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トルストイの国 愛すべき隣人たち ⑤ 冬のウラジオストク編 Ⅱ

 

 先ずは電話から


 「練習として、ホテルから私の実家に電話を掛けてください」

 「エ〜ッ…」

日本を発つ前、先生からそんなハードルの高い指令を課されていた。

 ただでさえあがり症で、しかもまだろくにロシア語を喋れる訳でもないのに、釣りの確認の電話を入れなさいとのこと(泣)

アンチョコ作っておいて棒読みするだけならなんとかなるかな?

質問されても上手く返せる自信がないので、とりあえず一方的に要点だけ述べて押し通すことにする(笑)

 でもなんか緊張するな〜、やっぱり明日にする? いやいや今日中になんとかしとこうよ、自分。

で、ビクビクしながらホテルの電話の受話器を取る。

「え〜、あの〜、こんにちは、私の名前は露草です、日本から来ました。こちらは○○さんのお宅ですか?」

 電話に出たのはお母さんのベロニカさんだった。

 「こんにちは」と優しげな声。

「私達が釣りに行くのは明日ですか、それとも明後日ですか?」

 「ええ、明後日ですよ。」

「何時に待ちあわせですか?」

 「8時です」

「では明後日の朝8時にプリモーリエホテルでお待ちしています」

「どうもありがとうございます、お会いするのを楽しみにしています、ではまた。」

 「ではまたね。」

 …既に一年ほどレッスン受けててそんだけかい?情けなや(泣)

でもまあ、自分にしては上出来と云う事で(笑)

できるだけ簡単なロシア語を話してくれたベロニカさんにも感謝。

因みにロシア語での電話は今も苦手なままである…

 
 

 御対面


 約束通り、1月4日の朝8時に先生のお父さんのアントンさん、そしてベロニカさんがホテルまで迎えに来てくれた。

「露草さん、はじめまして。」

 「アントンさん、はじめまして。今日は宜しくお願いします!」

と、握手と交わす。

 自分の名前に日本流の「Сан さん」をつけて丁寧な呼び方をしてくれたのにはビックリ、さすが先生の仕込みは完璧だ。

 二人の第一印象はとても穏やかな雰囲気で娘さんにそっくり、とても優しげな方たちで一安心。

 手短な挨拶の後、すぐに目的地のルースキー島へ向け出発した。

 

 やっぱり日本車


 彼らの車はハイラックスサーフ、お国柄やはり4WDが人気のようだ。

向こうではTOYOTAはトヨタとは発音せず、

「タヨータ」となる。

これは単語の中にОが二つ存在するとき、どちらか一方を「オ」ではなく「ア」で発音する決まりがあるからだ 。

 ウラジオストクは日本に近いこともあって、7~8割が日本車ではないだろうか?

中には日本の車庫証明のステッカーがついたまま走ってる車もあった(笑)

 その他車中では、やはり沈黙はヨロシクないと云う訳で、日本の事、ロシア語のレッスンの事やアサヒビールに至るまで様々な話題を拙いロシア語で話したけれど、その甲斐あってか上手く打ち解けることが出来たのは嬉しかった。



 凍った海の上を走る


 市街地を抜けゴールデンブリッジをわたり、二つ目の橋、ルースキー島連絡橋を渡ると、当時はまだ建設中の極東大学の新校舎が見えた。

 そこから島の更に奥へ進むとかなりのラフロードになり、やがて大きな湾が現れた。

一面凍りついたルースキー島の湾内
 

 そしてついに今回のお楽しみの一つ、氷上のドライブだ。

ハイラックスは車体も重いはずだがそれでも氷は全く割れる気配がなく、自然の力におどろかされた。

しかし先生によると、毎年春が近づく頃には氷が緩んで車が何台も海に落ちるのだとか。

どこの国でも釣り師というのは…

 氷上には既に釣り人の車が作ったであろう道と言うか轍が出来ており、そこを辿ってひた走る。

と、既に車がたくさん停まっている場所が見えてきた。

 どうやら釣り場に到着したらしい。


  氷穴釣り


 冬のウラジオストクの海と川は一部を除いて殆ど凍っている。

だからこの季節の釣り方は氷穴釣りに限られる。

 これも日本では経験したことが無かったからテンション上がりっぱなしだ。

しかし、氷に穴を開けるのは一苦労である。

なんたってここは極寒のロシア、氷が厚いのだ。

アントンさんに代わってもらってハンドドリルで穴を開けたが、一箇所でもバテバテである。

しかもポイントを移動するたびに開け直さねばならない(泣) 

 他の釣り人が電動ドリルで穴を開けてるのをベロニカさんが指さして「あれが良い」と言うと、アントンさんが「ダメダメ」とか言っててワロタ。

アントンさんが氷に穴を開ける。
コレひたすらしんどいです(泣)
ナガバ(アイナメの仲間?)という魚がヒット!
ベロニカさんが、ブリスナと呼ばれるロシアのルアーでゲット

 道具も一式お借りして、氷の穴の中に仕掛けを落とし込む。

しかし、待てど暮らせど当たりは来ない。

 が、2時間ほど粘った末にようやくナガバという魚がヒット!
 
