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読書感想

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読んだ本の感想。主に読書メーターから転載。たまに長いものも。
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#読書感想文

愛【読書感想】

愛【読書感想】

井上靖は、中学の頃に読書感想文の課題だった。自伝小説を読んだのだが、誰かから「読め」と言われた本を面白く読めたためしはなく、ただ長くて辟易した記憶しか残っていない。

この本は対照的だ。三つの短編がおさめられ、100ページちょっと。ところがサクッと読めるかと言えば、そうではない。文章が濃密な感じがする。細かい見落としがあるだけで、読んだ感触が大きく損なわれてしまう。

短編はそれぞれ、特徴がある。

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グレート・ギャッツビー【読書感想】

グレート・ギャッツビー【読書感想】

華々しい物語だった。影があるから、光は存在感を発する。

「グレート」という題と、侘しい結末。ギャッツビー邸の華やかなパーティーと、彼の薄暗い過去。一途にデイジーを追い続けたギャッツビーと、不貞に走るデイジーの夫。そして、生き残るものと、死ぬもの。

この小説は、対比の構図が随所に仕組まれている。映画で言えば、シャンデリアの明かりと、街灯ひとつない夜道のシーンが反復するようなものだ。読者は必死に目

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読書感想-正欲(朝井リョウ)

読書感想-正欲(朝井リョウ)

人は、「分かってほしい」と「分かられてたまるか」のはざまで生きている

■性的欲求、それは思考の根源にあり、もっとも密かな場所に隠れている。マイノリティ・多様性の看板が光を浴びるほど、闇は濃くなる

■性的欲求が普通とは異なる人たちの物語だ。ただ、この本を読むと、「普通ってなんだ」という気持ちになる

■境界は薄れ、消える。「相互理解」という美辞麗句への絶望が生まれる

■人と人との間は「良い誤解

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読書感想-アキラとあきら(池井戸潤)

読書感想-アキラとあきら(池井戸潤)

面白かった。分厚かったが一気読み

■父の工場が潰れて家を追われた山崎瑛と、郵船を柱とする一族系企業の御曹司として生まれた階堂彬。二人は同じ銀行に就職し、出色の活躍をする

■生い立ちは正反対だが、2人のアキラは結構似ている。ライバルではなく、むしろ手を携え、困難に立ち向かうのが新鮮だ

■親族が反目しあい、階堂の家業は傾いてゆく。その様子も興味深い。なぜ会社は沈むのか。なぜ経営判断は誤るのか。学

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読書感想-HHhH(ローラン・ビネ)

読書感想-HHhH(ローラン・ビネ)

▽小説というより散文

どうも255文字の制限があると、なぞかけのような感想になってしまって良くない。

自分向けのメモなので極論構わないのだが、後で読み返しても「よく分からん」ということもままある。しかし別に手を抜いて書いているわけでもないから、労力が勿体ないような気もする。

ナチの高官を暗殺すべく、亡命チェコ政府が本国に送り込んだ2人の青年を軸にした物語だ。史実に基づいた小説であり、著者が相

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読書感想-生物はなぜ死ぬのか(小林武彦)

読書感想-生物はなぜ死ぬのか(小林武彦)

タイトルの大風呂敷にロマンを感じて購入した。人間を生物としてとらえ、誕生、老い、死の意義を問い直すのが面白かった

■説明は親切に噛み砕かれていた。「食べられて死ぬ(捕食される)か、食べられなくなって死ぬ(飢える)か」という分類の仕方も興味深い

■もはや捕食されることの少ない人間も、後進にはその場所を譲らなくてはいけない。多様性を積み上げることが、個体ではなく、生命のバトンを未来に繋ぐために不可

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