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アルマートイフェル【第四話】
◇
「お前の方から連絡してくるなんて珍しいよな」
花吉中央駅近くの狭い居酒屋の一席で、僕にとっては唯一の親友であり、幼馴染でもある烏山陽が、どこか緊張を滲ませた様子で焼酎の熱燗を右手であおった。普段飲みに行こうなんて絶対に言わない僕に突然呼び出され、なにかあるんじゃないかと戸惑い半分、警戒しているのだろう。
「ま、たまにはいいかなって思ってさ」
「なんだよそれ、気持ち悪いな」
怪訝に
アルマートイフェル【第三話】
◇
午後から降り出した雨は次第に激しさを増していた。市立病院から花吉中央駅まではバスを使い、駅から自宅アパートまでは歩いて帰った。ほんの十数分の道のりを歩いただけで全身びしょ濡れになってしまったけれど、なんとなく、道中のコンビニで間に合わせの傘を買う気にはなれなかった。
自宅は、就職を機にようやく実家を離れて越してきた二階建てのボロアパートだ。広さ八畳ほどの1Kで、家賃は3万2000円。決
アルマートイフェル【第二話】
【第一幕】
◇
天井の蛍光灯が眩しくて、僕は咄嗟に目を閉じた。暗くなった視界に光が弾け、その中にぼんやりと人影のような残像が浮かんだ。
「京ちゃん───」
その人影に名前を呼ばれたような気がして、ハッとまぶたを持ち上げる。
市立病院の大部屋だ。窓際のベッドに横になる父、忍三が、天井から注ぐ白色蛍光灯にさらされた眼窩を鋭く僕の方に向けてきていた。
「おい、京太、聞いてんのか」
「
アルマートイフェル【第一話】
◇
すべての始まりは、今から十四年前、僕がまだ高校一年の秋の頃だった。
舞台は九州の地方都市、A市の末端に位置する鶴松町。A市の市街地である花吉町の花吉中央駅から電車でおよそ三十分、いくつかの町を跨って稜線を引く城金山の外縁に面した小さな田舎町だ。
僕と北野夕美は、その町の高校に通う同級生だった。
僕の実家も夕美の実家も、城金山の中腹に立つ高校とは山の麓に伸びる鶴松駅の線路を挟んだ