「レヴィ・ストロース講義」を読んで

 著作権が怖いので内容には深くは踏み込まないが、1986年に日本で行われたレヴィ・ストロースの講義をそのままフランス語から和訳し、本にまとめたものである。講演の現代は「現代世界の諸問題に直面した人類学」。

 レヴィ・ストロースは「冷たい熱帯」「野生の思考」などで知られ…と、なぜ著作がするりと出てくるかというと、調べたからではなく、受験のため世界史を学んでいた時に目にしており、だからブックオフの棚でこの本を見かけたとき少し嬉しかった。話を戻すと彼は「未開」世界によく目を向けたひとである。

私自身レヴィ・ストロースに関して一切予備知識なしで挑んだが、この本はどこか包括的というか、細部までは踏み込み過ぎないため結果的に人類学初心者には易しい気がする。30年以上の前のこととは思えないくらいに彼の視点は新しい。

 不妊などの生殖問題が起こった時、つまりこれは人口の増減に直結する問題であるが、レヴィ・ストロースは他の文明がどう解決をしているかの例をいくつか示していた(例えば不妊の女性は集団の中で男性として扱われ、妻を取るというスーダンのヌエル族など)。

このように実際の現代の問題に対していくつか他の例を挙げ続けると、他の文明を見ればすぐにこちらに転用できる知恵があるという印象を聴衆に与えていた。

しかし彼はすぐに転用すること自体はあまり積極的ではなく、とにかく視点を変えること、意外と問題は解決の糸口をたくさん持っているかもしれない事に気づこうとすることに終始していたのは印象的だった。問題は意外と深刻ではなく、もしかしたら解決するヒントはあるかもしれない、そう前向きに考えて取り組むことは我々の生活でも大切かもしれない。

 後半、日本の文化について話が及んだ。なぜ日本は「先進国(この本の文脈上この語を使うのは正しくないと思うが)」になれたのか、という問いに言及している。

ここで語られた結論としては、他の成分を積極的に取り込む期間、それらを同化または消化するための内向きな期間、このふたつをメリハリをつけて取ることができたという説が出ていた。あらゆる文化は雑種性とその文化自身の個性、このふたつから成り立っているという。

わざわざ言うまでもないが、個人レベルにも応用できることだとおもう。話をきいてそれをそのまま転用することはしなくていいと、この本の中で再三述べれられていたが、読んでいてなにかぴんときてしまった。

出来ればなにかホットな話題とこれらを絡めてみたかったが、今は思いつかない。作中でもなにかに具体的な解決策を示したことは殆どなく、しかしながら諸問題それぞれを解決してくれそうな、ゼロからイチへ引き上げてくれるような躍動感を感じさせてくれる。閉そく感に針サイズの風穴をあけ、内部の空気を回してくれるように新鮮な空気を吹き入れてくれるような。

彼の示唆は個人の問題ではなく、社会の問題を解決するためのものなので今の自分への即効性はないが、新聞を毎日読むだけでは見えない領域、世界の骨組みの方へ迫っていくような思考は読むだけで楽しい。


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