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月刊「読んでみましたアジア本」

日本で出版されたアジア関連書籍の感想。時には映画などの書籍以外の表現方法を取り上げます。わたし自身の中華圏での経験も折り込んでご紹介。2018年までメルマガ「ぶんぶくちゃいな」(…
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#香港

【読んでみましたアジア本】びっくり、ただの漁村じゃなかった植民地前の香港:魯金・著/倉田明子・訳『九龍城寨の歴史』(みすず書房)

【読んでみましたアジア本】びっくり、ただの漁村じゃなかった植民地前の香港:魯金・著/倉田明子・訳『九龍城寨の歴史』(みすず書房)

今年6月、ちょうど香港デモ5週年にあたるということで津田大介さん主宰の「ポリタスTV」で香港の話をした(https://youtu.be/8k_6Kfib-aI?si=-LMaalDAepLvOgMJ )。

その「香港の話」なのだが、実は当初、津田さんからご相談をいただいたときは「デモから5年になりますし、この5年間の香港の変化について」というお話で、筆者もそれで話をするつもりで準備を進めていた

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【読んでみましたアジア本】かつては心身ともに潰されそうになったこの都市を愛するということ:カレン・チャン『わたしの香港 消滅の瀬戸際で』(亜紀書房)

毎日ニュースチェックをしていて、どんなに丁寧に読んでいるつもりでも、しばらく現地を離れていると現地の空気というかムードがいつのまにかぼんやりとしてくる。そんなこともあって毎年最低1回は香港に行っての「定点観測」は欠かせない。

その定点観測で最も参考にしているのが、友人たちの話やその表情だ。30年来の友人はもう幼馴染のようなもので、適当にぽーんと疑問や質問を投げてもわりときちんと受け止めてくれる。

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【読んでみましたアジア本】「知っている」からこそもっと「丁寧に知る」:野嶋剛『台湾の本音』(光文社新書)

日本社会にはあまりインパクトを与えるニュースではなかったものの、華人社会ではここ2年ほど注目の的になってきた台湾総統選挙と立法院議員選挙が終わった。
特に総統選挙はこれまでさまざまな紆余曲折を経て、一時は野党・中国国民党(国民党)が有利とも言われたけれども、とうとう与党・民主進歩党(民進党)が政権3期目入りに成功した。

1996年に始まって4年毎に行なわれてきた総統選挙では、これまで国民党と民進

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【読んでみましたアジア本】香港と上海、南京条約で生まれた「双子都市」の「その後」/榎本泰子『上海 多国籍都市の百年』(中公新書)

いつも香港を訪れた際に必ず声をかけて会う友人たちがいる。香港時代からの友人、その後知り合った香港人、さらに香港に暮らす日本人、そして北京出身香港居住者のほかに、いつの間にか気付かないうちに、「上海出身の香港人」というグループが増えていることに気がついた。

自分でも不思議だった。香港人や日本人はともかく、なんで上海に暮らしたこともないわたしのそばに上海出身者たち?

わたしは、上海は独特の文化を持

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【読んでみましたアジア本】どこにでもいるような少年から香港という社会を知る/西谷格『香港少年燃ゆ』(小学館)

【読んでみましたアジア本】どこにでもいるような少年から香港という社会を知る/西谷格『香港少年燃ゆ』(小学館)

「今、日本では香港の話題ってどうなの? 読まれてるの?」

旧暦の正月を東京で過ごした、香港の大学で教鞭を執る友人に訊かれた。

む…さすが元ジャーナリストで、今もジャーナリズムを教えているだけある。単刀直入だ。

「正直、手応えはあんまりなくなってる。香港の話題自体があまり日本人の意識の範囲にない感じがしてる。直接の原因はやはりマスメディアが伝えていないこと。日本のマスメディアのほとんどが香港に

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【読んでみましたアジア本】国際性と民族性を維持するための知恵と努力:田村慶子『シンガポールを知るための65章』(明石書店)

今、中国及び香港でシンガポールに熱い視線が注がれている。

いや、香港での反応をもっと正しく表現するならば、「政府関係者はシンガポールという言葉に青くなる」というべきだろう。

というのも、今や人材や企業や、さらには資金もビジネスチャンスも香港からシンガポールに流出しているのは間違いないからだ。10月中旬に就任後初めての施政演説を行った李家超・香港特別行政区行政長官は「搶人才」をその施策目標の一つ

