【エッセイ】コーヒー、私、冬(連作2)
「コーヒーはあまり好きじゃないの」
「どちらかというと嫌いかもしれない」
そう、これが私。
飲めなくはない。
ただ苦手で好きになれなかった。
でもこれは以前の私。
正確に言うと「苦手、嫌い」は過去形になる。
20年以上言い続けてきた「苦手」と「嫌い」という言葉は今、過去になった。
あれは学生時代の私。
大学近くにコーヒーショップが開店した。
当時開店ラッシュだった、海外から出店してきたコーヒーショップ。
毎朝毎朝その前を通り過ぎることになり、横目でお店を見ながらの通学が日課になっていった。
冷たい風が吹くとっても寒い冬の帰り道、ついに好奇心が「苦手」と「嫌い」に勝ち、
初めてそのお店に入った。
内装はオシャレで、オーダーの仕方に緊張して何度何度も頭の中で反復練習するほどだった。
列に並び、私の番に。
私はカフェラテのスモールを恐る恐る注文。
ワクワクした気持ちと不安なドキドキが入り混じりながら出来上がりを待っていた。
手の中にコーヒーカップが届く。
香りの良さにさっそく一口。
あれ?「美味しい」
とても不思議な感覚だった。
あの時の気持ち。
味わった苦みや香りはまだ覚えている。
ほんの少しの冒険と新しい味に触れるドキドキ。
そんな気持ちを含んだ初めての一口だった。
あれからコーヒーが飲めるようになるなんて。
「コーヒーを毎日」と生活の一部にするにはまだまだ遠い。
でも、あの瞬間「苦手」と「嫌い」は「好き」へと変化した。
「特別な日に特別な味わいを!」
そんな習慣が一つの楽しみとして日常に加わった。
これから、暮らしの中にコーヒーが出てくる機会が増えるかもしれない。
そんな風に思うと、毎日の生活の中で、ちょっとしたスパイスになりそうな予感がする。
あの冬の出来事でいつも思い浮かぶ言葉がある。
「タイミング」だ。
いろんなことにタイミングがある。
あの時みたいに「苦手」と「嫌い」から「好き」に変わる様に。
あの瞬間にコーヒーを味わった「タイミング」を私は愛おしく思う。
色んなタイミングで、少し少し変わっていく自分。
コーヒーと出会った様に、これからどんなタイミングの瞬間に出会うだろう。
変化する自分を増やしながら、たくさんのタイミングと一緒に新しい意外な発見が待ってると思うと、今から待ち遠しくなる。
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