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wawabubu
2021年9月7日 16:26
夜の七時でもまだ外は薄暮で明るかった。湯屋の表(おもて)で恋人と待ち合わせるおれが、まさに歌の文句の通りだったのには、苦笑を隠せないでいた。おれのほうが待たされて、その上、季節が夏だということだけが違ったけれど…「ごめんなさぁい。遅くなっちゃった」「夏やし、かまへんけど、また汗かいたよ」二人は、上気した顔で銭湯を後にした。「ビール、買ってく?」おれは、大人の真似をして尚子に訊いた
2021年9月7日 16:22
みんぱく(国立民族学博物館)の帰り、山田駅へ向かう道すがら、おれたちは言葉少なだった。「暑いなぁ」口を開けば、そんな言葉しか出ない。大阪モノレールが頭の上を通過する。「ヒロ君、あんたの部屋に行ってもいいよ」「それは…どういうことや?」「言わすの?あたしに」上目遣いに、尚子が訊く。二人っきりになってもいいと、彼女がサインを出しているのだ。「わ、わかった。汚いとこやけど来て」「それ
2021年9月7日 16:18
国立民族学博物館(愛称「みんぱく」)の中は、外とは打って変わって涼しかった。入ったところには、大きな自動演奏オルガンがひときわ目を引く。「なぁに、これ?」「車輪がついているから、馬かなんかで引いてくるんだろ」「自動オルガンかぁ」演奏時間が決まっていて、その時間になると動かしてくれるらしいことが横の案内板に記されていた。おれは惹きつけられたように、目の前の階段を上がると、正面にはガラス張
2021年9月7日 16:13
おれは横山尚子と京阪京橋駅のコンコースで待ち合わせた。ここは国鉄環状線の京橋駅に接続する場所で人通りが盛んである。京阪電車が高架で、エスカレーターで地上に降りる。降りたところが京阪の改札と切符売り場で、この京阪の駅ビルを出ると、向かいが国鉄の京橋駅だった。尚子の姿は…柱の陰などを見回すが見当たらない。まだ来ていないのだろう。約束の時間は十時半だった。今が、ちょうど十時半だった。おれ
2021年9月7日 14:43
横山尚子と「化学実験」の実験パートナーを組んで三か月以上が過ぎた。「最初の『アルミの陽極酸化』の実験な、あたしC判定やってん」「おれ、Bもろたで」「たしか、一緒に書いたやんなぁ。ほんで、いろいろ書き足して出し直して試問を受けたらAもろた」「うそ、Aもろたん?おれ、まだいっこもAないで」昼食の時に、学食でカレーライスを食いながらおれたちはそんな会話をしていた。「あれって、ブリッジ回路を使
2021年9月7日 14:33
「今日はこれつけてくれる?」明恵の手には避妊具の包みがあった。やはり、危ない日なのかもしれなかった。横山尚子が以前に、排卵日のころが危険日だと教えてくれたっけ。「危ない日なん?」「うん、たぶん。おとといあたりから体温が高いねん」「体温でわかるんか?」「そうよぉ。知らんの?男の子は知らんよねぇ。はい、こっちきて着けたげよ」おれは、勃起を揺らしながら明恵のほうににじり寄る。ピッと袋を
2021年9月7日 14:28
つぎの日曜の朝、時計を見ると十時前だった。「よく、寝たなぁ。あぁ」おれは万年床で伸びながら、大きくあくびをした。備え付けの笠の歪んだサークラインが目に入る。雨漏りだろうか、天井板にアフリカ大陸のような染みが広がっていた。金属をこするような音を立てて京阪電車が窓の外を通り過ぎて行った。カーテンが中途半端に開いていた。まだ梅雨が明けていないのでどんよりと曇っている。もう三日ぐらいカーテン
2021年9月7日 11:51
小西由紀とのその後の進展はなかった。わかったのは、彼女が「気分屋」だということだった。天文部の例会で顔を合わせて「あのこと」に触れてもそっけなかった。「あたしね、ちょっとおかしくなってたんよ」「おかしく?」「もういいでしょ」こんな具合で、取り付く島もなかった。今年の天文部の合宿は花背(はなせ)の大悲山(だいひざん)付近のポイントでキャンプすることになった。本田さんが前に行ったこと
2021年9月7日 11:35
言葉にならないような声を発した小西由紀だった。なぜかというと「玉藻荘」に足を踏み入れた感想が、彼女の脳の理解を超えていたからではなかろうか?汚いかといえば、さほど不潔というわけではない。ちゃんと大家の北川さんが、毎朝、掃除に来てくれるからだ。実は、大家の北川しのと、この玄関側の一室に部屋を借りている山村富士夫という爺さんとは愛人関係にあるらしい。スナックのホステスをしている斜(はす)向か