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同じ穴のむじな(10)来訪の女①

つぎの日曜の朝、時計を見ると十時前だった。
「よく、寝たなぁ。あぁ」
おれは万年床で伸びながら、大きくあくびをした。
備え付けの笠の歪んだサークラインが目に入る。
雨漏りだろうか、天井板にアフリカ大陸のような染みが広がっていた。
金属をこするような音を立てて京阪電車が窓の外を通り過ぎて行った。
カーテンが中途半端に開いていた。まだ梅雨が明けていないのでどんよりと曇っている。
もう三日ぐらいカーテンはそのままだった。
前期試験が夏休み明けから始まるので、今から準備をはじめておかねばならない。
とはいえ何から手をつけていいのやらさっぱりだ。
明日もまた横山さんと組んで化学実験が待っている。
その前に、酢酸エステルの加水分解の反応速度を求める実験のレポートが「C」判定だったので、出し直して「A」をもらわねばならない。
どの実験テーマも最低でも「B」判定をもらわねば単位取得ができず、応用化学科の学生にとって「化学実験」を落とすと留年の対象になる。

コンコン…
ドアをノックする音がした。
おれの部屋を訪ねてくる人など、いるはずがないのだが…
「はい、待ってください」
おれは、起き上がってドアの方に三歩で到達してノブに手をかけた。
開けると、そこにはサマーセーター姿の明恵が立っていた。
「おはよ」
「あ、はぁ、おはよう。どうしたんですか?」
「マーシャルが昨日からシノギで出ずっぱりなのよ、そんで宏明君と遊ぼうっかなと思って」
「おれと?」「うん」
にっこり笑った明恵は、こないだ会ったときより若く見えた。
化粧が濃くないからだろうか?
「入ってよ」
「おじゃましゃぁす。あら、寝てたの」
「今起きたとこ」
「これ食べような。マクド買ってきたんや」
「うわ、うれしなぁ。姐さん」
「ねえさんはやめてぇな。ま、ええけどぉ。コーヒーでも入れてよ」
「ああ、湯、沸すわ」
おれはいそいそとヤカンをコンロにかけてマッチで火をつけた。
明恵はというと、おれの蒲団を座布団にして座ってスカートの裾を整えていた。
「たばこ、いい?」「いいけど、灰皿が…」「えへ、持ってんねん」
そういうと、彼女はポーチからおしゃれな携帯灰皿を取り出した。
そしてそのなまめかしい、細い指でLARKの臙脂の箱から煙草を一本取り出す。
そのしぐさに、おれは見とれていた。
「あんたも、吸う?」「あ、いや、おれはいいです」「そ」
銀色の薄いライターをパチンと開いて小さな火を点けて、くわえた煙草の先にもっていく。
早くもなく、遅くもなく、その慣れた手つきが「オトナ」を感じさせた。
ふぅ…
紫煙が、つぼまった女の口から吹き出されて、蛍光灯のほうに上がっていく。
「あ、これ取って」
マクドの紙袋をおれに渡す。
おれは少年ジャンプと少年サンデーを並べて敷いて、食卓のようなものをこしらえた。
「あんた、まんが好きねぇ」
「えへへ、いっつもこれで、ごめん」
「ほんと、宏明君は弟そっくり」
そう言いながら、煙草の灰を携帯灰皿に落とす。
湯が沸いてきたので、コーヒーの用意をするために流しのところに立った。
人が二人、部屋にいるだけでとても狭く感じる。
「シノギって何です?」
「お仕事よ」
「柏木さんって、何の仕事をされてんですか?」
「ディーラーっていうのかな。遊技機の」
「パチンコですか?」
「子供はそんなこと訊かないの。パチンコじゃないわ、あれは業界があるから」
どうやら、違法なカジノかなんかの遊技機だろう。
ヤクザの仕事なんか、普通じゃないだろうから。
「はい、どうぞ」
おれはインスタントコーヒーのブラックを作ってカップを明恵の前に置いた。
「ありがと。さ、食べよ」
「へぇ、駅前のマクドですか?」
「そうよ。あたし野江から乗ってきたから」
京阪電車の「野江」駅のことを言っているのだった。
「ねえさん、野江に住んでるの?」「そうよ」
二人して、ガサゴソと包み紙を開いてチーズバーガーをほおばる。
「ポテトもあるし、食べてね」「うん」

