つんちゃんまる

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最近の記事

リハビリSS ワンルーム/にしな

バイト行ってくるね、という声を聞いた気がして目を擦る。バタンと閉まったドアの音と、りんごの甘い匂いだけが残った部屋。 ゆっくり起き上がって伸びをする。朝と呼ぶにはもう遅い時間だけど、昨日は明け方まで打ち上げだったから仕方ない。バイトは夜から。まだゆっくりしていられる。 こたつの上にはユウが剥いて置いて行ったであろう歪なうさぎ型のりんご。二日酔いの胃袋にちょうどいい量。わかってるなぁと思いながら指で摘んでそのまま齧る。ユウの実家から送られてきたやつだな。長野はめちゃくちゃ寒くて

    • リハビリSS 君が私をダメにする

      「…このまま会社を休んで、クラゲでも見に行っちゃおうか」 片手でアラームをとめた彼が、そう言いながら私を優しく抱きしめた。月曜日の朝、もう少し微睡んでいたい時にそんな背徳的な誘いをされたら、甘えていたくなるのに。 「いいねぇ〜行きたい……」 彼の胸に頬擦りをしながらしがみついて言うと、彼はふふ、と笑って、私の頭を撫でた。 「朝ごはん作るよ」 ベットから抜け出して、そのまま洗面所へ。寝癖のついた後頭部が愛おしい。 日々をめちゃくちゃにして、やらなきゃいけないことから逃げてしまい

      • 初雪とともに

        雪が降る時、静まり返る街が好きだ。 肌を刺すような寒さが好きだ。 白く濃い吐息が、まつ毛に引っかかる結晶が好きだ。 なぜだかはわからないけど、初雪が降ると 記憶の弔いが始まる。 亡くした人や動物たち、失くしたものたちの記憶を 引っ張り出しては悼み、弔う。 初雪が降る間だけの、理由のない懐古。 多分、悲しみって寒いから。 心の底から冷えて震えた記憶が、身体の冷えに引っ張られて蘇るんだろう。 そして思い出した悲しみから、暖かかった思い出も一緒に出てくる。芋づる式に。 雪か

        • リハビリSS ふざけんな世界、ふざけろよ

          「やってらんない!」 ビールジョッキを机にたたきつけて叫ぶ。テーブルの上の枝豆が微かに跳ねた。それほどの勢いで怒りを叩きつけないと、正気を保てなさそうなほどイラついていた。 「荒れてるねえ」 向かいに座っているカナデちゃんは苦笑いしている。仕事終わりに突然カナデちゃんの部署に飛び込んで、「飲みに行こう!」と強引に誘った挙句、ろくに説明もせずに生ビールをがぶ飲みして怒り狂うような友人相手に、他に何を言えるというのか。 「荒れもするよ、私が一体何したって言うのよ」 ジョッキに残っ

        リハビリSS ワンルーム/にしな

          忘れないうちに 12/3 器器回回 母なる器

          事の始まりはスペース中に言われた 「つんちゃんも来るでしょ?」だった その場のノリでホテルを取った時点で、もう気持ちは固まってた。 今年は4回、渚さんの姿を見れた。と思ってたらまさかの5回目があるなんて。 器器回回、母なる器 遠い遠い宮崎での公演。 ここに来るために馬車馬のように働いて うっすらと耐えられない日々を超えて 高所恐怖症のくせに空を飛んだ。 誇張無しで地元より10度高い気温 これが南国か…と実感し切るまもなく日向へ向かい 気づいたら物販。 この2ヶ月くらい文

