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眼をやられた男


街を這いずり回る
薄汚れた思想を
ひっくり返せば
苔の付いた鰐の腹を晒し
蹴り上げれば
貧弱な翼で羽ばたいて
裏通りを低空飛行した後
暗い巣穴に引っ込む
 
 (奴らはウザウザと生きて
  ウザウザと死ぬ)
 
ヒトの言葉は
絶えず剥がされる
無くした言葉を求めて
ざらざらの舌で
風のスジを探ってみても
絡み付いて来るのは
饐えた思想のフラグメント
 
 (奴らの巣穴に手を突っ込んでも
  卵は生ゴミに出された後だ)
 
街外れのゴミ集積場で
屍骸で膨れたゴミ袋を漁る
このバカ犬があ!
と声を荒げて
野良犬との
大笑いな争奪戦が始まる
 
 (ゴミ袋を喰い破る俺は
  屍骸の毒で眼をやられた男だ)
 
いつかもあった
無風の午後に
外海へと続く
海岸堤防沿いの道を
盗んだ卵を懐にして
モノクロの洞窟を行くように
手探りで歩く
 
 (海面を揺らめく光が
  俺の背中を撫でても分かるもんか)
 
突堤の先まで来れば
無風の時間は終わり
向こう岸から
吹き始める風と
ざわめく萱の茂みの間から
たくさんの囁き声が
聴こえて来る
 
 (ささやかな宴の主は
  奴らの卵をいただくとしよう)

遠い昔に
青い 青い 
底無しに 青い海と
白い鳥が舞う 大空を
見たことがあったような
そんな気がして
ひとり笑いがこみ上げる
 
 (コンクリートの床に横たわり
  俺は微睡みに落ちてゆく)

 

 

微睡みに落ちて行く‥



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