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There is no friend as loyal as a book.《ディスクライブ・メソッド・オンライン》《水曜日のエッセイ by アミカ》


水曜日の記事は文章クラブ『放課後ライティング倶楽部』メンバーさんが担当です。だいたい2ヶ月くらいで順番がまわってきます。


◆◆◆

前回の続き。
ディスクライブ・メソッド・オンライン

推敲の街・ミングウェイ


推敲の街・ミングウェイに向かっていたら、途中で誤字スライムとかいうゼリー状の生き物に足止めを食らってしまった。

気持ち悪くて、さわれない。だって、ベタベタしたら嫌だし……

でも、触らずに通ることは出来なさそうだ。見るまにどんどん増えている気がするもの。泣きそうになっている私の前に現れたのが、マリーだった。


今、私はマリーの家にいる。
誤字スライムに困り果てていた私を自宅まで連れてくると、マリーは言った。


「はじまりの街にいたあの子、私の友達なんだ。あの子はこの世界に来た人を案内するのが仕事でね。ミングウェイでは私が旅人を引き継ぐことになってるわけ」

「そ、そうなんだ……」

マリーに出してもらった温かいミルクのカップを手のひらで包み、小さくなって頷く。
ほっとする。知らない土地で人にお世話になるのは、初めてかもしれない。

チラリと彼女の方を見た。彼女自身はコーヒーが好きなようだ。マグカップを片手に、何やら考え事をしている。

初対面だけど、マリーは気さくな人だ。こうして親切に接してくれているもの。だけど、自分は初対面の人に心をオープンにするのは苦手なんだよね……。

ミルクの水面に浮かぶ小さな泡を数える私に、マリーは小さなため息をついた。

「あなたさぁ、さっきのスライムのところで困ってたけど、倒し方知らないの?」

「知らない……です」

「あれくらい倒せるようにならないと、この世界ではけっこう厳しいんだよねぇ」

対面の椅子に腰掛け足を組んだ彼女はつぶやくように言うと、ふとこちらを向いた。

「あのさ。誤字スライムっていうのは、あなたがこれまでに書いてきた文章から発生しているんだ。

 小学校に上がる頃から、人はみんな文章を生み出す力を持てるようになる。それは長い長い年月をかけて、練り上げ鍛え上げていくものなんだよ。

 だけど、生み出された文章の中には『間違った文字』が数多くある。言いっぱなし、書きっぱなしで放置されたものたち。

 世に放ってしまったそれらが長い間放置されて、ああしてモンスターの形を取って現れるんだよ」


怖い!! なんて世界なんだ。
これまでの自分の誤字なんて、全く記憶にない。覚えていないものが、自分を襲ってくるなんてことがあるの?

驚いている私を見て、彼女は続けた。

「……自覚がないでしょ? それがこのスライムの発生原因だよ。

 自分の書く文章や発した言葉にどれほどの影響力があるかを考えたことがある? 『些細なことだから気にしなくていいや』その心がモンスターを生み出しているんだよ」

「……どうすればいいの?」

マリーの言葉に潜む微かなトゲを感じて、ちょっと怖くなる。

「こちらのレベルが上がれば、あの程度のモンスターは一瞬で倒せるよ。倒すにはいろんな方法があるけれど……まあ、王道のやり方は『呪文を唱える』かな」

「呪文?!」

「そう。 呪文といっても簡単なものだよ。慣れれば誰にだってできる」

立ち上がると、彼女は本棚から辞書を持ってきた。角がボロボロになり、表紙も擦れている。

何度も何度も使われたのだろう。それでも、乱暴に扱われた雰囲気はない。むしろ、大事にされてきた空気をまとっている。

「最初は辞書が必要だろうねぇ。何せ、力も何も備わってないんだから」

そう言いながら、辞書を片手に彼女はつぶやいた。


『There is no friend as loyal as a book.(書籍ほど信頼できる友はいない)』


柔らかい光が辞書から放たれて、スゥッと消えた。

「辞書を持って、今の呪文を唱える。それだけで、誤字スライムは消えるよ」

「……それだけで、消えるの?」

「うん。彼らは誤字の魔物なんだ。丁寧に文章に向き合い、読み返してあげるだけで消える。声に出すのが一番効果が高いかな。でも、解決策を知っているだけではダメだよ。何度も何度もやっていくとにスムーズに対処できるようになるからね」

彼女が大事そうに持つ辞書と自分の真新しい辞書の表紙を見比べた。ここまでに、どれだけの努力を積み重ねてきたのだろう。聞くと、彼女は新聞記者をやっていたのだそうだ。書いた文章を何度も読み返し、辞書で調べ、丁寧に向き合ってきた歴史があの辞書に刻まれているんだ。

自分の辞書を抱きしめる。つるんとした表紙は、これからの旅路に向けて静かに身構えているようだった。

私はまだ、何者でもない。だけど、ここから先に進む道を拓くのは、何者でもない自分なんだ。

こちらを心配そうに見ている彼女の目を、正面から見つめた。

あちこち旅をしてまわっても、自分から逃げることはできない。

「私も、やってみる」

ようやく彼女が、笑顔を見せてくれた気がした。


(つづく)


[ライター:アミカ]

◆あとがき
ヤスです。ことばと文章が支配する架空のゲーム世界の創作物話。仲間内でいろいろ設定を考えたりプロットを作ったりして楽しんでます。そのうち「小説家になろう」に投稿しようぜ。

◆66日ライティング×ランニング参加者様
《3月26日23:59までの投稿》

#66日ライラン
#66日ライラン19日目

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