          忘れないうちに 12/3 器器回回 母なる器

          リハビリSS レスポール

          この世の愛の終わりは、マンネリが呼び寄せるのだと思う。 安心感は油断を呼び、油断は目移りを呼ぶのだ。 だから私は今、わがままの果てにグリーンカレーを食べている。まろやかなココナッツの香りが立ち込める店内で、彼は困った顔でカオマンガイと向き合っている。 「食べないの?」 「ねぇ、これ上に乗ってるのってパクチー?」 スプーンで鳥肉の上に添えられた葉をつつく。 「そうだよ」 「なっちゃん、これならパクチーないって言ったじゃん」 少し責めるような口調で言いながら、上目遣いに私を見るそ

          リハビリSS レスポール

          10/11 黒木渚 器器回回ツアーライブハウスセット最終日 KTZeppYokohamaと、小説器器回回の感想文

          ツアーファイナル(のはずだった)の今日、関東の会場は近くていいなと思いながら電車に揺られる。まじで行きやすい。 前回の名古屋は知らない土地だったし、まだ会ったことのない友達と約束してたからちょっと緊張していたけど、今回は横浜。 あと数駅先に行けば、昔の男が住んでいたアパートがある。東戸塚駅に降りたら、私は懐かしくて咽び泣くだろうか?と思えるくらい近い場所。 今回は2階席だしね、ゆっくり堪能しますわ〜。 そんな気持ちで臨んだ会場。席は宮川さん側。 ゆったりシートに座って、友人か

          10/11 黒木渚 器器回回ツアーライブハウスセット最終日 KTZeppYokohamaと、小説器器回回の感想文

          リハビリSS 「宝箱」

          「帰るの?」 「んー」 健ちゃんは気だるげに言葉とは言えない返事をして、ベッドの下に落ちたパンツを拾い上げた。間接照明が部屋の中をぼんやり照らして、表情が見えない。 何も話さないままさっさと服を着て、斜め掛けのポーチに荷物をしまって立ち上がる。私はそれを裸のまま座って見つめて、健ちゃんが何か言うのを待つ。 私の視線に気づいたのか、振り返り、私の目を見て、鼻でため息をついてから、軽くキスをした。 「…おやすみ」 うん、と小さく返事をする。いつもこうだ、もう少しだけ、と願う前に帰

          リハビリSS 「宝箱」

          器器回回ツアー名古屋9/15 ライブレポ(?)ほぼ自分の思い出話

          ※警告※ 盛大なネタバレを含みますので、まだライブ行ってねえよ!!ネタバレ踏むの怖いよ!!って方は読まないでください。 ファン友達ができた。 それは私にとって初めての存在。 色んな人たちのファンになってきたけど、「ファン同士だから」っていうきっかけで仲良くなった人は初めて。 なーちゃんはまた私に初めてをくれた。 私は性格に難があるので、好きなものを共有できる人がとても少ない 同じ熱量でいてくれないと、つまんないって思ってしまうのだ (おかげで映画やエンタメの話をできる友達

          器器回回ツアー名古屋9/15 ライブレポ(?)ほぼ自分の思い出話

          誓いを守る時が来た。

          ※これは猫が死ぬ話です。苦手な方はここで閉じてください。 あと文章としての体裁とか死んでるのでそれも嫌な人は閉じてください 前の猫、ミルクが死んだ時、ふわふわの白い毛皮に誓った。 まともな人間を名乗れる日まで、もう二度と猫を迎えない。今いるレイくんが最後。 犬もうさぎもハムスターも、何も、迎えない。 私にはその権利がない。 最期の時を知らない場所で迎えさせてしまった私に、毛皮の友達を持つ資格はない。 ミルクの毛皮に頬ずりして泣いたあの日から、1日も忘れたことは無い誓いを、

          誓いを守る時が来た。

          偶像しか崇拝出来ない。〜6/11.18 黒木渚featuring森田真奈美〜

          恥の多い人生を歩んできたから、 歩んでいるから、余計投げやりに生きてる。 自分でもその自覚はある。 自分を大事にするって、どういうことなのかわかんない。 当たり前に生きることすら難しい。 女であることはもっと。 やめちまおっかな〜、人生も女も。 今日、空飛んじまおうかな。 …そんな夜を、薬の力で超えて 疲弊しきった心に、やって参りましたよ Billboard LIVE Yokohama 6/11 Billboard LIVE OSAKA 6/18 両方昼公演。 これがあるか

