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【経営学35】M&Aの重要条項解説 後編(ロックドボックス、価格調整条項、コベナンツ条項、ファイナンスアウト条項)

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はじめに

前回、M&A契約の重要条項解説の【前編】をお送りしました!


今日はその【後編】です

M&Aの条項はややこしいものが多いので、今回も若干難易度の高い記事になりますが、ぜひ最後までお付き合いください。

なお、本記事で使う用語は、以下の定義で使用しています。

売手:M&Aの売手
買手:M&Aの買手
対象企業:M&Aの対象となっている企業
M&A契約:原則として株式譲渡契約を想定しています


1.ロックドボックスと価格調整条項

後編の最初はロックドボックスと価格調整条項の2つから始めましょう!
この2つは若干ややこしいので、細かいところは覚えなくて良いです。
ただ、何となくイメージはわかるというくらいには知っておいた方が良い条項です。



(1)ロックドボックスとは


ロックドボックスとは、M&Aの対価の決定方法の一種で、一定の基準日時点における対象企業の財務数値等をベースとして算定された対価を固定額として、後々の調整を行わない方式です。

何を言っているんだ?と思うかもしれません🙄
説明させていただきます。

M&Aという行為は、契約の締結時点と実際の引き渡し時点(クロージング日)に時間的な開きがあります。
例えば、M&Aの契約自体は5月1日に行ったけど、実際の引き渡しはその半年後なんてことがよくあるのです。

M&Aの契約を行った後も株主総会を開いたり、債権者保護手続等を行ったり、社内の従業員に説明したりといろいろなことをしないといけないので、通常は3~6ヶ月程度の準備期間が発生してしまうのです。
大型のM&Aの場合は、1年以上も準備期間があるケースもあるほどです。

その間も対象企業の事業は継続的に運営され続けますから、契約を締結した時点から良くも悪くも財務状況は変化していきます。

そのため、このような財務状況の変化をM&Aの対価に反映させるべきかという論点が出てきます。

その一つの解決法がロックドボックスです😁
ロックドボックスは、基準日の財務状況を基礎として価格を決定し、その後の調整を行わないという取り決めです。
日本のM&Aは、正式な意味でのロックドボックスではないですが、基本的には価格が固定されていることが多いかと思います。

ロックしたボックス=金庫


(2)価格調整条項とは


一方で、価格調整条項(方式)とは、ロックドボックスとは異なり、M&A契約締結日からクロージング日(決済日)までに発生した対象企業の財務状況の変動を加味して、クロージング日に価額の調整を行う方式です。

この場合、ある程度の金額は契約締結日に決まるのですが、クロージング日の財務状況次第では大きな価額変動があり得ます。

そのため、売手としても買手としても若干不安定な状態に置かれます。
その分、実際の引き渡し日(決済時)の財務状況を反映できるので、公平ではあります。

もし価格調整条項を設ける場合は、どのような方法で調整を行うのかについて当事者間で話し合っておく必要があります。
この点については、会計に詳しい方々の力を借りるべきです。

会計帳簿



(3)どっちがいいのか


ロックドボックス方式と価格調整方式はどちらがいいのでしょうか。

これは一概にはいえません🤔
ロックドボックスの場合、基準日以降は価格調整を行いませんから、値上がりリスクを回避できるという意味で、買手にとっては有利なように見えます。

しかし、クロージング日までの間、売手が経営を行うのですからとんでもない経営をされて資産が目減りしても価格調整は行われないということでもあります。
そう考えると、買手がリスクを負っていると捉えることもできます。

一方で、価格調整方式の場合、価格の変動が起こり得るので、正確な価格がクロージング日まで決定しません。
売手と買手の公平性は保てるかもしれませんが、ギリギリまで値段がわからないというのは双方にとって予測可能性を害します。