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【読んでみましたアジア本】巨匠が語る観察眼、表現するということ/侯孝賢(著)・卓伯棠(編)・秋山珠子(訳)『侯孝賢の映画講義』(みすず書房)

ここ数日、「生命力」について考えている。「生命」ではなく「生命力」。

きっかけはたぶん、7月1日の香港主権返還25周年だった。わずか数ヵ月前にわたしが現地で実際に見聞きし、帰ってきてからも伝わってくる現地の生々しい感情や人々の思い、そういったものがばっさりと抜け落ちた日本メディアの返還25周年報道の数々。もちろん、その記事はそれを伝えているつもりだろうが、どちらかというと、記者たちが現地入りする

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211231 「ダイヤモンド・オンライン」寄稿:中国が望む「正しい選挙」とは?香港選挙期間中の摩訶不思議なアレコレ

12月19日に行われ、過去最低の投票率となった、香港の最高議決機関立法会議員選挙。有権者になるにはまず有権者登録が必要な香港で、有権者数は過去最大の477万人を集めながら、過去最低の投票率というのはつまり、明らかに市民による「ボイコット」でした。市民の気持ちを二重三重に萎えさせた政府や親中派のあの手この手をまとめました。

【読んでみましたアジア本】自由とは、選択とは、そして社会とは、を問う/周保松・著『星の王子さまの気づき』

世界中に『星の王子さま』の読者はたくさんいるし、日本でもこの本が出版されればきっと受け入れられるはず――と言い続けていた、周保松さんの念願がやっとかなった一冊。

周さんについては、わたしはこれまで数回、彼のインタビューや彼が主催してきた講座のゲストの言葉(梁文道さん、「立場姐姐」何桂藍さん)をご紹介したことがあるので、「ぶんぶくちゃいな」の読者なら多少記憶に残っているはずだ。

香港のトップ大学

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200714 「現代ビジネス」寄稿:《「中国の香港政策に口出しするな」「植民地時代はもっとヒドかった」のウソ》

昨年以降、香港で起きているさまざまな葛藤を、「内政干渉はいやだから」「それでも祖国だから」「植民地時代が自由だったわけがない」といった独特の理由で拒絶する人たちがいます。

その人たちの多くが、日頃はリベラルな発言をする優等生であることが、そういう発言に同調する人たちを増やしています。だが、優等生にも知識不足や認識不足がある。そんな優等生的な発言にある誤解を解くために書きました。

【読んでみましたアジア本】「わたしは失敗者。でも若者たちは成功した。優秀な新しい世代だ」/李怡『香港はなぜ戦っているのか』(草思社)

【読んでみましたアジア本】「わたしは失敗者。でも若者たちは成功した。優秀な新しい世代だ」/李怡『香港はなぜ戦っているのか』(草思社)

『香港はなぜ戦っているのか』の著者、李怡さんが2022年10月5日、移住先の台湾で亡くなりました。本書は日本ではあまり話題になっていませんが、実際には日本人が香港デモの背景を知る意味でとても重要で、多くの誤解や無知を解いてくれるはずの一冊です。

2020年6月30日。ちょうど北京で開かれている全国人民代表大会(全人代)の常務委員会で、「香港特別行政区国家安全維持法」が可決されるだろうと伝えられる

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【読んでみました中国本】遠ざかっていく香港の味わいを思い起こさせてくれる「香港うんちくグルメ」:蔡瀾『人生の味わい方、打ち明けよう』

◎蔡瀾・著/新井一二三・訳『人生の味わい方、打ち明けよう』(角川書店)

「また香港です。お目にかかるチャンスがあれば嬉しいです」

と書いて「送信」を押したら、すぐにスマホが震えた。

「メッセージは送信されましたが、相手が受け取りを拒絶しています」

あら。

手元に残っている最後のやりとりは昨年のもの。香港返還20周年取材の企画で、返還当年よりもずっとずっと昔の香港の話題から始めたいと思い、

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【読んでみました中国本】30年前のあの日は人々にとって何を意味するのか:安田峰俊「八九六四 『天安門事件』は再び起きるか」

◎「八九六四 『天安門事件』は再び起きるか」安田峰俊(角川書店)

「八九六四」。なんと刺激的なタイトルにしたものだ。

一般の日本人はほとんどぴんとこないだろうが、中国語のネット情報に触れている者なら一目見ただけで説明はいらない。1989年6月4日、あの天安門事件の日を意味している。

改革開放派だったが失脚したまま亡くなった胡耀邦・元中国共産党総書記の死がきっかけになって、政治改革を求めて天安

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