかしいんだからね!」

「あ、ああ……」

    本当にアカペラで歌うのが恥ずかしいのだろう、むくれて頬を膨らます華澄の様に、俺は慌てて手拍子を打つ。

    冬の冷えた空気を切り裂く凛とした華澄の歌声。

    力強く真っ直ぐなそれは空に届くのではないかと思った。

    だけど。

(違う……)

    この前のライブで感じた違和感はライブハウスという場所だからなのかも知れないと考えたりしていた。

    この場所で歌う華澄を見たら、胸にあるモヤモヤが消えてくれるのではないかと。

    でも、この前と同じだった。

    華澄は他人ヒトの歌を歌うみたいに自分の歌を歌っている。

    手拍子をしている指先がかじかんでくる。

    それもその筈。

    空から真っ白なものがちらちら降り注ぎ始めてきたのだから。

    ふわふわと舞い踊る雪の中、歌う華澄はとてもキレイだと思った。

    目映くて神聖な存在に見えた。

    それでも、抱いてしまった違和感は消えず、雪のように解けず、俺の胸にひたひたと積もっていく。

    やがて歌い終えた華澄が俺に微笑む。

「どう?満足した?」

「ああ、もう十分だよ」

    『最高!』嘘でもそう言うべきだった筈なのに。

    口にしたのはそんな無骨な言葉。

    本当にもう、十分なのだ。

    俺の感覚がおかしいのか華澄が変わってしまったのかは判らないけど。

「ごめん……」

    俺のわがままで歌ってもらったのに…………。

「ごめん、寒いのに本当ごめん!風邪ひいたら大変だからもう帰ろう」

    冷えきった手で、同じように冷えているであろう華澄の手を取り温めようとしたのだが。

    微かに触れた彼女の手は予想と反して温かくて………。

    まるで、開いた温度差は縮まることはないよと告げられているようで、バツが悪くなって慌てて俺はその手を上着のポケットに押し込め、駅へと急ぐのだった。



◈9



    華澄のCDを聴いてみた。

    彼女がどれだけ苦労して懸命に産み出したものなのかを知っているから、大切に何度も何度も聴いてみた。

    だけど、どんなに耳を澄ましてみても、俺の記憶の中の華澄を見つけることが出来なかった。

    仕上がった音源のイメージはジャケットのデザインと一緒。

    愛らしくて何処にでもいる普通の女のコがそこに存在していた。

    儚げで危うげで……でも芯に強さがある、そんな女性は何処にもいないのだ。

    痛く悲しい歌なのに何故か寄り添ってくれる温かさがある、そんな不思議な華澄の歌が好きだった。

    この音源は悲しい筈なのに何故かふんわりしていて何処か他人事で、逆に突き放されてしまう気がしてしまう。

    こんな感想、もちろん華澄に言える訳もなく、メールも何も出来ずにいた。

    幸い、華澄からも感想を求められなかったから良かったのだが。

    ライブにもずっと行けずにいた。

    『仕事が忙しくて……』そんな言い訳を疑うこともなく華澄は納得してくれていた。

    勿論、俺の仕事は相変わらずの定時上りなのだが、あまり華澄は俺の事を気に止めてないのかも知れない。

    CDの感想はおろかライブに来て欲しいという催促すらされない。

    華澄にとって俺はその程度の存在なのだろうか?

    由萌を失った俺を支えてくれたのは華澄だった。

    俺が華澄を必要とするように華澄も俺を必要としてくれてると思ってた。

    いろいろと相談されてたし、二人だけの秘密だってある、だから……。

    でも、全部俺の思い上がりだったのだろうか?

