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『フミオ劇場』まとめ

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昭和初期生まれ“めちゃくちゃ系父“のエピソードを小説風連載にしたものです。 家族が被った数々のネタを書き残しておこうと、昨年よりnoteで始めてみました。 80%実話で、20%…
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#エッセイ

フミオ劇場  13話『はよチャンネルまわせ』

フミオ劇場  13話『はよチャンネルまわせ』

 その物騒な風貌から、酒豪と勘違いされがちだが、フミオは下戸だった。よって晩酌しながらのテレビ鑑賞でなく

 ⚫︎お茶(玄米茶かほうじ茶)
 ⚫︎果物(桃党)
    子供は食べたら鼻血出ると独り占め
 ⚫︎お菓子(鴬ボール、羊羹)
 ⚫︎タバコ盆

 ピクニック型鑑賞である。

テレビは一家に一台の時代。家族揃って観るのが日常だ。

 そうなるってぇと、どうなるかってぇと
 フミオのうんち

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フミオ劇場  14話『和彦を殴る理由』

フミオ劇場  14話『和彦を殴る理由』

 高校生となったフミオの息子、和彦は〈飛び出せわれらさらばビバ青春〉をまるごと満喫していた。

 青春時代が夢なんて、あとからほのぼの思うものと森田先生は歌ったが、道に迷いながらもいつでもどこでもキラキラ出来る。

 予選落ちの常連バスケットボール部を部活に選んだのは、ユルッとした活動が理由。練習量が学校いち少ない。他の時間はすべて遊びに費やせる。

 それがこの冬に事態が一変した。

 ドラマの

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初恋やったら何してもええのんか?

初恋やったら何してもええのんか?

初恋の相手は中学の同級生、それはよくある話だが、その子の名前をまるッと娘に名付けた男がいた。

しかも、妻や親兄弟ほか誰にも知られることなく、姓名判断の本を熟読するふりをしながら、
自然な流れで命名していた。

犯人は自分の父だ。

中学生の頃、部屋で宿題をしていると父が入ってきた。

焦げ茶色の古いアルバムを抱えている。

「お、おったか。これワシの中学の卒業アルバムや」

「中学の? ふ~ん。

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フミオ劇場  15話『大女優はみんな』

フミオ劇場  15話『大女優はみんな』

昭和40年あたり。銭湯はひとつの社交場。フミオの父雄吉も二人の孫を連れて、毎日のように通った。

息子の嫁さんが少しでも休めるように。そんな温かい人柄の爺さんだった。

まだ生後三ヶ月程の和彦の身体を丁寧に洗い、脱衣所の床にバスタオルを敷いて手早く拭く。それからてんかふ(ベビーパウダー)おむつ。

赤ん坊を風呂に入れるのは、母親でもひと苦労。爺さんはお湯でさっぱりしたにも関わらずすでに汗だくだ。そ

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フミオ劇場 17話 『娘を殴る理由あれこれ』

フミオ劇場 17話 『娘を殴る理由あれこれ』

いちばん幼い頃の、父フミオに叩かれた記憶。断片的だが5才くらいのときのもの。

博打に行く行かないで、夫婦喧嘩が起きていた。暴れ倒したフミオが下駄箱の上のキーを乱暴に掴む。

それを睨みつけていた母が、ふと玄関脇の階段に座る娘、樹里に気づいた。

「こどものこともかんがえて」


父親が車に乗り込む直前
母親に言われた通りを

一字一句間違えず口にしたら

平手打ちが飛んできた。


幼い我が

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