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文章(散文)

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#掌編小説

【散文詩】嵐

 風が吹く、だだっ広い草原の草たちが揺れる。太陽は黄金色に輝き、照らされた草はどこと無く黄色味を帯びている。雲は太陽の左右に光を邪魔しない様にどかんと構える。嵐が来ると思った。

 揺れる草、揺れる音、風が吹く。嵐は来る。天気予報は晴れのまま、雨は降らない、風もこれ以上強くはならない。しかし嵐が来ると思った。私の世界の一切合切の全部をコイツが吹き飛ばしてくれる、そんな気がする。面倒なことを全部を吹

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【散文詩】セミの声

身の上の細かい問題も大きな問題も何一つ解決せぬが今日はもうやめよう。セミが鳴いている、あたりに人はいない。今日は風が気持ちい、日陰のベンチで横になり、目を瞑る。寝不足で酩酊しているような頭の中は仕事のことばかりでツクツクボウシと風に揺れる木々の音に身をゆだねることも叶わない。

 家の近所じゃ生活と仕事の影が付きまとう。現実が嫌でも目と耳に入ってくる。だからこうして車を走らせ山に来る。いまだ人生の

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【散文詩】首の皮

 夕方、一日の終わりに思うのは、今日も首の皮が繋がっているという事実。実感として当たり前だが首の皮が繋がっている。
 それは今日も戦い抜いたというよりも、訳もわからず刀を振り回していたら何とか逃げ切れた様な感覚。
 目的も無く、計画も無く、ただただ楽をしたい、ダラダラやりたいと、甘えん坊の精神を胸に、本気になることを知らず、腹も括らず、場違いの戦さ場に紛れ込んではわちゃわちゃと刀を振り回し、今日も

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【散文詩】アラーム

 時計でもスマホでもアラームをかけて、そのアラームが鳴るのが怖くなりアラームが鳴る前に止めてしまう。

 山へ登り、空を見て、山の上から遠くの山を見る。そんな心休まる時間もアラームが気になる。心穏やかな時間は一瞬ですぐさまアラームの存在に気付き、意識する。焦る。
 焦燥感はあらゆる景色を切なく虚しいものへと変える。時間や日の光が儚いものに思える。すぐに夜は来て、この景色も無くなり現実に呼び戻される

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【散文詩】美しい朝日

 窓から見る朝日、今日も始まったと思う。その美しい朝日が心を軽くするか、それとも一日の始まりを恨めしむ気持ちにさせるのか。出来れば前者でありたいが、そうなのだが、だがしかしーー

 夜が更ければ更けるほど眠るのが惜しくなる、そんな日がある。それは静かな夜で何か心安らぐものに夢中になれるはずだ。そして一瞬に感じる安らぎからハッと目が覚めたその時、心はざわつき明日の朝を思う。眠りたくないと思う、そして

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【散文詩】顔

 顔ばかり老けて少しは威厳が出てきたような、ただ疲れているだけのような、そんな顔をしている。毎日朝起きると髭を剃るのだが自分の顔など全く見ていなかったらしい。今日の夕方に鏡を見て、中々老けてきたなと思った。

 顔を見れば見るほどに顔と中身の幼稚さのギャップがある気がしてくる。まだまだ毎日悩み、ああでもないこうでもない、と言って、漠然と未来を恐れている。昔は年を取ればもう少しビジョンが見えてくる

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【散文詩】帰路

 炎天下の地方都市、渋滞気味の大通りを一人で車を運転していてこのままどこか誰も知らないところへと行ってしまえ、そんなことを思う。蒸発しちまえと思う。

 青空に輪郭と陰影がはっきりした雲が少し。視野に入る、色と光はとても明るい。渋滞でのろのろ走る車の中からそんな青空と、ビルと、信号機を見て、蒸発したくなった。全部煩わしく思えた。空の青色とか見慣れたアスファルトとか信号機とかにうんざりした。別にお

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【散文詩】8月の散歩

 暗闇に意識だけがある。重だるい体のせいなのか意識にも重量があり、暗闇の中、布団を意識が押し潰しているようだ。

 夜中に目を覚ます、クリアになる意識と立ち上がるどころか寝返りも面倒に思えるほど重たい体。寝れない夜は散歩をしたい、うつ伏せで寝たまま頭の中で散歩する。大きな川の堤防を歩く。明かりはなく星がよく見える、洒落た階段があり土手に降りれる、土手には駐車場があり、昼間は人がいるが真夜中の誰も居

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【散文詩】少し眺めた

 八月、とても暑く、刺激の無い見飽きた景色は己の自信の無さと先の見えない不安に輪郭を持たせる。心は相変わらず浮足だしふらふら右往左往している。ジタバタ体を動かし、無駄に疲れ、汗をかくも何も解決していないし、一昨年の自分もずっと前の子供の頃の自分も同じように焦りからジタバタしていた記憶が蘇る。何だかまるで成長していない気がして苦笑い。眉間に皺を寄せてイーーっと歯を噛み締め、自信なさげに笑う。

 山

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【散文詩】猛暑

 怠く、重く、何もする気になれず。しかし家にいるのも落ち着かず、居てもたってもいられない。いつも頭の前にぶら下がり飛んでいる目障りな不安が嫌で、手で払っても走って振り切ろうとしても相変わらずおでこの上ら辺をぶらぶらしている。
ああ、落ち着かない目障りだ。家を出た。猛暑の暑い中、クーラーの効いた部屋に居ることもできない。何故こんな汗だくになりながらあても無く、逃げるように彷徨わなくてはならないのか。

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