【散文詩】セミの声

身の上の細かい問題も大きな問題も何一つ解決せぬが今日はもうやめよう。セミが鳴いている、あたりに人はいない。今日は風が気持ちい、日陰のベンチで横になり、目を瞑る。寝不足で酩酊しているような頭の中は仕事のことばかりでツクツクボウシと風に揺れる木々の音に身をゆだねることも叶わない。

 家の近所じゃ生活と仕事の影が付きまとう。現実が嫌でも目と耳に入ってくる。だからこうして車を走らせ山に来る。いまだ人生の目的を持たず、生きることにやる気がなく、他人に関心がない。社会に興味がない。このままではいけないと、何とか社会性を持とうと自分なりにやっているはずだがーーまだ自分の為すことが分からず、今日も一人を求めてしまった。

 今日は気持ちがいい、眠くなる。ベンチの上で横になれば少し、ほんの少しだが全てを忘れる時間があったような気がする。わずかな無の時間と現実を行ったり来たり、反復横跳びを繰り返す。

 現実世界を鑑賞物でも見るように、絵画を見るように眺める癖を、何が起こっても他人事のように思う無関心を、理不尽なことが身に降り注いでもただただ受け入れる癖を、理不尽を抵抗せず淡々と受け入れることに恥ずかしさを感じない己をーーまあ今はもう良いだろう。セミと風を全身に染み込ませろ。ほんのわずかな時間で良い、願わくば風と響くセミと匂いと大地と空気と混ざり、自我は消え去り、曖昧な存在になって漂う。何卒何卒よろしくお願い申し上げます。

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