食べ終わって、いいかげん腹もくちくなって二人の会話も途切れがちになった。
相変わらず京阪電車が二人の会話を割くように轟音とともに走り去る。
「あのさ」「うん?」「しよっか?」
明恵がいたずらっぽい笑顔でおれをのぞき込む。
おれも「したい」と思っていたところだった。
柏木氏がいないのなら、遠慮はない…第一、あの人は明恵を抱いてもいいと言ってくれていたではないか。
明恵は自分から立ってカーテンを引き、サマーセーターを脱ぎだした。
ぷりんと白いブラごと乳房が揺れる。
ブラには、レースの縁取りがあった。
おれもTシャツを脱ぎ、ジャージのズボンとトランクスを脱いで勃起をさらした。
「ま、もうそんな、なってんの?」
笑いながら明恵が言い、自分も長めのグレーのスカートをぱさりと落とした。
「柏木さんが、姐さんを抱いてもええってさ」
「ふん。あたしが誰と寝ようと、あたしの勝手やん」
吐き捨てるように言う明恵だった。
カーテンを閉めたので薄暗い中で、おれたちは向き合って立ち、キスを交わした。
また電車が部屋を揺らした。
そして崩れるように二人はせんべい蒲団の上に倒れた。
明恵はまだショーツをつけたままだった。
「ふふ。二回目やね」
「うん」
「ほかの子としてへんねやろ?」
「おらんもん」
おれはそう答えた。
「大学には女の子、おれへんの?」「おるけど、堅い」
「そうかぁ…合コンとかしたらええのに」
おれはショーツの中に手を突っ込んでいた。
もう、ヌルミが感じられる。濡れているのだ。
「ふ…くっ…」
眉間にしわを刻みつつ、明恵がくぐもった声を漏らす。
おれは豊かに盛り上がって震えている乳房にしゃぶりついた。
はぷっ、んぐ…
「あはん、ええわぁ、ひろあき…」
「ねえちゃん」
おれは明恵の弟を演じた。明恵もそのノリでいるようだった。
おれのペニスはカチカチに伸びあがって、明恵の内腿を突いている。
明恵の手が伸びて、その「暴れん坊」をつかんでさする。
「かったいわぁ、あたしのために、こんなに硬うしてくれてから…」
乳にかぶりついているおれの後頭部を左手で撫でながら明恵が愛おしむ。
「ああん、あん、もっといじって」
右手が遊んでいるとばかりに、明恵がねだる。
おれの右手が谷筋を割り、明恵の果汁を塗り広げた。
ちゅっ、くちゅ、くち、くち…
あふれる汁(つゆ)が、手のひらにまで広がった。
それにつれてショーツが汚れ、蒸れたきつい臭いが立つ。
「ちょっと、脱ぐわ」「ああ」
起き上がって、明恵がショーツを下ろす。
黒い茂みがあらわになり、なおさら匂い立つ。
「ちょっと、くちゃいな。タオルかなんか濡らしてくれへん?」
「ああ、わかった」
おれは昨日、風呂で使ったタオルをもう一度水道で洗って硬く絞って渡した。
「あの、おれ、ちょっとしょんべんしてくるわ」「どうぞ」
そう答えながら明恵がタオルで陰部を拭いていた。起き掛けから小用を催しつつも、できないでいた。
手が明恵の匂いですごいことになっていたので洗いたくもあった。

ジャージのズボンをトランクスを履かずにそのまま履いて、上半身は裸のまま共用便所に向かった。
勃起のままで、小便が出ない。
なんとか収めて、ちょろちょろと排尿した。
かなり時間を要した。
戻ると、明恵は煙草を一服つけていた。
「遅かったやん」
「ごめん、ごめん」
「できそう?」
「ばっちし」
そう言って、おれは再びテントを張っているジャージのズボンを引き下ろしたのだった。

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