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【読書ノート】13「「国連式」世界で戦う仕事術」滝澤三郎

題名が少し変でなぜお笑い芸人が帯で推薦しているかわからないが、内容は「国連機関サバイバル入門」といった感じの極めてまっとうなもの。国連機関(特にUNHCR)についてよく知りたい人やこれから国連機関で働きたいと考えている人にはお勧めの1冊。滝澤氏は「難民を知るための基礎知識」の著者の1人で、監査や財務予算などの専門家として長年UNHCRやUNRWAなどの国連機関で勤務してきた。この本は主に、特に長いキャリアを持つUNHCRの経験をもとに世界の難民問題の現状とUNHCRの活動をまとめたものと、自己の経験から紡ぎだした国連機関で生き残るノウハウによって構成されている。現在の難民問題についての説明がわかりやすくあか説明されているので以下に各章を簡単にまとめてみた。



第1章 私はこうして国連職員になった

第2章  国連はグローバル化の先取り組織

国連事務局の年間費用が約3000億円なのに対して、UNHCRの年間活動費用は約4000億円、UNICEFは約7000億円、UNDPも5300億円ほどとなっています。(281-282)

国際機関の労働生産性は日本の組織の2倍以上ではないでしょうか。より短い時間で質の高い仕事をする―― 国際機関の 辞書には「 過労死」という言葉も実態もありません。(313-315)

第3章  難民問題と国連 – いま世界で起きていること

現在、UNHCRが保護・支援を行っている人々はおよそ7480万人。その対象は、難民・国内避難民・無国籍者・庇護申請者・帰還者など多岐にわたります。その中で難民以上に大きな割合を占めているのは、難民予備軍と呼んでいい国内避難民です。世界中の国内避難民を考えると、難民の約2倍になる。増え続ける難民と人数で上をいく国内避難民が、いま世界の頭を悩ませる難問の1つです。(706-708)

国内紛争の増加に伴う国内避難民の急増とその悲惨な状況を受け、20年ほど前から「保護する責任」が国際社会で議論されるようになりました。保護する責任とは、ある国で紛争や政府が国民を虐殺するような事態が起きた場合、周辺の国や国連が中心となって、本国の代わりに国民の保護に当たるべき、という考え方です。内戦状態に陥るなど国内が混乱している場合には、国際社会が人々を保護するわけです。(720)

国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)
パレスチナ難民は約500万人、世界の難民の5人に1人です。世界中の多くの難民がUNHCRの保護下にありますが、パレスチナ難民に限りUNRWAが保護します。2018年現在、540万人のパレスチナ難民のうち約142万人がパレスチナ自治区のガザに、約85万に人が同自治区のヨルダン川西岸に住み、ほか、東エルサレム、ヨルダン、レバノン、シリアなどに住んでいます。パレスチナ難民は1948年に発生し、現在は第3世代、第4世代になっています。 70年にわたりパレスチナ問題が解決をみないどころかその目途すら立たない中で国際社会は何が出来るのか。2018年、アメリカのトランプ政権はUNRWAへの拠出金の全面的な打ち切りを公式に発表しました。(797)

難民キャンプの人口は3分の1に減少
難民全体の数は増えているが都市部に出ていく人々が増えました。都市部のスラムなどで暮らす難民が増えているのです。現在、難民キャンプにいる難民は2000万人を超す総数の約3分の1程度です。他方で、 580万人の難民が20 年以上の避難生活を送っている現状があり、「長期化した難民生活」が問題になっています。これまでキャンプを中心に支援してきたUNHCRですが、 このような実態を踏まえ、今後は都市部の難民も支援すべきではないか、という議論を2009年から始めました。(840-843)

参照:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/122600573/

難民グローバル・コンパクト
難民支援には多様なステークホールダーが関与すべきこと、民間セクターと連携して革新的な人道支援の方法を探べきこと、人道支援と開発援助を結び付けた包括的なアプローチをとるべきこと、出身国、受け入れ国、第三国の間の公平な責任分担を図ること、などが謳われています。(851-853)

2018年12月、国連総会はUNHCRが準備した「難民に関するグローバル・コンパクト」を採択しました。
1. 難民支援には多様なステークホルダーが関与すべきこと
2. 民間セクターと連携して革新的な人道支援の方法を探すべきこと
3. 人道支援と開発援助を結び付けた包括的なアプローチをとるべきこと
4. 出身国・受入国・第三国の間の公平な責任分担を図ること