    確かめてしまったら、華澄と過ごした日々すべてが幻になりそうで怖い。

    しかし、ずっと会いに行かないのも不自然なので、勇気を振り絞りいつものライブハウスへと久しぶりに向かうことにした。

    歩きなれた街中だが、微かに何かが変わっている気がする。

    彩りも変わっている。

    様々な思いに包まれていた間に最も寒い時期は終わり、気付けば季節はもう春になっていたのだ。

    開演時間ギリギリくらいに会場に入ると、すぐに横居さんが気付いて声を掛けてくれた。

「久しぶりだね、浅葱くん。きっと華澄も喜ぶと思うよ」

「お久しぶりです」

    フレンドリーに話し掛けてくる彼にペコリ軽くお辞儀をすると、すぐに客席の半ば辺りに案内される。

「ここ、うちの会場で一番音が良く聴こえる場所だから……」

「ありがとうございます」

    お礼を言うと同時、ステージからポロン…とアコースティックギターの音色が微かに聴こえてくる。

    まだ暗いステージ。

    その中央で華澄がギターのチューニングをしていた。

    久しぶりに見た華澄。

    相変わらず小さくて、ギターが大きく見えてしまう。

    姿は出会ったその日のままなのに。

    横居さんがステージに上り何か華澄に話し掛けている。

    すると、華澄が俺に向かって小さく手を振ってきた。

    きっと横居さんが俺が来た事を華澄に教えたのだろう。

    俺も同じように華澄に手を振り返して間もなく……。

    ステージ上は光の洪水となり、華澄の奏でるギターがハッキリと耳に届いた。

    聴いた事のない曲だった。

    しかし、客席からは馴れたような手拍子が響く。

    俺がライブに来ていない間に定番化していた曲のようだ。

    しっとりと優しい声で歌う華澄。

    ……幸せな歌だった。

    こんな華澄は初めてで、俺は豆鉄砲を食らった鳩のようになってしまっていた。

    傷だらけの堕天使のように泣きながら悲しい歌を歌っていた華澄は何処にもいない。

    愛らしい精霊のような華澄がそこにいた。

   歌が終わり。

「ありがとうございます」

     そういってペコリ軽く頭を下げた後。

    前はよく俺に笑い掛けてくれていたのだけど。

    華澄は俺の方ではなく、ある方向を向いてふんわりと微笑んだ。

    見た事のない幸せな表情。

    その先には横居さんがいた。

    彼も華澄に同じように笑み返している。

(……そうか、そうか。そういうことか…………)

    全てが解ってしまった。

    思い出した、出来上がったCDをもらった日、『他のライブハウスで歌ったら』と言った時に見せた華澄の表情は、夏の日に『転職したら?』と言った時と同じ表情だった。

    好きな人と距離を置けと言われているようなものだから、拒絶の表情を浮かべたのだろう。

    辛い恋をしていたから悲しい歌を泣きながら歌ってた。

    幸せな恋をしたから、悲しい歌を歌っても今やまるで他人事になってしまう。

    今、歌いたいのは幸せな歌だから。

(バカだなあ、俺。華澄言ってたじゃんか、自分の事は全部歌にするって、歌で感情を吐き出すって……)

    そこまで考えて、ふと思った。

    華澄を変えてしまうきっかけを作ったのは俺自身ではないかと。

    華澄に転職を勧めたのも、ライブハウスで歌うことを勧めたのも俺なのである。

「ははっ、ははは…………」

    自嘲して小さく笑いを溢す。

    足元が覚束無くて、ゆらりと揺れてしまう身体をなんとか気力で持ち直す。

    本当にバカだ、だけど……。

(華澄が幸せなら、それが一番じゃないか…………)

   解っている、解っているけど……。

    答え合わせしてる間にも、華澄の幸せな歌は響く。

「華澄……」

    聴いていられなくて、俺は会場を後にする。

     出口で振り返り、もう一度だけ歌う華澄を見つめる。

    穏やかな笑顔に満ち溢れている華澄。

   その側には横居さんがいる。

「もう俺はいらない…………よな」

    俺の呟きは華澄が奏でる温かなギターのにかき消されたのだった。

    華澄と出会ったあの日と同じ、少しだけ冷たい風が吹き抜ける街を歩く。

    穏やかな春の夕暮れに一人。

    春なのに……いや、春だから…………。

    華澄に出会ってから今までの色々な出来事が頭をよぎる。

『さっき、キミも泣いてたよね?なんかあったの?』

『タバコは身体に悪いから止めなさいって!』

『凄くないよー、ただのストレス発散だもん』 

『どうしよう浅葱!私、ライブハウスで歌わないか?って誘われちゃった!』

『今日は浅葱の為に浅葱の好きな歌なんでも歌ってあげる!』

『……っもう、おだてても何も出ないゾ!』

『相談に乗ってくれてありがとう、浅葱』

『二人だけの秘密だよ』

…………

『浅葱は私の一番のファンだね』

―そう告げてきたとびきりの笑顔が光のように脳裏に鮮やかに広がり、緩やかに溶けて消えていった。

(俺は…………)

