ユースティオ・デ・ヴォール

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アルマートイフェル【第四話】

◇ 「お前の方から連絡してくるなんて珍しいよな」  花吉中央駅近くの狭い居酒屋の一席で、僕にとっては唯一の親友であり、幼馴染でもある烏山陽が、どこか緊張を滲ませ…

アルマートイフェル【第三話】

◇  午後から降り出した雨は次第に激しさを増していた。市立病院から花吉中央駅まではバスを使い、駅から自宅アパートまでは歩いて帰った。ほんの十数分の道のりを歩いた…

アルマートイフェル【第二話】

【第一幕】 ◇  天井の蛍光灯が眩しくて、僕は咄嗟に目を閉じた。暗くなった視界に光が弾け、その中にぼんやりと人影のような残像が浮かんだ。 「京ちゃん───」  …

アルマートイフェル【第一話】

◇  すべての始まりは、今から十四年前、僕がまだ高校一年の秋の頃だった。  舞台は九州の地方都市、A市の末端に位置する鶴松町。A市の市街地である花吉町の花吉中央…

【最終話】●わたし● 5

◆  助手席のウィンドウを何気なく開けると、秋の心地良い風が車内を吹き抜け、久しぶりに揃えたわたしの前髪をパタパタとなびかせた。 「風が冷たくなってきたねぇ」 …

【第九話】◯ぼく◯ 5

◇  目が覚めた。  体感では夜に目を閉じた次の瞬間に朝が来たような、あの感じ。  汗もかいていない。息も上がっていない。久しぶりに目覚めの良い朝だった。  こ…

【第八話】●わたし● 4

◆  黒い、大きな蝶が飛ぶ夢を見た。  その黒蝶はヒラヒラと空気を掻くように羽を動かしながら、自らの体を淡く光らせ、暗闇の中を飛んでいた。  夢の中で今わたしが…

【第七話】◯ぼく◯ 4

◯ ぼく ◯ ◇  夢の中で、ぼくは知らない部屋で知らない男と話していた。  もちろん、いつものように記憶に留まらない刹那的な一連の夢を見たあとで、だ。  知ら…

【第六話】●わたし● 3

● わたし ● ◆  目を覚ますと、天井にできた小さなシミと目が合った。二つの黒いシミが点々と横並びになっているせいで、いつも上から誰かに睨まれているような感じ…

【第五話】◯ぼく◯ 3

◯ ぼく ◯ ◇  いつもの夢。  もう何度見たかも分からない、だけど起きたらきっとすでに忘れている不思議な夢。  きらきらと陽の当たる明るい部屋で、みんなが楽…

【第四話】●わたし● 2

◆  どうやらダイニングテーブルに顔を突っ伏したまま、一晩中寝てしまっていたらしい。顔を上げると、すでに正面の出窓からは眩しい朝陽が外の桜をまだらに輝かせていた…

【第三話】◯ぼく◯ 2

◯ ぼく ◯ ◇  また、同じ夢を見ている。  暖かそうな陽射しに明るく照らされた部屋。そこでみんなが楽しそうに笑っている。  なにをそんなに笑っているのかは分…

【第二話】●わたし● 1

◆  目が覚めて、ベッドから起き上がり寝室を出た。  隣のリビングに場所を移して、ダイニングチェアに腰を下ろすと、ちょうど正面に見える出窓の向こうで、外の桜が春…

【第一話】◯ぼく◯ 1

◎あらすじ◎  女優を目指す恋人の楓と二人暮らしをしているぼく。慎ましくも幸せな毎日だ。しかし、ある日突然現れた男によって、ぼくは四日後の死を宣告されてしまう。…

アルマートイフェル【第四話】

アルマートイフェル【第四話】



「お前の方から連絡してくるなんて珍しいよな」

 花吉中央駅近くの狭い居酒屋の一席で、僕にとっては唯一の親友であり、幼馴染でもある烏山陽が、どこか緊張を滲ませた様子で焼酎の熱燗を右手であおった。普段飲みに行こうなんて絶対に言わない僕に突然呼び出され、なにかあるんじゃないかと戸惑い半分、警戒しているのだろう。

「ま、たまにはいいかなって思ってさ」

「なんだよそれ、気持ち悪いな」

 怪訝に

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アルマートイフェル【第三話】

アルマートイフェル【第三話】



 午後から降り出した雨は次第に激しさを増していた。市立病院から花吉中央駅まではバスを使い、駅から自宅アパートまでは歩いて帰った。ほんの十数分の道のりを歩いただけで全身びしょ濡れになってしまったけれど、なんとなく、道中のコンビニで間に合わせの傘を買う気にはなれなかった。

 自宅は、就職を機にようやく実家を離れて越してきた二階建てのボロアパートだ。広さ八畳ほどの1Kで、家賃は3万2000円。決

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アルマートイフェル【第二話】

アルマートイフェル【第二話】

【第一幕】



 天井の蛍光灯が眩しくて、僕は咄嗟に目を閉じた。暗くなった視界に光が弾け、その中にぼんやりと人影のような残像が浮かんだ。

「京ちゃん───」

 その人影に名前を呼ばれたような気がして、ハッとまぶたを持ち上げる。

 市立病院の大部屋だ。窓際のベッドに横になる父、忍三が、天井から注ぐ白色蛍光灯にさらされた眼窩を鋭く僕の方に向けてきていた。

「おい、京太、聞いてんのか」

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アルマートイフェル【第一話】

アルマートイフェル【第一話】



 すべての始まりは、今から十四年前、僕がまだ高校一年の秋の頃だった。

 舞台は九州の地方都市、A市の末端に位置する鶴松町。A市の市街地である花吉町の花吉中央駅から電車でおよそ三十分、いくつかの町を跨って稜線を引く城金山の外縁に面した小さな田舎町だ。