この一尾だけでも十分満足だと言いたいところだが、やはりちょっとさみしい。

 更に何時間も場所を変えて粘ったが、魚は答えてくれなかったのだった。


しかも日本から持ち込んだ耐寒用の上下のダウンウェア(結構なお値段)はロシアの氷の海では役不足である事が判明、釣果も寒いが体も寒い!!

釣れた魚は即カチンコチンだし、さすがおそロシア。
 

写真がヘボくてすみません(笑)
次の日に唐揚げにしたのを頂きましたが美味しかったですよ。
氷の上で吹きっ晒し、超寒い!!
アントンさんとベロニカさん
ツーショットが素敵ですね!
氷の上に道が(笑)
帰り道のルースキー島連絡橋

 自分としてはロシアでの、しかも初めての氷上の釣りに大満足だった。

しかし、釣果が振るわなかったのはちょっと残念。

 そのことを気にしてか、アントンさんが

「明日も時間はあるの?」というよな事を聞いてきた。
 
自分は特にヒアリングがダメなので、

助け舟でアントンさんが日本にいる娘さんにスカイプで電話してくれた(お恥ずかしい…)。

で、先生に代わってもらうと、

「明日も一緒に釣りしますか?って事ですよね?」
 
「その通りです」

との返答。

嬉しいことに翌日も再び釣りに連れて行って貰える事に!

みんな本当に親切だ、細やかなお気遣いに感謝。


  二日目

 

 ところで、車と並んで日本製の釣り道具はロシアでも大人気だ。

 自分も釣りにはかなり拘りがあるから、昨日車中で、手製の釣具や国産の釣り糸などをお土産でお渡ししたらとても喜んで頂けた。

 「昨日はカトゥシカをありがとう」

「カトゥシカ?カトゥシカ、カトゥシカ…」

カトゥシカってなんだっけ?

と少ないボキャブラリーを脳内で数分検索してると「リール」の事だと思い出した。

 自分で改良を施したリールのプレゼントも喜んで貰えたようだ。

今も来客があると自慢してくれてるみたいで嬉しい。
 
因みに釣り竿「ウドチカ」である。

 
 話は戻って、今日は朝も暗いうちから再び氷の海の上をひた走る。

 良いポイントを確保するためだ。

早朝から出撃

 しかし釣り人の魚に対する執念はここロシアでも尋常ではなかった(笑)

泊りがけの猛者たち、夜釣りかも?
それなりの装備が無いと危険なレベル…
氷の上が駐車場兼釣り場(笑)
それにしても凄い数の車が海の上に…

 泊りがけで来てる人も含め、ポイントには既に大勢の釣り人たちがひしめき合っていた。

と云う事で、ここは早々にあきらめて(笑)手

堅くチカ(ワカサギの仲間)を釣りに河口へと移動することに。

河口近くへ移動してみると…
チカ(ワカサギ)
日本と釣り方はほぼ同じ
お母さんも上手、一番かも?!
「お土産に持って帰る?」って、
そりゃ無理ですよ〜(笑)


 ここでは昨日と打って変わって三人とも大漁、当たりも途切れず面白いほど良く釣れた。

リベンジ成功である。

 今日はアントンさんから現地の防寒着を借りてるので寒さも全く平気だ。

お昼ごはんに頂いたサーロと呼ばれるブタの脂の塩漬けや前日釣ったナガバのフライも美味しかった。

 こうしてレイナ先生とご両親のお陰で、冬のロシアのワイルドライフを思いっきり楽しむことが出来、その経験は夏来た時よりも遥かに自分を魅了し、ますますロシアに引き寄せられたのだった。

 帰り際、海から陸に上がる時に自分が「上陸!」と言うと、ベロニカさんがУрааа!ウラー!」(ワーイ!)

とロシア流に答え、みんな笑顔に。
 
その頃にはもう、自分もロシア人になった気分だった。

遥か遠く広がる氷の海
気候は厳しいが人々の心は温かかった。

 別れ際、今度はたくさんのロシアのお土産(もちろんウォッカも、笑)も持たせてくれ、正直居心地が良すぎて帰りたくなかった。

 Опять  , я хочу встретиться с вами хорошо?皆さんにまたお会いしたいです、良いですか?と言うと、

  Да да, конечно! ええ、もちろん!

とアントンさん。

 いつかまた一緒に釣りしましょう!

ウラジオストク国際空港


 こうして一週間に渡る冬のロシアの旅は終わり、名残惜しくも帰路に就いた。

 

 帰国後、成田から自宅への電車の中で皆がダウンジャケットを着ているのに自分だけがシャツ一枚だった。

 周りからすればかなり変に見えたに違いないが、ロシアの寒さに慣れてしまった身としては、東京の冬など暑くて仕方ないのだった(笑)
 おまけとしてインフルエンザも持ち帰り、年明け早々一週間、会社を休んだのも良い思い出だ。


  今は近くて遠いウラジオストク。

しかし、これから先どんな状況になろうとも、そこは自分にとっての第二の故郷であり続けるに違いない。
  


ご両親から頂いたお土産、ロシアのゲーム
未だに遊び方がさっぱり解りません
先生いつか教えてください(笑)

https://hotelprimorye.ru/


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