    無意識に辿り着いたのは、あの雑居ビルがあった場所。

    ビルは取り壊され、今は砂利が散乱する更地に変わり果てていた。

    この後、ここには女性向けのファッションビルが建つ予定だ。

    俺にとってこの場所は掛け替えのない大切な場所だったのに。

    華澄にとってはこの場所より、横居さんと時を刻んでいくあのライブハウスの方が大事なのだ。

   ふと思った。

    華澄にとって俺はここにあった雑居ビルと同じ―変わりゆく景色の一部だったのだろうか……と。

    いつもそこにあるようでいて、時の流れと共にいつの間にか消えてしまうけど、消えた事すら気付かないような……。

    きゅっと胸が軋んで、俺はポケットをまさぐりミントガムを取り出し、そそくさと口に放り込む。

    煙草を止めるだなんて考えもしなかったのに止められた。

    華澄は変わってしまった。

    だけど、俺だって華澄と出会った頃の自分とは違う。

   だから、変わっていける筈だ。

「大丈夫」

    言い聞かせるように、そっと風に乗せ呟いた。

    雑居ビルはもうない。

    悲しい歌を歌う、華澄にはもう会えない。

    もう、振り返らない。

    力強く、一歩踏み出し、俺はその場所を後にした。

    少しだけ冷たい風はまだ懐かしかったけど、しっかりと新しい時間を歩んでいこう。

    時は止まってはくれないのだから…………。


◀Fin▶


◈あとがき

やっとと言うべきか、とうとうと言うべきか、無事書き終えました、久々に書いたオリジナル小説。

思えば、オリジナル書いたのは20数年ぶりだったりします。(自分でもビックリ😅)

二次創作ばかり書いてましたからねf(^_^;

本来、私は三人称で文章を書く方だったのですが、近年一人称で書かれているゲームの二次創作を書いていたので、すっかり一人称に慣れてしまっていたようです( ̄▽ ̄;)

で、この小説なのですが、過去記事でも少し触れましたが、8月のある日、朝から頭の中に大好きなミュージシャン森良太くんの『怪獣』という曲がずっと流れてて、その状態で仕事をしてましたらストーリーが降ってきてくれたのですよ。

つまりは、『怪獣』の詞にインスピレーションをもらった形なのですが。

小説のストーリーが降ってきてくれたのは本当に久しぶりだったので、折角だから書こうと思いリハビリのつもりで書いてみました😊

ですが、ストーリーの冒頭部分で、書いたものがすぐに気に入らなくなってしまい、全消しして新たに書き直しましたf(^_^;

そんなこんなで完成まで3か月もかかってしまいましたが、なんとグッドタイミング✨

まさか、まさかの森くんの『怪獣』が音源化‼️

配信日がちょうど書き終えれそうな日付‼️

…はい、見事に『怪獣』の配信日にこの小説もUP出来ましたー✴️

なんという幸せ(●´ω`●)

ちなみに森くんの最高の楽曲はこちら↓からどうぞ🎵(注意▪現在こちらのリンクは削除されました)

『Cold Love』という曲と一緒に配信になってます🎵

(現在はこちら↓のアルバム内からどうぞ)


小説の内容と『怪獣』の詞の内容は異なりますが、なんとなく似てる部分もあるかと思います。

この作品には怪獣は出てきませんが、華澄にとってヒーローは浅葱だったのか横居だったのか?、怪獣はチーフだったのか、実は浅葱だったのかも⁉️…なーんて色々考察しても楽しいかも知れませんね😃

ですので、曲を聴きながら読むと更に楽しめるかと思いますので、是非聴きながら読んでみて下さい😊

……って、それならまえがきを書いてそこに書きなさいって話ですが(; ̄ー ̄A(スミマセン)

