【眠りの中で聞いておくれ】
「なにかを忘れている気がする」
電車を降りるとき。友達の家を出るとき。テレビを観ているようで、観ていないとき。ふとそう思う。
そういうとき、ぼくはキンモクセイの香りを忘れたかもしれない。雪の降った日に作った、白い滑り台のすべり心地を忘れたかもしれない。徹夜明けの朝に、食パンをかじったまま眠ってしまったあの時の眠気を忘れてしまったかもしれない。
でもそのなにかがずっとわからない。ベランダには大きな蜘蛛の巣に、小さな虫がひっかかっていた。
忘れることは川の流れ。自分を次の