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【収集用】逆噴射相撲教習所マガジン

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逆噴射プラクティスのぶつかり稽古を集めます。テッポウ禁止。
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記事一覧

『ひとりぼっちの土俵戦争』

『ひとりぼっちの土俵戦争』

パンッ

乾いた柏手の音が住宅街へ響き渡る。深夜0時。静止した時間の中で塩を打ち力水を啜る。満月が煌々と照らす十字路の中心で大横綱・不二子藤が蹲踞して今宵の対戦相手を睨み付けた。その対戦相手とは、大横綱・不二子藤その人である。

二人の不二子藤が同時に拳で地を突く。未だ取り組みは始まらない。両横綱は値踏みしあい、取組相手が己と同じ力量であることを見抜く。

いままで土俵上で己(オレ)に勝てる相手は

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闇太陽と摺り足のプリンス

闇太陽と摺り足のプリンス

 びゅうびゅうと吹きすさぶ風に耐え兼ねて千切れた藁の塊が転がりながら街道を横断していく。砂塵の先に列をなす荷役の摺り足が見え始めた。彼らは一様に裸で腰に一本の布を廻しただけの軽装である。ズリッズリッと彼ら荷役特有の足音が聞こえてくる。「ちゃんこ」の到着だ。

 クーデター以降、前政権に見捨てられた寒村ハカタにもこうして食糧が届けられるようになった。村長は、ほっと安堵して間近に迫った護送荷役力士群(

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『闇太陽と摺り足のプリンス』 0場所目

『闇太陽と摺り足のプリンス』 0場所目

(ぺターン、ぺターン)

支度室内の「テツポウ禁止」「満員御礼」の札が色あせている。

東京大深度力士力発電所。注水され人心地ついた力士達で支度部屋はごった返している。「ごっつぁんです。」「ハァーハァー自分の相撲が取れました」「ごっつぁんです」思い思いに休憩時間を過ごす力士達。[関][電]と刻まれた明荷に腰を掛けるのは彼らの中でも上役の関脇関電関である。

「お前ら……」

「ウッス」「ウッス」「

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「最後の魔法!恋の千秋楽」

「最後の魔法!恋の千秋楽」

『うっちゃり~~!! またも奇跡の逆転で14連勝!』

魔女から願いが叶うまわしを受け取った私は連戦連勝! ついに千秋楽で「あの人」の胸を借りることになったの。でも、このまわしは願いを叶える度に短くなる呪いが……。たいへん!土俵でまわしが外れちゃう!?

『明日の取り組みでは全勝同士で横綱との決戦を……』

でも、ここまで来たからには”誓い”にかけてあの人に全てをぶつけてやるんだから!

物語は先

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デス相撲夏場所4日目

デス相撲夏場所は4日目となりました。ラジオの解説は航空技でお馴染み、横綱ミラー富士のミラー富士星矢さん、実況はわたくし半田でお送りします。ミラー富士さん今日はよろしくお願いします。「よろしくお願いします。」
さて土俵上は今場所絶好調、西の十両筆頭オマンコと、対して十両陥落までもう後がない平幕の雷振(らいふる)ですが、ミラー富士さんはオマンコをどうご覧になりますか。「まー、オメコはねえ」オマンコです

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デス相撲

俺が土俵に上がれるのは一体何時までだろうか。

後10年(35歳は欲張り過ぎか?)それもいい。

後半年(結婚5周年。妻は相撲を早く辞めて欲しいと言う)それもいい。

後1週間(この場所まで。今場所優勝すれば横綱になれる)それもいい。

後5分(この取組まで。鉄塊山はそれに相応しい力士だ)それもいい。

後2秒(この命尽きるまで。尤もー

俺が鉄塊山の榴弾を避けそこねたらの話だ。

勿論俺は鉄塊山

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ジャズ相撲

ボブの山の鮮烈な立合は正にアーシーだ。張り手で浮かした体に潜り込むように左下手、右手でサックスを保持しセッションを開始した。

私は張り手もさることながらその高く安定した吹き出しに狼狽えてしまった。(出遅れたっ!)そう思ったときには遅すぎる。

土俵際、私のドラムセットは単調でまるきりメトロノームのように4ビートを打っている。行事は机にこぼれたケチャップを見るような目で私を見ていた。仮にもジャズ之

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相撲ラブ

荒見山の分厚い胸を借りながら、ふと俺は考えていた。もし俺が筆頭の位置から小結、関脇、大関、ましてや横綱になった時。俺より8も年上の荒見山はきっと幕下へ落ちているだろう。