ちなみにこの小説の主人公『浅葱』ですが、ストーリーが降ってきた時に一緒に名前も降ってきてくれたのですが、凄くピッタリな名前なんですよ✨

浅葱色って長ネギの葉の黄緑に近い感じの色じゃないですか。

その未熟な感じが『浅葱』というキャラそのものだなと。

物語冒頭はそうとう薄い色だった浅葱くんですが、華澄と出会い徐々に色づいていったのですが、ラストまでいってもまだ緑には遠いのです。

まだまだ未熟です。

何故なら、何もかも変わってしまったと浅葱は嘆いてますが、変わっていないものがきちんとあるのです。

変わっていないものがなんなのか……あえてここでは書きません。

是非、読んで下さったあなたさまにも考えて欲しいです😊

まあ、そんなに難しい答えではないと思いますけどねf(^_^;

浅葱はこれから頑張って浅葱色から完全なる緑色に変わっていける筈です。

未来へと向かう浅葱を応援してやって下さいませ。

続きまして『華澄』ですが、降ってきた名前は『柊』だったんです。

でも、浅葱にしっかり意味があるのに柊じゃストーリーに当てはまる意味がなくなってしまうなと思い、次に頭に浮かんだのが『かすみ』でした。

「かすみ……霞!浅葱にとって彼女の存在は霞!うん、かすみにしよう!」と(笑)

漢字には意味を持たせてませんが、彼女のイメージに合う漢字にしました。

で、『由萌』は響き通り「常に夢をみている女のコ」という意味です。

そして、一番皮肉なのが『横居』!

浅葱、お前の幸せを壊すヤツは横に居るゾ!という意味です(笑)

今までキャラの名前はなんとなく適当に決める事ばかりだったのですが、降ってきた『浅葱』があまりに意味的に最高だったので、今作は全員意味を持たせましたが、その分愛着が沸きましたね。

最初、浅葱のキャラ設定を考えた時、全てにおいて平均点のとても平凡な男性……とした時、「果たしてそんなに平凡なキャラを主人公にして面白いストーリーになるのか!?」と不安にもなったりしたのですが、いやいや全然!

書いててすっごく楽しかったですね。

あまり暴走もしなかったし(笑)

私の小説の書き方なのですが、プロローグとエピローグだけが最初に浮かんで、それに合わせてキャラを設定して、中のストーリーはキャラが勝手に動いてくれる感じなんですよね(笑)

最初、由萌なんて理想を追い掛けてるだけのわがままで嫌な女のコだったのに、最終的には浅葱に謝ったりするいいコになっちゃいましたしf(^_^;

由萌がいいコになれたのは浅葱が由萌の幸せを願ったからで、浅葱が由萌の幸せを願えたのは華澄が冷静に浅葱と由萌の関係性を見極めてくれたから……だったりします。

あと華澄は本当はもっと謎が深い女のコにしようと思っていたんです。

が、動き出した華澄は「浅葱になら話してもいいかな?」なんて言うんですもん( ̄▽ ̄;)

私の中で本当にキャラは勝手に動いてくれるのです、番狂わせもあったりで楽しいです😊

今回のキャラ好きすぎて、このエピソードはこう生まれましたとかいっぱい話したくなりましたが、書くと切りがなさそうなのでこの辺で収めたいと思いますf(^_^;

ただ、文章については完全に納得してませんし、ひょっとしたら誤字脱字の見落としとかあるかも知れませんので(; ̄ー ̄A、時々チョロチョロと加筆するかも知れません。

これがネットで書いてる小説の強みですな、印刷だとそうはいかないですからねf(^_^;

少しでもこの作品を気に入って下さったのでしたら是非スキをお願いいたしますm(_ _)m

noteここでは一度もコメントもらった事ありませんが、感想なんかいただけると次回作への意欲が湧きますので是非是非お願いいたしますm(_ _)m

はあ、とうとう浅葱とお別れか(ノ_・、)

エピローグ(◈9)を書いてる時、感情移入しすぎたのと浅葱とお別れしてしまうのが悲しかったのとでつい涙を浮かべてしまいました_(^^;)ゞ

では、また次の作品でお会いできる事を願って……✨

2021.12.01 UP
2021.12.03 一部加筆修正

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