その上で、4つの新しい方向性を示しています。
① 第1は、難民の受け入れ国と協議をして、 難民に教育と労働の機会を与え、経済的自立を促進すること。(853-855)
② 第2は、受け入れ国に対する支援です。トルコやレバノン、ヨルダン、バングラデシュなど貧しい国にたくさんの難民が流れ込む中で、学校や病院が混雑する、物価が上がるなど、多くの問題が起こっています。そうした大変な重荷を背負いつつ、受け入れ 国になってくれている開発途上国の負担 を、先進国 がODA( 政府開発援助)などを通じて財政的支援を与える形で軽減するのです。(861-865)
③ そして第3 には、キャンプに何十年もいて、先がまったく見えない、しかも体が不自由 だったり寡婦だったりなど、非常に弱い立場である人たちを、日本を含めた先進国が「 第三国定住 事業」という形で受け入れることです。似たようなものに、難民を留学生として受け入れる方法もあります。(867-869)
④ 最後に、一番難しいことですが、難民が逃げ出した国の内戦を終結させて、政治の安定化を進め、難民の自発的な本国帰還を可能にする、つまり、難民の発生した根本原因を正すということです。(870-871)

しかしながら近年、多くの国が難民締め出しを図っている。アメリカは第三国定住の受け入れ数を10万人から3万人へ減らし、難民支援予算を削る。

参照:http://www.ungcjn.org/gc/

参照:THE GLOBAL COMPACTS ON REFUGEES AND MIGRATION
https://www.kaldorcentre.unsw.edu.au/sites/default/files/Factsheet_Global%20Compacts_Nov2018.pdf

日本の難民政策
日本の難民政策は特異です。難民条約に加入後の1982年から2018年末までの37 年間の統計をみると、日本政府はわずか750名を難民として受け入れたのみ。いまだ年間30名(2015年から2018年の平均)しか難民として認めない日本の難民認定制度は国際的にほとんど意味を持ちません。(876)
参照:「日本:公正な難民認定を」https://www.amnesty.or.jp/news/2019/0328_8026.html

実際、日本に来た難民の多くは不安定な低賃金の仕事に就き、経済的にも恵まれていない。永住資格や国籍取得も難しく、そうした現実が難民同士の口コミで広がり、日本は何美音に人気が無いのです。仮に北朝鮮が崩壊した場合、評論家の中には「何十万もの難民が日本を目指してやって来る」と言う人がいますが、これは政治的意図を持った発言とみていいでしょう。日本海の荒波を渡る船もなく、燃料もなく、何よりも反日教育がいき届いた北朝鮮からの難民は、かつての北朝鮮帰還事業で在日朝鮮人の夫とともに渡った日本人女性の子孫を中心に、せいぜい5000人程度だろうとUNHCRは推定しています。日本は隣国の難民にさえ人気のない国なのです。最後に、仮に日本で庇護申請をしても、法務省によって難民認定される可能性がごく低いことも挙げられます。2014年から18年の平均難民認定率はわずか0.27% ( 902)

UNHCRと日本の公式支援窓口である国連UNHCR協会では、2007年から日本にいる難民に大学教育の機会を与える事業「難民高等教育プログラム」を展開しています。これは認定難民や人道的特別在留許可者として日本で暮らす者のうち、大学や大学院で勉強したい人を支援する制度で、具体的には入学金・授業料などの免除のほか、生活費として毎月10万円ほどを大学に援助してもらうものです。(932)

参照:UNHCR難民高等教育プログラム https://www.unhcr.org/jp/refugee-higher-education-program

難民に門戸を開くことともう一つ、日本の難民政策の最大の貢献は資金支援です。外務省が担当する日本からの支援は年々減っていますが、それでも毎年UNHCRに対する支援として120億~130億を拠出しています。これは100万人単位の難民の命を救う金額。その他に世界食糧計画WFPへの拠出や難民受け入れ国への財政支援もあります。その点では日本政府はとても良い仕事をしています。また特筆すべきは民間レベルでの難民支援が活発になっていること。2018年に国連UNHCR協会にはおよそ12万人が36億円もの寄付をしています。(963-972)

ポール・コリア、アレクサンダー・ベッツの "Refuge"
難民支援のための資金については、ともにオックスフォード大学教授で難民研究で有名なアレクサンダー・ベッツとアフリカの開発経済学者のポール・コリアが、2017年に共著で出した Refuge: Rethinking Refugee Policy in a Changing World の中で有意義な提案をしています。彼らのアイディアを一言で言うと、難民には周辺諸国に留まり教育や労働を通して自立してもらうこと、そして、先進国が周辺国にODAや民間資金を大量投入する、というものです。例えば難民がヨーロッパ諸国に逃げてきた場合、支援のために1人あたり年間で最低100万円がかかっています。ドイツを例にとれば年間2兆円くらいが難民支援に使われているのです。莫大な費用のその半分でもトルコやレバノン、ヨルダンなどシリア周辺の受け入れ国に供与する。こうした国々は先進国に比べて、物価が安いため難民支援資金の価値がヨーロッパ諸国の何倍にもなるのです。つまり同じ額で何倍もの難民の支援が出来る、またはより手厚い支援が出来るのです。経済的には極めて合理的な解決方法です。具体的にはODAや民間資金を周辺受け入れ国に供与して「難民経済特区」を作り、現地人だけでなく難民たちも働けるようにする。難民が自立するとともに現地の雇用にも役立つという提案です。(972-982)