 僕と北野夕美は、その町の高校に通う同級生だった。

 僕の実家も夕美の実家も、城金山の中腹に立つ高校とは山の麓に伸びる鶴松駅の線路を挟んだ

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【最終話】●わたし● 5



 助手席のウィンドウを何気なく開けると、秋の心地良い風が車内を吹き抜け、久しぶりに揃えたわたしの前髪をパタパタとなびかせた。

「風が冷たくなってきたねぇ」

 隣でハンドルを握る大ちゃんが、鼻から息を吸い上げるように胸を浮かせた。

「あ、ごめん寒かった?」

「ううん、平気平気」

 杉並区にあるわたしの部屋を出発した大ちゃんの車は、渋谷区のマンションで美代子さんを拾って、そのまま成田方

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【第九話】◯ぼく◯ 5



 目が覚めた。

 体感では夜に目を閉じた次の瞬間に朝が来たような、あの感じ。

 汗もかいていない。息も上がっていない。久しぶりに目覚めの良い朝だった。

 ここ最近、記憶に累積しない、だけどなんとなく嫌だったという感覚だけが喉の内側にざらざらと残るような、悪夢といえば悪夢のような夢を見続けていたから、それがなかっただけでも今日一日がなんだかいつもより楽しくなりそうな気がして、ぼくは空気の

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【第八話】●わたし● 4



 黒い、大きな蝶が飛ぶ夢を見た。

 その黒蝶はヒラヒラと空気を掻くように羽を動かしながら、自らの体を淡く光らせ、暗闇の中を飛んでいた。

 夢の中で今わたしがどこにいるのか、目の前の黒蝶がどこに向かって飛んでいるのか、それはなにも分からない。

 だけど、なんだかとても、懐かしい感じがした。

「雄馬ッ!」

 わたしはその黒蝶に向かって、なぜか雄馬の名前を呼んでいた。

 もちろん黒蝶は

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【第七話】◯ぼく◯ 4

◯ ぼく ◯



 夢の中で、ぼくは知らない部屋で知らない男と話していた。

 もちろん、いつものように記憶に留まらない刹那的な一連の夢を見たあとで、だ。

 知らない部屋の、知らないダイニングテーブル。食事中だろうか。向かいに座る知らない男がナイフとフォークを手にして、ぼくに笑いかけている。なにやら楽しげなのは分かるが、声は聞こえない。

 男がキッチンで皿を洗いはじめる。ぼくもそこに少し遅

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【第六話】●わたし● 3

● わたし ●



 目を覚ますと、天井にできた小さなシミと目が合った。二つの黒いシミが点々と横並びになっているせいで、いつも上から誰かに睨まれているような感じがする。

 いつからあるのか、ここに引越してきた当初はあんなシミ、なかったはずだ。そろそろまた引越しをするべきだろうか。

 溶け落ちるようにベッドから下りて、寝室を出た。

 洗面所で顔を洗って歯を磨く。

 鏡を見ると、青黒いクマ

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【第五話】◯ぼく◯ 3

◯ ぼく ◯



 いつもの夢。

 もう何度見たかも分からない、だけど起きたらきっとすでに忘れている不思議な夢。

 きらきらと陽の当たる明るい部屋で、みんなが楽しそうに笑っている。それをぼくは部屋の隅から、ジッと見つめている。

 視界が暗転し、正面に古臭いテレビと丸い時計が淡い光に照らされ浮かび上がる。テレビではぼくの思い出が細切れに流れ、丸時計の短針と長針は目まぐるしい速さで回転してい

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【第四話】●わたし● 2



 どうやらダイニングテーブルに顔を突っ伏したまま、一晩中寝てしまっていたらしい。顔を上げると、すでに正面の出窓からは眩しい朝陽が外の桜をまだらに輝かせていた。

 ふと、窓台に置いた二つの写真立ての傍らにある鉢植えのアングレカムが、いつのまにか枯れてしまいそうになっているのに気が付いた。

 元々冬から春にかけて咲く花だから仕方ないけど、それでもやっぱり大好きな花が萎れていくのを見ると、それ

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【第三話】◯ぼく◯ 2

◯ ぼく ◯



 また、同じ夢を見ている。

 暖かそうな陽射しに明るく照らされた部屋。そこでみんなが楽しそうに笑っている。

 なにをそんなに笑っているのかは分からない。彼らがどんな話をしているのかも聞こえない。

 ぼくも彼らと同じ場所にいるのに、ぼくだけが彼らとはまったく違う場所にいる。

 誰もぼくを見ていない。誰もぼくには気付かない。

 視線を変えると、部屋の窓辺に沿わせて置かれ

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【第二話】●わたし● 1



 目が覚めて、ベッドから起き上がり寝室を出た。

 隣のリビングに場所を移して、ダイニングチェアに腰を下ろすと、ちょうど正面に見える出窓の向こうで、外の桜が春風に吹かれてキレイに咲いていた。

 その咲姿を見て初めて、冬の終焉と春の到来を実感する。

 わたしに季節の移ろいを気付かせてくれるのは、今や窓から見えるこの景色だけだった。

 別に卑屈になっているのではない。それが現実なのだ。明か

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【第一話】◯ぼく◯ 1

◎あらすじ◎
 女優を目指す恋人の楓と二人暮らしをしているぼく。慎ましくも幸せな毎日だ。しかし、ある日突然現れた男によって、ぼくは四日後の死を宣告されてしまう。その未来を、楓はまだ知らない。

 十年前、恋人だった雄馬が突然、この世を去った。以来、わたしの世界はガラリと変わった。女優の道は諦めた。五年前には新しい恋人ができたのだけど、その関係も正直ギクシャクしている。この先どう生きていけばいいのか

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