見出し画像

闇太陽と摺り足のプリンス

 びゅうびゅうと吹きすさぶ風に耐え兼ねて千切れた藁の塊が転がりながら街道を横断していく。砂塵の先に列をなす荷役の摺り足が見え始めた。彼らは一様に裸で腰に一本の布を廻しただけの軽装である。ズリッズリッと彼ら荷役特有の足音が聞こえてくる。「ちゃんこ」の到着だ。

画像1

 クーデター以降、前政権に見捨てられた寒村ハカタにもこうして食糧が届けられるようになった。村長は、ほっと安堵して間近に迫った護送荷役力士群(コンボイ)へ手を振り、荷下ろし地点を合図する。

 安堵したのは力士達も同じだったのだろう。村長の合図が一瞬の気のゆるみをもたらし、「アッ」摺り足を解いた一体の若い荷役が天へ巻き上げられた。昆布、ゴボウ、若鶏、と共に若い荷役は天頂に座す暗闇の太陽に引かれ「魂消て」しまった。

 あれで何か月分の食糧だったか、村長は歯噛みしながら魂消た荷役へ祈りをささげた。「Gods and Death(魂の永遠あれかし)」と。

 こうして飛鷹親方が率いるコンボイは「ちゃんこ」の四分の一を失ったもののハカタ巡業を終えた。互いに礼をして、村長は避重所へ親方を招き入れる。

画像2

 福岡国際センターに設けられた異常重力待避所は三万人の市民が暮らしている。闇太陽は体重が軽いものほど強く引き寄せるため大型の屋根のある施設が次々と避重所へ改装されていった。大相撲興行は中止となり力士達は体重を生かした荷役を務めることとなった。地脈の力を吸い上げる摺り足を切らせば力士といえども闇太陽へ吸い上げられる。「涙の電車道」は多数の犠牲を出しながら日本のインフラを支え続けていた。

 「ウス……この後は種子島へ巡業ス……」村長からのささやかな歓待を受け、飛鷹親方が次の目的地を明かした。

 (飛鷹、もう一度飛んでみないか)

闇太陽の重力と力士のダウンフォースが釣り合えば浮遊できる。新政府の提案は荒唐無稽とは言い切れない、この世界の法則はすでに乱れた。問題は誰が飛ぶのかということだ。

(つづく)


いつもたくさんのチヤホヤをありがとうございます。頂いたサポートは取材に使用したり他の記事のサポートに使用させてもらっています。