そのため、どちらの方式も一長一短あります。

もし、ロックドボックス方式を採用するのであれば、クロージング日までの経営方法について詳細な限定を加えておくべきでしょう。

もちろん、日々の業務で現金を使うでしょうし、振込送金などで預金の変動もあるでしょうから、そういう日常業務で使う資金移動は当然OKにするでしょうが、一体どの金額までを「日常業務」と定義するのかは当事者で話し合っておくべきです。
仮にその約束を破った場合には、違約金で調整するという方法もあります。

一方で、価格調整方式を採用する場合でも、経営方法の限定は必須です。
どこまでを日常業務とするのか、何を行ってはいけないのか。
そういう細かいところまで確定させておく方が当事者にとっても良いでしょう。

気を抜くとお金は無くなるんですよ



2.コベナンツ条項

続いて、コベナンツ条項について解説していきましょう😁
特別に大事な条項ではないのですが、M&Aにかかわる人たちは横文字大好き芸人であることが多いので、突然「コベナンツで定めておきましょう」みたいな話をしてくることがあります。
けして一般的な用語ではないものでもサラッと使ってくるので困ったものですが、一々聞くのも面倒だと思うので、一応ここで解説させていただきます👍


(1)コベナンツ条項とは


M&A契約におけるコベナンツ条項とは、当事者間で約束した特約であって、一定の行為を行うこと又は行わないことを定めた条文です。

前述のとおり、M&Aは、最終的なM&A契約を締結してから、クロージング日(決済日)までの間に数ヶ月の期間があります。
その間に、買手・売手が好き勝手できてしまうと、対象企業の価値を毀損してしまったりします。

そこで、コベナンツ条項を設けて、当事者間でやるべきこととやってはいけないこと(禁止事項)を明確にしておきましょうという趣旨です😁

おそらくどのM&A契約でもコベナンツ条項は入れられていると思います。
条文の名称は様々なだと思いますが、何らかの特約として規定されているはずです。

禁止事項の方が大事かもしれない


(2)コベナンツに入れる事項の例


コベナンツには、様々な事項を記載することができますので、ルールは特にありません。
当事者間で確認しておきたいこと、明文化しておきたいことは全部入れてしまってもいいです。

一般的に記載されることが多い事項は以下のようなものがあります。

・取締役会、株主総会の承認取得手続き
・通常の業務の範囲の定義
・売手側による従業員、役職者の引き抜き禁止
・買手側による従業員の雇用継続
・対象企業の債務に関する取り決め
・代表取締役の個人保証の解除手続き
・許認可届出の手続き
・知的財産権に関する手続き
・その他の禁止行為の列挙

などなど

様々なことが規定されます。
それぞれでどういう手続をいつまでにしないといけないのか、そして、何をしてはいけないのか。
そういう細かい約束事を全部コベナンツ条項に詰め込んで構いません😁

ちなみに、禁止行為・禁止事項のことをネガティブコベナンツといったりします。
何をしてはいけないのかという点はできる限り具体的に列挙しておいた方が良いです。
また、禁止行為に該当するかどうか判断に迷うような事項は全部報告するように報告・相談義務も課しておくべきだと思います。

ただ、あまりに条文が長くなると読みにくいので、ある程度項目をまとめて条文を複数に分けた方が読みやすいです。

契約書はシンプルに!




3.ファイナンスアウト条項

最後にファイナンスアウト条項について学んでいきましょう!
ベンチャー企業が買手になるM&Aや大型のM&Aではこの条項が入れられることがあるので、一応知っておいた方が良いという程度の条項です😁


(1)ファイナンスアウト条項とは


ファイナンスアウト条項とは、M&Aにおける資金調達が完遂できなかった場合に、買手が決済する義務を免除されるという条項のことです。

つまりは、借金や新株発行等で資金調達したお金でM&Aを行おうと思っているけど、資金調達が上手く行かなかったらM&Aを無かったことにしてください!という条文です🙄

M&Aでは、株式を対価にするM&Aスキーム(現金が不要なスキーム)も多く存在しますが、多くのM&Aでは現金振り込みで対価が支払われます。

それゆえに、多くのキャッシュ(現金)が必要となり、そのキャッシュを契約時点では持っていない買手も存在するのです。
その場合は、銀行から借り入れたり、新株発行して資金調達をして、そのお金でM&Aが実施されます。