          偶像しか崇拝出来ない。〜6/11.18 黒木渚featuring森田真奈美〜

          人生のタスクを終えた旅行の記録。(因島編)

          普段は黒木渚とちいかわとジャニーズに狂ってる私ですが、実は15年ほどポルノグラフィティのファンでもあります。 きっかけは母が車で聴いていた、当時のベストアルバムであるBlueとRed。人の顔に林檎の顔が描いてあるジャケット。ちなみにお気に入りはBlueのほうでした。 King gnuの井口さんも言っていたとおり、今30歳前後の人間ならば、ポルノを避けて通ることはほぼ不可能。私の中学〜高校時代を彩ってくれた曲がたくさんあります。 そんなポルノグラフィティの出身地である、広島県

          人生のタスクを終えた旅行の記録。(因島編)

          愛する叔母さんに愛をこめて。

          最近Twitterで、日本一周を終えたあと、自分の特性を苦に空を飛んでしまった男の子の、最期のツイートが話題になっている。 それを見て思い出した、叔母さんの話。 うちの叔母さんは長いこと病気で、何度も何度も死にかけて、何度も生き返った。 1年前、ついに力尽きたころは49歳。 あまりにも若かったけども、実はもっと若くして死ぬ機会があった。 病気がいちばん重く、いつ死んでもおかしくないような調子が続いた頃、叔母は夫である叔父に「もう死にたい」と訴えた。 そして叔父はそれを受け入

          愛する叔母さんに愛をこめて。

          愛が欲しいのは煩悩か?

          最近、「私達は欠けた器だ」と話した。 人とちょっと家庭環境とか経験が違うから、私の愛情を受ける受け皿は、底に小さな穴が空いてしまった。 いくら愛されても、チョロチョロこぼれて決して埋まることは無い。だから、欲しがる。 私や私の友達は、その埋まらない受け皿を埋める代わりに、人に愛や優しさを分け与えることで自分を保っている。 気を使って優しさを撒いて、愛を伝えればその半分くらいは返ってくる。 返ってきた優しさを受け取って、器に入れて、また底からこぼれるものを手で掬いとってばら撒

          愛が欲しいのは煩悩か?

          予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる東京公演ライブレポという名の、超個人的なラブレター(ネタバレを含む)

          この日をどれだけ待ったことか。 黒木渚、『予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる』ライブツアー、東京公演。今回は一人参戦。 わくわくしながら、去年の秋のことを思い出していた。 前回の『死に損ないのパレード』では奇跡みたいにいい席を引き当てて、ステージの真ん中のマイクの真ん前で、手を合わせて泣き続けた。 「死のうと思ったんですよ」 と、カラッとした声で、でも核心に迫る目で言った渚さんの顔をずっと思い出していた。 渚さんが死のうとした数年後、私も死のうとして でも私たち生き

          予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる東京公演ライブレポという名の、超個人的なラブレター(ネタバレを含む)

          黒木渚という1人の女性に救われた数年間について。

          私がまだ某ブラック企業に勤めていたある日、同期の部屋で出会った、黒木渚という女性。 あの日の衝撃は非常に良く覚えている。 観ていたのはしゃべくり007。 謎の美女として現れたその人は、一瞬で私の心を奪った。 脳がビリビリ痺れるような、喉が震えるような、なんとも言い難い興奮だった。 同期のノーパソを半ば無理やり借りて曲を視聴し、やっぱり好きだ!運命の出会いをした!ダウンロード出来る曲は全て入れて、自室に帰ってからもYouTubeで過去の動画を見漁った。 まぁここから、ライブに

          黒木渚という1人の女性に救われた数年間について。