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【読書ノート】67『その島のひとたちは、ひとの話をきかない――精神科医、「自殺希少地域」を行く』森川すいめい

精神科医でありホームレス支援団体「てのはし」の創設者でもある著者が、日本の「自殺希少地域」五か所を巡ったフィールドワークの記録。(この五か所は徳島県旧海部町(現・海陽町)・青森県風間浦村・青森県旧平舘村・広島県下蒲刈島・東京都神津島)これらの地域に共通していることをまとめたものだが、「困った人を放っておかないこと」などはじめ、著者の「気づき」は多くの示唆に富んだ内容になっており興味深い。多くの人が読むべき内容。

序章 支援の現場で
第1章 助かるまで助ける
第2章 組織で助ける
第3章 違う意見、同じ方向
第4章 生きやすさのさまざまな工夫
第5章 助けっぱなし、助けられっぱなし
第6章 ありのままを受け入れる
終章 対話する力


以下、気になった個所を抜粋

意思決定が現場の声に基づいて行たかどうかは、組織、「地域という組織」においてもとても大事なことだ。情報は現場からひとによって上層に伝えられる。伝わる情報はすでに偏っている。その机上にのみあがった情報を、頭のよい、しかし現場を知らないひとたちがまとめ、計画を立て実行する。あがってきた情報が正しいのか、情報の何を選択したのかは保証されない。頭の良い、しかし、現場は知らない人たちがまとめ、計画を立て実行する。頭の良いひとたちは、まとめ方とまとめられたものに対しての分析や解決方法の選択が上手である。 やり方は正しいということになる。 しかし、あがってきた課題 が間違っていたとしたら、どんなに良い計画を立てたとしてもうまくいくはずがない。
答えは現場にある。その現場で意思決定があるかどうか。
組織の良い結果に、このことは大きく影響する。
どんなに良い方法を上手に、完璧に選択したとしても、そもそもの課題が間違っていれば、答えは絶対に正しくない。やり方(プロセス)が素晴らしければ素晴らしいほど、何が間違ってるのかさえも分からなくなる。

105-106

ところで、円滑な組織の階層、指示系統には法則がある。組織の階層は少ない方がよいというものだ。階層の上の方で行われた指示が、階層の下の方で実行される時には全く別のものになっているし、階層の下の方であげられる報告は途中でいろいろ修飾されて、上の方に行ったころには別のものになっている。意思疎通ができないから階層が多くていいことなど何もない。
また、意思決定はできるだけ現場で行うべきである。 少しでも階層が上であるところが、現場のことを 決めるとしたら、現場感覚とずれた決定をしがちになる。少し上の階層で決めなければならないこともあるとしても、現場で決められるものは現場で決めた方がよい。あるグローバル企業は、この問題に対して現場が決めていることを決めるのではなく、現場で決めなくていけないことだけを決めた。それ以外は現場で決めていいとしている。うまくいってる企業は、少なくともこうしたマネージメントをしている。マネジメントは、人間を管理するシステムではない。マネジメントは人を大事にするための仕組み作りである。

133-134

人間関係のよい近所付き合いと悪い近所付き合いの差は、このようなとこにあるのだと思う。 近所の誰かが助けてくれたから、それでまた人も人助けをしている。生きるということは助け合わなければならないのだが、それを自然とできている。自分ができていることをする。互いに助けている。
助け合っているというのとは少し違う。助けてくれたから恩を返す、その繰り返しというのは少し違う。誰かが誰かを助けてくれて、それゆえにまた誰かは誰かを助ける。めぐりめぐって自分も助かっている。
「情けは人のためならず」
とは、このこと言うのだろうとでわかる。
見返りは必要ない。困っている人を見ると助ける。それが帰ってくると思っていない。ただ助ける。助けっぱなし。
そして、人は助けられ慣れている。助けられっぱなし。
助けっぱなし、助けられっぱなし、だ。お互いさまなのである。

140-141

職場の人間関係がよくなる最低限の原則は、目的を同じくすることである。それぞれやり方は違うとしても向かっている方向が同じだとわかっていれば、人間関係が悪くなることはない。何のために働いてるのかがわかりあえていれば、お互いの人格を否定するになるまで争うことはない。 やり方が違うだけであるから方法論の話し合いをすればいい。
向かっている方向が違うならば、議論は決して噛み合うことはない。 「正義」と「正義」の闘いになるから、お互いに仲悪くなる。
島の人たちはそのことをよく知っているようだった。

149

そして自殺希少地域の人たちは、相手の反応に合わせて自分がどう感じてどう動くかに慣れているように感じた。
それは、相手を変えようとしない力かもしれない。
「相手は変えられない。変えられるのは自分」
自殺希少地域の人たちは、大自然との対話をよくしているようだった。 厳しい自然があって、相手を変えることはできない。
よって自分を変える。 工夫する力を得る。 相手の動きとよく対話して新しい工夫をしていく。
工夫する力、工夫する習慣は、このようにして身につき、そして他の困難に直面した時も工夫する習慣が助けになっていく。

181

① 即時に助ける。
② ソーシャルネットワークの見方
③ 柔軟かつ括起動的に
④ 責任の所在の明確化
⑤ 心理的なつながりの連続性
⑥ 不確かさに耐える/寛容
⑦ 対話主義

私がオープンアプローチを知ったのは自殺希少地域の旅を開始した後だった。自殺希少地域で気づいたこと聞いたことをノートにしながらまとめていくと、この七つの原則の存在を感じることになった。

184

(2024年5月25日)


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