奥さんの早起きの理由
近頃、陽が昇るのが早くなってきた。
それに合わせて子の起きる時間も日に日に早くなってきている。
太陽の光で目覚めるのが一番健康的と聞いたことはあるが、5時台に起こされると正直しんどい。
しかし、それが何日か続くと不思議なもので私も起きれるようになった。
去年も、子の早起きには悩まされていたが、その時は朝散歩を習慣にして乗り切った。
今は散歩の気分ではないらしく、おもちゃで遊んだり、朝ごはんを食べたりしている。
起こすだけ起こして、後は別に私がいなくても平気なようで、私は私で本を読んだり、作業をしたりして各々で過ごしている。
この時間何かしたいなと思い、前から興味を持っていたが、手を出していなかった農業をすることにした。
農業と大層に言っているが、まあ要するにただの家庭菜園だ。
手始めに、レタスと枝豆の種を蒔いて、毎日水やりをしている。
ただ水やりしてるだけだが、丁寧な暮らししている気がして、自己肯定感が急上昇した。
先日は、知り合いが主催していた味噌作りにまで参加した。
そんな丁寧な暮らし風を満喫している私に、仕事つながりの人から「とれたての筍いらない?」と連絡をもらった。
下処理が面倒だというイメージは持っていたが、「誘われたら断らない」という自分ルールがあり、丁寧な暮らし風を実行している私に断る理由は存在しなかった。
まだ土のついている筍を3本持って帰ると、妻は驚いていた。
「米の研ぎ汁とか、米糠と一緒に煮るんやっけ?」
驚いていた割には、すぐに状況を飲み込み、下処理はお願いできそうであった。
丁寧な暮らしをしている人間であれば、自分で行うか一緒にするところだが、
丁寧な暮らし「風」な私は、下処理大臣を任命し、食べる専門家になった。
次の日、まだ外は暗かったが、もぞもぞと布団から起き上がろうとする気配を感じた。
子の早起きもついに、夜明け前まできてしまったかと思い、
「まだ早いよ」と声をかけた。
「早く筍しなあかんから」
予想外の声の主が、予想外の発言をしていた。
時計を確認すると、4時であった。
普段、子が起きても寝ていられる、妻が、筍を早く下処理をするという責任感だけで早起きしてくれた。
「唐辛子もいるらしい」
という言葉を残して、24時間営業のスーパーにも走ってくれた。
「早くしなあかんかもやけど、4時に起きんでよかったんちゃう?」
「いや、筍は早く下処理しなあかんから」
7時頃には、アクを取った筍が仕上がっていた。
「何で食べる?」
妻に聞かれ、
「筍ご飯、若竹煮、天ぷらかな」と頭に浮かんだメニューを伝えた。
「お、いいねー」
美味しい日本酒でも買っておこうかなと、考えていた矢先、
「あ、今日は食べられへんからな」
と妻に言われた。
「これで1日おいとかなあかんから」
食べる専門家の出番は明日以降になるらしい。
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