荒見山と目が合う。俺は右下手を探ろうと手を伸ばしたが、荒見山が手首を掴んで止めた。(相変わらず悪戯好きだな)そう目が語りかけてくる。(悪い力士には可愛がりをしないと…)俺は荒見山の四つ相撲に巻き込まれる。

あぁ、俺は突き押しの

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セレブ相撲

「あら、随分とお部屋に優しい廻しをつけてらっしゃるのね」

土俵上で声をかけてきたのは美麗山関だ。西の前頭筆頭。十両から上がりたての私にとっては雲の上の存在だ。まだ立合いは成立していないので、塩を撒きながら答える。

「あ、ええ、幕内に上がったから」

「貴方にはお似合いの貧相な色合いの廻しだわ」

「そんなっ…」

この廻しは部屋で初めて幕内に上がった私のために、親方やおかみさんが選んでくれた大

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相撲クラウド

私は今、領域〈天鳳〉へ侵攻します。timeは200でアウト。スケールDOHYOより〈天鳳〉を追放し『押し出し』を狙う。10、領域〈天鳳〉は動かず。『立合』での立ち遅れの可能性あり。勝利確率を4%上方修正。領域を20拡大しスルー。20領域〈天鳳〉はリアクションせず。『張り手』選択。データ移送開始。30後に『張り手』成立。〈天鳳〉コネクションアウト。領域を探索。発見できず。領域を探索。発見できず。領域

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相撲探偵

「大魔力をビルの屋上から押し出した犯人は、この中に居ます。」

私、天魔灘は集まった人達にはっきりとそういった。ここに居るのは呼び出し行事親方等の相撲の関係者ばかり。現役の力士は私を除き幕下であろうと一人も居ない。

「じゅ、十両風情が、何を言っているんだ!」

竜巻親方が物言いを付ける。当然だ。大魔力は目方300kgを超える巨漢力士。さらに得意は突き押し。例え幕内力士が不意を付いたとしてもビルの

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相撲・エンディング・ストーリー

本に引き込まれたバスチ山が目覚めたのは無限に広がる土俵の上だった。バスチ山は興奮した。無限に広がる土俵!永遠に続く押し出し!まさに全ての突き押し力士の夢だ!

そしてバスチ山は飽きることなく日暮れまで四股を踏んだ。夜になると満天の星空が空に出て土俵に寝転んだバスチ山を包み込んだ。そこでバスチ山は思った。一人では相撲は出来ない。いや、広すぎる土俵では決着がつかない。

『えびすごころの親方』は、この

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相撲転生

相撲取りのぶちかましは軽トラックに匹敵するという。ならば横綱はどうであろうか、例えば10tトラックに勝てるか?

詮無し。10tトラックの前には横綱も太ったおじさんも差はない。神武以来の大横綱として名を轟かせた私であっても、当然のごとく即死であった。

そうして私は意識を失い、取り戻した。取り戻したのだ。すわ天国であろうかと思ったが違った。私はどこか部屋で寝ていて、それを女性が見下ろしていた。看護

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一人相撲 精霊の呪い

一人相撲 精霊の呪い

一人の力士が前に出る。これから一人相撲がはじまるようだ。
精霊と相撲をし、精霊に勝たせ、豊作や繁栄を約束させる、そういう儀式らしい。

「迫力あるね、あの人」

「元関取って書いてあったよ」

最初は興味がなかったものの、力士の迫力におされて、今では早くはじまらないかと期待している。
行司の長い語りが終わり、力士が構えた。

「のこった!のこった、のこった!」

押しつ押されつの一進一退の攻防、回

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