ファイナンスアウト条項がある場合は、この資金調達が失敗したら、買手は対価の支払い義務を免除されます。
その時点でM&Aディールは終了で、売手は別の買手を探す必要があります。

見方を変えると、売手にはあまりメリットがない条文です🤔
そのため、原則として売手はファイナンスアウト条項に難色を示しますし、それが当然の反応です。

もし受け入れるにしても、数カ月間待たされた上にディールブレイク(M&A頓挫)するのであれば、何の得もありません。
そこで、ファイナンスアウト条項が発動された場合は、買手が売手に対し、違約金として●●万円支払うという条項を入れることもあります。
不動産取引でいう「違約手付」のようなものです。

私の見解としても、ファイナンスアウト条項を入れるのであれば、違約金規定を定めておいた方が良いと思います。
時は金なりです。

お金で解決!


(2)ファイナンスアウト条項の性質


先程、ファイナンスアウト条項は売手にはあまりメリットがないとお話しました。

しかし、売手に全くメリットがないのかというとそうではありません。

ファイナンスアウト条項を認めることによって、買手の候補が広がり、買手を見つかりやすくなるというメリットはあります。
売手が大人気業種で、黒字企業である場合、わざわざファイナンスアウト条項を入れてあげてまで買手を募る必要性は乏しいと思いますが、買手の候補が見つからない場合に関してはそうも言っていられません😰
ファイナンスアウト条項を認めてでも買手がほしい場合は有効な手段の一つです。

また、ファイナンスアウト条項が入れられるような案件の多くは、買手がファンドであることが多いです。
その場合、SPC(特別目的会社)を設立し、そのSPCが資金調達を行って買手になるスキームが利用されることが多いです。

このようなスキームでは、SPCは設立されたばかりの法人であるため、信用力や財力はほぼありません。
そのため、対象企業の企業価値を基礎として貸付可能額が算定されます。

そうなってくると、売手も無関係ではないです。
売手が経営を担う対象企業の財務状況や将来の稼得能力などが審査対象となります。
売手と買手でしっかりと協力しあって事業計画を立て、返済可能性が高いということを示せる資料を作成し、融資が実行されるように努力しないといけません。

このように、ファイナンスによるM&A案件の多くでは、売手と買手が相互に協力しあって、M&Aの実現に向けて努力しないと実現できないという性質を持っています。
そういう意味では、より友好的なM&Aが実現できるスキームかもしれません。

仲間は大事



おわりに

前編後編に分けてM&Aの重要条項を解説させていただきましたが、いかがだったでしょうか。

いざM&Aの契約を見なければならない瞬間が訪れた場合でも、そこから勉強を始めると遅すぎることがよくあります。
今のうちに重要なポイントだけでも抑えておくと、ある程度わかった状態でM&Aディールを進められるので有益かと思います。

最近ではベンチャー企業同士又は大手とベンチャー企業のM&A事例も増えてきていて、今後もこの流れは拡大していくだろうと予測しています。

なので、ベンチャー企業で働く経営管理部門の皆様もM&Aの基礎は今のうちに学んでおきましょう!

学問としてもとても面白い分野なので、オススメします。
法律、会計、経営戦略という様々な学問分野にまたがる領域なので、学んでいて飽きませんよ😁

もし読者の皆様の中でM&Aでお困りの方がいたらいつでも声をかけてください。
M&Aアドバイザー、会計士など、私の知り合いでよければご紹介いたします👍
WARCでもM&A業務をサポートしているので、DDやストラクチャー相談、税務相談などいつでもご相談ください。


ではまた次回お会いしましょう🎵



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著者:瀧田 桜司(たきた はるかず)
役職:株式会社WARC 法務兼メディア編集長
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