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アルマートイフェル

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自己保身に走る人間たちが右往左往する姿を見たくないか?  その魔王は、愉快なステップを踏み鳴らし、口笛を吹いて現れる───。
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記事一覧

アルマートイフェル【第七話】

アルマートイフェル【第七話】



「もうすぐ夜だってのに、蒸し暑ぃな、おい」

 待ち合わせ場所の鶴松駅で、先に来ていた僕と合流するなり、陽は苛立たしげに眉をしかめた。八月十四日、木曜日。病床の恩師と───今や恩師とさえ思っていないけど、武蔵野先生と再会を果たした、翌日だ。この日も相変わらず朝から雨雲がうろついていて、さらに気温も三十三度ということもあって、いつも以上に湿気が多く、息をするだけで体力を消耗するような、そんな一

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アルマートイフェル【第六話】

アルマートイフェル【第六話】



「それ、絶対お前のこと好きだって」

 八月十二日、火曜日。ベッドの上に腰かける陽が、クッション製の小さなサッカーボールをこねくりながら、そう言った。子供の頃から見慣れた部屋の壁にはひと世代前のサッカー選手のポスターが貼られ、小さな液晶テレビには埃が被り、勉強机には高校の教科書や赤本がいかにもガサツといった感じで雑然と並んでいる。陽が小学校から高校を卒業するまで使っていた彼の子供部屋だ。

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アルマートイフェル【第五話】

アルマートイフェル【第五話】



 夢を夢だと自覚するのに、そう時間はかからなかった。

 眩い白光によって視界のすべてを奪われた世界で、どこからか声が聞こえてきていた。夕美の声だ。無重力の空間に放り出されたみたいに僕の体は宙を浮遊し、ただそこに彼女の声だけが反響している。

『───京ちゃんはなにも分かってないよ。人は誰だって誰かに助けてほしいと思ってるんだよ』

『───でも、他人の揉め事に首を突っ込んでもロクなことない

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アルマートイフェル【第四話】

アルマートイフェル【第四話】



「お前の方から連絡してくるなんて珍しいよな」

 花吉中央駅近くの狭い居酒屋の一席で、僕にとっては唯一の親友であり、幼馴染でもある烏山陽が、どこか緊張を滲ませた様子で焼酎の熱燗を右手であおった。普段飲みに行こうなんて絶対に言わない僕に突然呼び出され、なにかあるんじゃないかと戸惑い半分、警戒しているのだろう。

「ま、たまにはいいかなって思ってさ」

「なんだよそれ、気持ち悪いな」

 怪訝に

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アルマートイフェル【第三話】

アルマートイフェル【第三話】



 午後から降り出した雨は次第に激しさを増していた。市立病院から花吉中央駅まではバスを使い、駅から自宅アパートまでは歩いて帰った。ほんの十数分の道のりを歩いただけで全身びしょ濡れになってしまったけれど、なんとなく、道中のコンビニで間に合わせの傘を買う気にはなれなかった。

 自宅は、就職を機にようやく実家を離れて越してきた二階建てのボロアパートだ。広さ八畳ほどの1Kで、家賃は3万2000円。決

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アルマートイフェル【第二話】

アルマートイフェル【第二話】

【第一幕】



 天井の蛍光灯が眩しくて、僕は咄嗟に目を閉じた。暗くなった視界に光が弾け、その中にぼんやりと人影のような残像が浮かんだ。

「京ちゃん───」

 その人影に名前を呼ばれたような気がして、ハッとまぶたを持ち上げる。

 市立病院の大部屋だ。窓際のベッドに横になる父、忍三が、天井から注ぐ白色蛍光灯にさらされた眼窩を鋭く僕の方に向けてきていた。

「おい、京太、聞いてんのか」

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アルマートイフェル【第一話】

アルマートイフェル【第一話】

◎あらすじ◎
 高校三年の冬、人生で初めての恋人だった北野夕美をホームレスの男に殺された王島京太は、以来、ずっと抜け殻のようになって生きてきた。
 事件から十二年が経った、夏のとある日、そんな京太のもとに、一通の手紙が届く。
『北野夕美を殺したのは誰だ』
 この手紙の到着を機に、京太の身の回りで不可解な出来事が次々と起こり始める。───果たして手紙を送りつけてきたのは誰なのか。そして夕美を殺した本

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