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第4章 私が見た世界の人々

レバノンはシリア難民の流入に際してキャンプの設営を認めていませんが、その大きな理由が12のパレスチナ難民キャンプに住む約45万人のパレスチナ難民です。1970年にヨルダン内戦に敗北してレバノンに逃れてきたPLOは、難民キャンプに勢力を張りイスラエルの攻撃を招くなどレバノンにとっては深刻な安全保障を引き起こしました。同国のキリスト教徒とイスラム教徒の対立に加えた不安定化要因となったのです。(1353)

難民キャンプを作ればそこに難民が定住し、治外法権もしかねないという恐れがレバノン政府がシリア難民キャンプを認めない理由です。ですからパレスチナ難民に限らず、シリア難民にも定住の呼び水になりかねない労働許可を出さないなど、レバノンの難民は苦しい境遇に置かれています。(1363)

サウジアラビアやクウェートなどの湾岸産油国では、エンジニア、教員、医師、ビジネスマン、役人として活躍するパレスチナ人がいたるところにいる。パレスチナ人のおかげでこの地域の社会的、経済的開発は飛躍的に進んだ。湾岸産油国の70年代のオイルブームをきっかけとして爆発的経済発展はパレスチナ人なしには考えられない。

UNRWAの教育活動はミクロレベルで個々の難民の経済的自立を助けるだけでなく、マクロレベルで優秀な人材作りを通して中東の発展を助けてきた。UNRWAの社会経済開発期間としての役割はもっと知られるべきであろう。(1306)

第5章 国連という視点からみた日本と日本人

アメリカ人の文化人類学者エドワード・ホールが1976年の著書 “Beyond Culture” で唱えた「ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化」というのがあります。「コンテクスト(文脈)」とは、コミュニケーションの基盤である「言語・共通の知識・体験・価値観・ロジック・嗜好性」などの同質度と共有度合いを言います。それが高いときにハイコンテクスト(高文脈)と言い、低い時にローコンテクスト(低文脈)と言います。

高文脈文化が支配的な国は、日本を筆頭にアジアや中東諸国で、低文脈文化はアメリカや西ヨーロッパ諸国、特にイギリスやドイツなどだと言われます。多くの国際機関はアメリカやイギリスの主導のもとで出来上がっているため、そのコミュニケーション文化は「低文脈」です。

国際機関に日本人職員が少ない根本的な原因がこの「コミュニケーションの壁」にあると私はみています。つまり高文脈文化でのコミュニケーションスタイルから、低文脈文化でのコミュニケーションスタイルのスムーズに切り替えが出来る人材、「コミュニケーション文化の壁」を乗り越えることのできる人材が少ないのです。

日本人が国際的に存在感を示せない最大の理由は、「アイディア不足」にあると私は思っています。その背景の1つは、知識偏重で「考えること」や「伝えること」を重視しない教育制度でしょう。その背景の1つには知識偏重で「考えること」や「伝えること」を重視しない教育制度でしょう。それは言語化を重視しない高文脈文化の結果でもあり、原因ともなっています。

https://www.amazon.co.jp/dp/0385124740/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_0OM2EbCQW0W8R

第6章 個人としての国際競争力をつける9か条

*会議に出席したら意見は必ず1度は言う。長い発言よりはポイントを絞った発言のほうが歓迎されます。

*上司の最大の関心事は、部下がいかに自分の求めるような業績をあげてくれるか。あなたの貢献が自分にとっての利益になると上司に感じさせれば、上司の管理は成功です。

*上司からの支持の有無は、あなたの日頃の組織内での評判によります。業績をきちんと積み上げた上で、その業績を上司だけでなく、他部局の職員の目に触れるようにしておくことが、あなたを守ってくれるのです。業績をリストアップしておくことは、ほかの組織に「避難就職」する際にも役立ちます。

* 与えられた仕事量を10とした場合、プラス2割ほど将来に役立つことをする。軸足は仕事に置きつつも、20%の追加的努力で自分の守備範囲を広げる。上司の立場から見ると、与えられた仕事をこなすだけでなく、新しい課題を見つけ、解決策のオプションを持って来てくれる部下は重宝。

その他の参照文献:難民を知るための基礎知識

https://www.amazon.co.jp/dp/4750344168/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_U9M2EbEYYZKAQ

https://www.amazon.co.jp/dp/B073TXCVHY/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_NqN2EbF3YXW1C

(2020年6月5日)


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